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今、いる世界。参




『昼間のことは…私が悪かった。喜助の面倒な性格なんてとっくに…』

『いや、僕が悪かった。間違ってもふざけて話して良い事じゃあない…こんなコトは』

『…うん』

『夜一さんからは?』

『聞いた』

『ハイ。で、その名前はお聞きになりました?』

『聞いてない。元死神が春雨の一団を率いてて、』

『その団員は俄死神となった幻族』

『そう聞いたよ。後は喜助の口から聞けって言われた』

『…そうっスか…じゃあ、名前さん。始めに一つ、僕の質問に応えてくれますか?』

『…なに』

『貴方が二番隊に居た頃、つまり僕が部隊長を務める檻裏隊の副部隊長に貴方が就いていた頃のお話なんですが……



ー『バイバイ、"副部隊長"』



「っ、…ぅあ…」


少し前、喜助に珍しく本気で怒ってしまった日の夜。律儀なことにその日のうちに謝りにきた喜助との会話が再び頭で流れていたのだが、意識が飛ぶ寸前に囁かれた言葉に出会った瞬間、一気に覚醒した。しかし如何せん私が喰らったのは白伏。本気でかけられると一旦覚醒しても中々元には戻らない。飛び上がるように身を起こすと、案の定、猛烈な眩暈に襲われ倒れた……が。


「おっと、大丈夫ー?」


その直前に誰かに支えられた。


















ー 今、いる世界。参 ー















考えてみればおかしい。

私はこの船に誰にも気付かれずに入ったのだ。なのにまた子は私を探していた。その時点で気付くべきだった。

"霊圧"で察知されていたのだ、という事を。

完全に私のミスだ。資料は手元にあった。死神がいる可能性は十分にあった。私は、敵の発言に何の疑問も持たず自分の実力にただ驕っていただけだ。そうやって自分の安直さに唇を噛み締めていると先程私と畳との無様な接触を回避し、未だに私の背中を支えている男、西園寺祥之助が顔を覗き込んで来た。


「俺が"何"だか分かってる?」


近過ぎる顔を無表情に見ているとにっこりと笑ってそう問いかけて来た西園寺。その彼が見に纏う黒い着物ー長らく目にすることはなかった死覇装をチラリと見ながら口を開いた。


「…死神。しかも"本物の"、ね」

「わ、大正解。だけどさ、何で"俄"じゃないって分かったの?」

「六十二番を詠唱破棄、義骸とは言え元隠密機動だった私に追いつく程の瞬歩、何の混じり気もない霊圧…どう見ても死神や。しかも、平隊員じゃない」


それなりの席は持っていた筈だ。
そう言えば西園寺の目がすっと細くなった。心なしか彼の霊圧に混じる殺気が少し多くなったように感じる。だけど口は笑っている。さっきの屈託のない笑みからは程遠く、不気味だ。


「…何も覚えてないの?」

「……質問が漠然とし過ぎやないか?私は貴方を死神だとは言ったけど、現世は勿論尸魂界で会った記憶はあれへんし、霊圧も知らなかったから擦れ違ったこともない筈だ」

「君さ、十三番隊に移る前、何処にいた?」

「人の話を…」


いや、ちょっと待て。なんでこいつはこんなことを知ってるんだ。
確かに私は十三番隊の第四席だった。しかし、隊長や副隊長でもない限り名前が一人歩きすることも、顔を知られることもないし、あったとしても三席までだ。しかも彼の言い方からすると、私が四席になる前の所属も知ってると思われる。…"聞いていた"ことと違う。ストーカーか。


「失礼だなぁ〜それは君の所の局長だろ?」

「どっちが失礼だ」


身内を貶されるのはいくらゴリラでもどうも良い気持ちがしない。顔を顰めながらいい加減に手を離せと言うように西園寺の手を払った。


「もう大丈夫なんだ。流石だね」

「どうもありがとう」


おっかなびっくりと言った様子で軽く笑いながら両手を挙げて身を引いた西園寺。ちなみに今私は八畳程の部屋の真ん中に敷かれた布団の中にいる。彼が身を離したのと同時、掛け布団を跳ね除けて、枕元に置いてある斬魄刀を掴んで部屋の隅に移動した。…そもそも、コレも気に入らない。


「…随分となめられたものだな」


通常、捉えた敵の武器は手の届く位置に置かないのがセオリーだが、風車はそれを見事に破られた場所にあった。自分の方がはるかに実力が上だと言っているようなモノだ。

だけど。


「あーやっぱ怒る?でもさぁ、名前ちゃん。俺の鬼道、掛かっちゃったよねぇ」


御尤もな意見なのである。向こうが死神であることは百歩欄干を見た時点で分かっていた。つまり、これ以降はあらゆる死神の攻撃も予想しなくてはならない訳で。相手の力を勝手に低く見積もり、油断していた私は見事、捕まった。むしろ私の方が先に実力を驕ったのだ。そう見られても仕方がない。


「ああ、でも納得はしてるって顔だね」

「その結果が今の状況だからね」

「ふーん。でもさ、あの浦原部隊長の部下なら思ってることあるんじゃないの?」

「……ならそんな回りくどい質問なしに答えだけを言えば良いだろ」

「あ、やっぱあるんだ。怖いねぇー君らは」


先程セオリーを見事に破っていたのは実力を甘く見ているからだと言ったが、通常、いくら甘く見ているとは言ってもやはり警戒をして武器は側に置かない。西園寺の様にある程度の実力がある者なら尚更だ。だから、私に武器、つまり斬魄刀を持たせることに何らかの意図があるのではと考えたのだが、彼はそれに気付いたらしい。


「仲の良い団長が戦闘狂だと移るのか」

「やだなぁ、神威と一緒にしないでよ」


あははと軽く笑う西園寺を見ながら私が斬魄刀の柄に右手を掛けた瞬間。部屋に一陣の風が吹き、軽い金属音が鳴り響いた。


「俺の目的は、」

「私と一線交えること」

「そ。…しかも、」


死神として、ね。

合わせた刀越しに再び顔が近くなった西園寺にそう囁くよう言われた言葉に、一筋の汗が額を伝った。

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