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今、いる世界。弍





始解状態の斬魄刀を二度も受け止めて罅一つ入らないとは、余程頑丈な刀なのだろう。…いや、アレを最早刀と呼んで良いのかも疑問だが。新八達に結界を張って仁蔵に再び斬りかかって、そんなくだらないことが頭を過ったのも束の間。仁蔵の刀から気持ちの悪い動きをしながらコードが伸びて来た。新八の言葉が頭に甦り咄嗟に後ろに飛んで避けたのだが、鬼道を撃とうと右手を向ける間もなく今度は仁蔵が紅桜を振り下ろして来た。


「っ、大した刀だねぇ…」

「そういう嬢ちゃんは大したことなさそうだねぇ。コレは期待外れだったかな」

「【破道の七十五 灰炎】」

「!」


私が紅桜の触手に警戒していると気付いたのか、攻撃の際に既に私の腕に絡ませて来た。斬撃だけでもかなりの衝撃だったのに、更に得体の知れないモノが自分の身体を這いずり回る感覚と仁蔵の発言に、思い切り眉を潜めると、風車を持っていない方の手を仁蔵の心臓へと向けて唱えた。すると急遽私の右手へと触手が集まって来た。

…ああ、そういうことか。

恐らく紅桜は自分の持ち主の命の危機を察知すると、その害をもたらすモノへと攻撃をするのだろう。灰炎は霊圧を練りこんで可視化させた円を作り、その中にあるモノを灰と化して消す鬼道だ。当然、仁蔵の身体や紅桜などひとたまりもない。それを本能的に悟ったのか、円が彼の服を掠めるか否かぐらいで後ろに飛び上がって避けた。にしても良く悟った、と内心褒めたがまさか今の私がそんな優越だけで終わるワケもない。いい機会が出来たとほくそ笑む間もなく、風車を両手で持ち直すと、得体の知れない攻撃に若干冷や汗気味だった仁蔵の方へ振り下ろした。…恐らく人間の目には止まらぬ速さで。


「!、…あらら。持ってかれちゃったねぇ…」

「…残念。腕、一本か…」


またしても高く激しく上がった水飛沫。それが収まったと同時に私の立つ場所から二尺程離れた所にドサッと何かが落ちた音がした。それは確認するまでもなく、仁蔵の紅桜と融合した方の腕だど分かったのだが。解せないのはヤツの態度。折角あそこまで使いこなせていた紅桜が使いモノにならなくなって、そんな余裕な態度でいられるのか。死神なめてんの。そう思って今度は足を持ってイこうかと霊圧を調節していた時だった。


「…なんだ、…奉行所の連中か?」


ピィーと甲高い笛の音が辺りに響いた。何をやっているんだとか怒鳴っているが、何も知らないって恐ろしい。今、あなた方が叫ぶ先には連続辻斬り犯が自分の片腕持ってニヤニヤしてますよ。


「どうやら邪魔が入ったみたいだねぇ」

「…そうね」

「続きはまた今度」


そう言うとまるで闇に溶け込むかのように姿が見えなくなっていく仁蔵。内心、追って五分の四殺しにしてやりたいが、銀時が非常にマズいという状況が何とか私を此処に留まらせる。そして、完全に仁蔵の気配が去ってから斬魄刀を戻すと、漸く私のいる川の上の橋に辿り着いた奉行所の二人に真選組に連絡しろと伝えた。私は二人がどっかに行ったのを確認してから、銀時の方へ足早に駆けつけると、医療鬼道ー回道を全開にした。

















ー 今、いる世界。弍 ー





















「…これァ驚いたな。お前の予想通り、接触してきたァとはな」

「まぁね。伊達に、十年近く見てたワケじゃないってことだよ」

「ククク…そりゃあ、自虐か?」

「なんとでも取ってくれ」


船内のとある一室。そこは手燭が二つばかり点いているだけの薄暗い部屋で、男が二人いた。片方は窓枠近くの壁に片膝を立てて寄りかかり、もう片方は部屋の中心で胡座をかいている。


「拗ねてんのか、祥之助」

「冗談よしてよね、晋介。拗ねる、なんて一体何百年前に卒業したことだと思ってんの」


祥之助と呼ばれた男は胡座をかいている方で、長い黒い中国服に白いズボンを履き、傍らには一振りの刀が。一方高杉と呼ばれた男は、壁に寄りかかっている方で、片目を包帯で覆い、かなり着崩された浴衣を身に纏い、片手に煙管を持っている。


「二百年ぐらいか?」

「あ、案外そんなモンかも」


その言葉に高杉はお粗末な頭だと呟きながらククと笑う。


「うわ、失礼だなお前。こっちは一体君のどんだけ先輩だと思ってるワケ?」

「…分かった、分かった。悪かったから、その刀、仕舞え」


部屋に僅かな風が吹いたなと認識した時には既に高杉の首にピタリと刀が押し付けられていた。しかし、それを何とも怖がらずにむしろ、苦笑とも取れる笑いを溢しながら相手を宥める高杉。まぁ、殺気も何も篭っていなかったのだからそう反応出来ないこともないが、いきなり刀を向けられ後少し手を捻れば命を獲れるという状況に全く動じないのも如何なモノか。そう思いながら祥之助は可愛げのないヤツだなと呟くと、刀を仕舞い、手元にあったお猪口を口に運んだ。


「…どうなった、アレは」

「概ね了承している。が、お前らが人間と言うことに向こうはやはり懸念を示している」

「…そうか。…で、なんだ?」

「……そういう所、ホント鋭いよな」


さっきの巫山戯た雰囲気は高杉の最初の一言で一変。明らかに変わった空気の中、祥之助は呆れたように笑うとお猪口を置いて、再び口を開いた。


「本当に合意はしてるんだ。むしろ、歓迎してるぐらい。その証拠に今、君の部下の万斎が交渉者として来てるけど、それも良好。特に問題もなく終わりそうだ。…だけど。さっきも言ったけど、懸念は消えない。で、その懸念を払う為に奴らはあることを+αとして提示してきた。…桂小太郎と坂田銀時の首、をね」

「……」

「心中お察しするとしか言えないけど、奴らは春雨にとって消したい、」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺ァあいつらの首を獲ることに何の躊躇いも持っちゃいねぇ」

「…ふーん。じゃあ、何でそんな腑に落ちないって顔してんの」

「なぜ、もう一つの提示を言わねぇ」


そう高杉が言うと、祥之助はあからさまに「げ」という顔をした。その表情には、何で知ってるんだと書いてある。


「普段そんなに喋らないお前が今日はやたらと丁寧に説明してたからなぁ…なんかあるんじゃねェかと鎌掛けてみた」

「…うわぁ…俺の馬鹿。なんでこんな五十年も行きてない餓鬼に…」

「精神年齢は俺より下だ」


どうやら本当に落ち込んだらしい。頭を抱えてしまった祥之助に高杉はさもおかしそうにクククと笑うと、さっさと言えと言わんばかりに彼を見る。そんな高杉に祥之助はため息を吐くと、心底困ったように言った。



「…四楓院名前の拉致だよ」

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