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今、いる世界。壱





「…何件目だ、コレで」

「六件目です」

「そうか…」

「副長。何をお考えになってるか存じ上げませんが、コレは異常ですよ」

「…だよな」

「ええ、もう六件目になりますから」


将軍のペット逃走事件から早二ヶ月。結局銀時が踏み潰してしまったらしい金色の甲虫を喜助がそっくり作って松平長官に渡してから大分立った頃、世間は少し物騒になっていた。ちなみに、私はペット探しには行っていない。代わりに白がにこにこしながら虫取り網とカゴを持って行ってくれた。何故って、逆に警察である私たちが虫を捜索せにゃならんのかと問いたい。なので、その件の詳細は知らない。知りたかったら白に聞いてくれ。
まぁそんな話はさて置き、今真選組が追っている事件だが、簡潔に言えば辻斬りである。だが、その数が異常であって、この六日間毎晩のようにやられているのだ。この時代、辻斬りなど別段珍しくもない。最初二日間はただの偶然かと思っていたのだが、良くよく調べてみると、斬られ方が全て酷似していて。コレは同一犯だろうと真剣に調べ始めていた。そう。"真剣に"調べ始めていたのだ。だから、こうも副長は苦い顔をしている。


「まぁ、土方さん。そんな顔しなさんな」

「総悟…でもな、」

「この件の責任をとって副長を辞任、そのついでにサクッと自殺でもしてくれりゃあ誰も文句は言いやせんぜ」

「誰がそんなことするか、馬鹿野郎。しかも自殺がついでかよ」


そんなワケで最近見回りを強化していて、昨夜担当だった一番隊から早朝に連絡を受けた私と副長は山崎の運転する車で現場へと来たのだ。最初はちゃんと第一発見者や現場の状況やらを珍しく真剣に話していたなと思っていたのだが、そこはやはり総悟と副長で。粗方終わった途端にドタバタし始めた。総悟に至っては徹夜の見回りだった筈なのによくあんな元気があるものだ。そんな仲の良い二人に溜息だけ残すと、何やら御遺体を真剣に調べている退の方へ足を向けた。


「退」

「あ、名前ちゃん」

「なんか手掛かりとかあった?」

「残念ながら、何も」


監察である退は当然今回の件で動いている。恐らく真選組で一番。だから、現場も死体もちゃんと自分の目で見るし調べる。


「あのさ、逆に聞くようだけど…」

「なに?」

「…虚、ってことは…」


ありとあらゆる方面から。
彼は私が死神だと知る真選組内唯一の人間だ。これだけ探しても犯人の足取りが掴めないことに虚の可能性も頭に過ぎらせるのは、常識に囚われすぎない柔軟な考えとして充分に評価出来る。喜助が退を褒めるのもそういうことがあっての評価だと思う。近くにいる隊士に聞こえないように声をひそめて私に囁き掛ける退にそんなことを思ってふと笑うと、死体の着物を捲りながら言った。


「ないよ。これは虚の傷跡じゃない。虚の匂いがしないしね」

「そっか…」


また同じような情報しか取れなかったと残念そうに言う退。だけど。私はまた"同じような"情報が取れたことに残念がってはいられなくなった。























ー 今、いる世界。壱 ー
























「退」

「う、わぁ!?何時の間に!?ていうか久しぶりかもこのびっくり感…」

「何処まで分かってる?」

「え、っと…今回の辻斬りの件?」

「そ。犯人の人相とか場所の共通点とか…」


刀の特徴とか。そう意味深に言えば退の目が見開かれた。あの後、現場の詳しい調査は遅れて到着した鑑識と三番隊に任せるとして副長と総悟と私は退の運転で再び屯所に戻って来ていた。そして総悟は迷いもなく風呂へ、副長は朝飯と言って食堂に向かい、私は自分の部屋へと向かう前に退に声をかけていた。場所は資料倉庫。元々話す事があったので何となく彼の霊圧を追っていたのだが、都合の良い事に人気の無い場所だったので瞬歩で現れることにした。


「…何処で、それを掴んだの?」

「冗談キツイで、退。私があんたしか知らない情報を掴めるワケないやろ」

「…浦原さん」

「ご名答」


そうにっこり言えば、何故か退は安堵の表情を浮かべた。


「どうしたの?」

「良かったよ。俺も実は半信半疑で、この情報に自信が持てなかったんだ」

「ああ、それで答え合わせが出来る、と」

「うん」

「あのねぇ…」

「まぁまぁ。情報はより正確な方がいいでしょ?俺的にも、真選組的にも」


そりゃそうだ。虚偽の事に踊らされて被害拡大だけは絶対にあってはならない事だ。だけどそれを得体の知れない男に頼るのは如何なものか。しかし、あの喜助を要は利用しているとも取れる。やはり将来は有望か。


「まぁ、いいや。で、質問を戻すけど、どんな刀が流行ってんの?」

「流行ってるって……色がね、普通じゃないんだ」

「……どんな」

「その辻斬りと会った人は全員亡くなってるから、恐らく遠目に偶々見えた人の証言だと思うんだけど…

…月明かりに怪しげに光る、紅い刀だったらしい」


そう言って、あってる?というように目で訴えて来た監察官に私はただ困ったように笑うしかなかった。


…ああ、やっぱり優秀なんだな、退は。

と、思いながら。

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