隠し子。
「………金時?」
「待ってェェエエ!!違うから!!断じて俺の子ではないから!!」
「あぽん」
「銀時の子だって言ってるよ、金時は」
「なんで分かるのォォオオオ!?」
…どうやら銀時には子供がいたらしい。
ー 隠し子 ー
赤ちゃんの頃に、女の子はお父さんに、男の子はお母さんに似るのが将来顔がよくなる条件だ。と言うのを、いつか聞いた事があるが、今目の前にあるケースは将来顔がダメになるパターンだ。
「いくつー?」
「すぷん」
「そっかそっか。で、お母さんは?」
「…むー…」
「あー…ごめん」
「ねぇ、なんで会話出来てんの?なんでお前らそんな残念そうに俺の顔見てんの?なんか付いてる?俺の顔になんか付いてる?」
とってくんない?
そう言って顔を近付けて来た銀時に私は足蹴りを食らわせた。路地裏の地面に胡座をかいている銀時の膝に座っている赤ん坊。その赤ん坊に私もしゃがみこんで目線を合わせるようにして会話をしていたのだが、兎に角可愛い。赤ん坊って泣くだけで面倒だなとか思っていたのだが、この子は違う。全く泣く気配がない。ちなみに、足蹴りを食らわせる少し前に抱き上げたので赤ん坊は無事だ。
「…ところでなんでそんなびしょびしょなワケ?」
「怪力ゴリラ娘に川に落とされたんだよ」
「それって総悟がびしょびしょだったのとなんか関係ある?」
「あーそれは俺がやった。後悔はしてない」
「総悟もね、サボってたから非が無いとは言わないが仮にも警察に暴力行為してんだからね。踏ん反り返って言える事でもないよ」
下手したら公務執行妨害やで。
そう言えば職権乱用だなんだとぶつぶつ呟きながら歩き出したので、溜め息を一つ吐くと赤ん坊を抱え直して私もその後ろを追った。
「で、どうしたの?この子」
「…置いてあったんだよ」
「どこに?」
「万事屋の階段下に」
何だかんだ優しい銀時が赤ん坊を放って置く筈もなく連れ帰ったらしいが、あの面子だ。どういう扱いを受けたかなんて用意に想像が出来る。お疲れ様と言って肩を叩けば疲れたと言ってがっくりとうな垂れる銀時が何があったかを物語っている。
「…お前さあ、ホント俺の息子なんじゃねーだろう?オイ、おめーの本当の親はどこにいるんだ?」
「はぷん」
「試しにおとーさーんって呼んでみ?」
「ばぶーぶー」
「アホか。そんなんで出て来たら誰も苦労……ん?」
普段からの行いが悪いのか、何を言っても聞き入れてもらえない銀時はどうしても身の潔白を証明したいらしい。というか、過去に余程やましいことをしているとしか思えないこの行動に呆れてそう言おうとしたのだが、不意に辺りからズラリと現れた浪士達によってその先は遮られた。
「……て、ことはさ。これ全部お父さん?」
「オイオイ随分たくさんお父さんがいるんだな」
「案外お母さんがビッ…」
「その先は言ってやるな」
見る限り、幕臣という身なりではない。なのに全員が帯刀し今はあろうことかそれを抜いてこちらにその先を向けている。自分は真選組という立場なので当然有無を言わさず全員逮捕、としなければならないが…
「非常に面倒なので、またの機会に」
「オイ、警察。仕事しろ」
「だって隊服着てへんし、手錠はあるけど一つだし」
んなんで理由になるか。
そう言って銀時が私の頭をゴツンと叩いた瞬間、急に浪士達の方から声が上がった。
「誘拐とはまた大胆なことをしたものだな」
「……え?誘拐?何が?誰が?どこで?」
「とぼけても無駄だ。貴様あの女の愛人か何かだろう?二人で共謀して賀兵衛様の孫を攫い橋田屋の財産を狙うつもりだな」
「オイ、何言ってんの、この人達?」
「…やるな、銀時。まさかそこまで考えてたとは」
「オイお前何言ってんの?」
「あぽん」
「何言ってんの、お前?」
なんだかワケの分からない状況だったが、今の会話でなんとなく分かった。偶々拾った子供が実はかの有名な橋田屋の孫だったらしく、ここで不幸としか言いようがないが銀時の髪とそっくりで。そしてコレは推測だが、この赤ん坊は橋田屋の息子と女中か何かをしていた女の息子だろう。橋田屋の娘がたぶらかされたという読みもあるが、先程の浪士の言葉の中であの女とまるで卑下たような言い方だったのでその可能性は消えた。つまり、銀時は単にハズレクジを引いただけなのである。
「生きて捕らえよとのことだが男なら関係あるまい。斬り捨ててしまえ」
「オーイちょっと待て!!
全然関係ないから!俺、このガキ拾っただけだし誘拐とかワケわかんねぇ!!」
なんなら今スグ返すよ!なっ?
と言って振り返った銀時だったが、不意に私の腕の中にいた赤ん坊がもぞもぞと動いて銀時の羽織をぎゅっと掴んだ。言葉を伝えられない赤ん坊の精一杯の一言。それは小さな手から伝わるのには十分で。一瞬、思わず私も銀時も小さく目を見開いた。
そして次の瞬間、
「だーから知らねーって言ってんだろーが!オラ!返すぜこんなガキ!!」
投げた。そりゃあ思いっきり。確かに、突破するには良い方法だが乳幼児の頭に衝撃を与えるのはあまり良くない。下手をすれば脳出血になりかねない。それに、私がいることを忘れているのだろうか。瞬歩で逃げれば一発なのに。
そして、高く放り投げられた赤ん坊に気を取られた馬鹿な浪士達を薙ぎ払い赤ん坊の落下地点に銀時が歩を進めた時だった。
「面白い喧嘩の仕方をする男だな。護る戦いに慣れているのかィ?」
「お前らのような物騒な連中に子育ては無理だ。…どけ。ミルクの時間だ」
「ククク…イイ…イイよ、アンタ。獣の臭い…隠し切れない獣の臭いがするよ。……あの人と同じ」
赤ん坊が銀時の腕に収まったと同時に彼に向けられた剣。攻撃性はあったが、殺気は殆どなし。まるで銀時の力量を図るかのような剣筋にやや疑問が生じるが、そんなことを言ってる暇もないだろう。……この"盲目"の剣士はかなりデキるからだ。銀時を追って背後から攻撃をして来た他の浪士を手足で適当にあしらうと、此方も斬魄刀の柄に手を掛けた。が。
「片腕で闘り合うには惜しいねェ…行きな」
「!?」
どうやら本気らしい。あっさりと刀を下ろしそれをしまって、更にご丁寧に道まで開けてくれた色々疑問はあったが戦わないというなら態々此方から仕掛けることもない。それに甘んじて私らはその場を走り去った。
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