×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

オオカミ少年。




「…分かった、って虚の霊圧が混ざってる俄か死神の製造法?」

〔製造法って…名前さん、仮にも生物なんスからそれは…〕

「いや、あんただってしっかり仮にもとか言っちゃってるから」


朝早くに真選組トップ3が長官に攫われた翌日。その三人が揃って有給をとり、私服姿で再び長官に攫われてから半日も経った頃。机の隅に置いてあった携帯が不意に鳴った。画面を見れば大方の予想通り浦原喜助と書いてあり、何か進展があったのかと思って出たのだが、彼の口振りからしてそうでもないらしい。特にはっきり言ったワケでもないが、五十年以上の付き合いで大体分かる様になった……のだが。


「で、なに?」

〔その前に。一つ、お尋ねしましょう。名前さん、貴女、僕らが現世に降りて来てから今まで何か引っかかったことはありませんか?〕


そう。喜助にはこういうことがしばしばあるのだ。話の流れなどまるで無視、自分の話す内容を唐突に、しかも相手には全くもって分からない言葉回しで話し始める、厄介な癖が。
大体、いきなりこう振られてああそういえばと続けられる人が果たしているのか甚だ疑問である。今のだって、そうだ。恐らく私は感じているのだろうが、こういきなり言われても咄嗟に言葉は出てこない。


「あのさ。何度も言う様だけど、なんのこと?」

〔あ〜スイマセン。今しがたソレを夜一さんと話してたもんで〕

「はいはい。で、なに?」


何度怒っても舌打ちをしても一切治らない、と言うか治す気はないらしいので今では流すことにしている。なので、そう言えば向こうの電話口の空気がすっと冷えた。


〔我々が此処にいるのが藍染にバレていないのは何故だと思いますか?〕


唐突。それが正に当てはまる。コレはいくら事前に説明を加えられていたとしても驚かざるを得ない。何故かって、


「…え?惣右す…藍染はとっくにうちらの居場所が分かってるんじゃなかったの?」

〔はい、分かってます。ですが。詳しい場所までは分かってません〕

「…分かってる、ってどのぐらい」

〔僕の大方の予想ですが…恐らく、〕


現世にいるってことまでは。
そう聞いた瞬間、私の緊張が一気に切れたのが分かった。だって何か絶対私の中のどっかでプツンって言ったから。


「…浦原隊長。私、仕事中ですので切りますよ」

〔え、ちょ、ま、待って下さい!!冗談とかじゃないんですって!〕

「冗談じゃない?アホ言わんといて下さい。今まで俄か死神の襲撃を受けてたのは藍染が此方の居場所を大体予測出来てたからでしょう。それを現世、とかアバウト過ぎる見解を今更述べるとか私に喧嘩を売ってるとしか思えませんね。そんなの今までの状況を見ればバカでも分かります。そういう類の冗談は平子隊長とかに言ってあげて下さい。私より上手くツッコんでくれはりますよ。あ、だったら新八とかの方がいいかもしれませんね」

〔名前さん!!〕

「ほな、失礼します」


もう、なんと言われようが知らん。生憎、エイリアン事件の書類を今日中に終わらせなければならないし、その上副長もいない。喜助の冗談に付き合ってる暇もないので、彼が向こうで叫んでいたが、容赦なく終了ボタンを押した。狼少年の話が頭を過ったのは気のせいではない。一回痛い目を見ればいいんだ。


「よし。これを夕飯までに終わらせよう」


だけど。
何だか今日は運が悪いらしくて。そう私が意気込んだ瞬間、スパンと勢い良く障子が開かれ、不気味な間の後に静かに名前を呼ばれた。


「…四楓院」

「……な、なんでしょう」

「愛、ってなんだ」

「…………」


自分を四楓院と唯一名字で呼ぶ我が上司の表情と訳の分からないセリフとサングラスから、書類は徹夜だろうなと内心深い溜息を吐いた。















ー オオカミ少年 ー


























どうしよう。

名前との電話が強制的に切られてから浦原喜助は珍しく狼狽えていた。普段からの冗談八割真剣二割の自分の発言が災いしているのは重々承知している。しかし、最終的にその冗談はかなり重要になるし、相手もそれに気付くことも承知している。それだけに、この困惑は相当だと見受けられる。きっと彼と長年の付き合いである夜一がこれを見たらさぞ大笑いするだろう。狼少年の話を知っとるか、と。


「やから冗談も大概にせぇ、ていつも言うてんねん」

「いや…冗談じゃないんですってば」

「結果その冗談が本題になったとしても過程では冗談だろ。だったら名前が怒るのも無理ねぇよ」

「名前はああ文句ばっか言うてるけどかなり仕事熱心やからなぁ…」

「しかも今日中に終わらせなあかん書類があるのに土方がおらん言うて嘆いてたもんな」


猿柿ひよ里、六車拳西、平子真子、矢胴丸リサの順に次々と責めたてられ、携帯の画面を見つめたままやや放心状態だった喜助は、後ろにいた四人を恐る恐る見上げた。


「…やっぱり…僕のせい、っスか?」


それに付き合いの長い四人は揃って首を縦に振ると、喜助は小さく項垂れた。今、彼らがいるのは浦原商店の真下にある地下。後に地下勉強部屋と呼ばれる場所だ。虚化保持訓練においてとにかく霊圧が跳ね上がる彼等を地上でやらせるワケにはいかない、と喜助が一晩でこっそり作ったらしい。そうした彼のケタ違いの技術に真子達は素直に尊敬しているし、信頼も置いている。が、ソレとコレとは話が別であって。項を垂れる喜助に同情する者は一人もいない。
現にひよ里はアホかとだけ言って刀を背中の鞘へとしまっている。


「…アレ?もう終わりっスか?」


チンという刀が収まった音を聞いた喜助が、意外そうな顔をしながらそう言って後ろを振り返った。それにひよ里は何言ってんだコイツと言わんばかりの顔をした。


「早よ、行け」

「…へ?」

「て、言うてるんやよ。ひよ里は」


自分の元副官の言わんとしてることがイマイチ分からずに首を傾げれば、呆れたようにリサが口を挟んだ。


「え、でも…まだ皆さんの、」

「だからアホて言われるんや、お前は。いや、アホやないな。カスや」

「ひ、平子さん…それは流石にぐさっときます…」


本当に傷ついたような顔をしている喜助に真子はリサと同じように呆れた顔をすると、そう言って地下勉強部屋の天井にある入り口を刀の先で指した。そんな真子の行動に一瞬目を見開いた喜助だったが、徐に地面に放って置いた帽子を拾い上げると後ろに立つ四人を見た。


「…なんや」

「……僕だけじゃなくて夜一さんも鉄裁さんもいないことを忘れずに」

「見れば分かるわ、ボケ」

「そろそろ心が折れそうなんスけど、ひよ里さん…」

「んな下らねぇこと言ってないで早く行って名前に謝って来い」

「せやな。ついでにデートにでも誘って来やぁ」


それらに笑って頷くと喜助は帽子を頭に乗せてその場から消えた。


「…手のかかるやっちゃな」

「全くだ」

「やけど、名前に伝えんと何も始まらへんで」


アレは。
梯子の上部にある穴を見上げながら平子が言うと、その場にいた全員の表情が消える。今日、白とラブ、ローズ、ハッチがいないのは夜一と鉄裁と共に俄死神の過去の現場を調べに行ったから。なんでこの組み合わせになったかと言えば、クジだ。それ以外の力は何も働いていない。その現場で霊圧を調べていたのだが、途中で思わぬ共通点を見つけて夜一が喜助に連絡したのだ。
しかもそれは夜一にとっては覚えのある霊圧で。しかもそいつの経歴からほぼ断定的事実となった。


「…まぁ、仲直りしてくんねぇと俺らも困る」

「名前が帰ってけぇへんしな」

「やったら喜助を追い出せばええんちゃう?」

「ナイスや、リサ」


そうやって再び喜助を貶し始めた四人。その時間帯、喜助はくしゃみが酷かったとかそうではなかったとか。

prev/next

51/129


▼list
▽main
▼Top