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サボリ魔だって仕事はする。





「…この着流し、デカ…」


深夜も近い風呂場の脱衣所にポツリと響いたのは名前のそんな一言だった。














―サボリ魔だって仕事はする―

















副長とお互い刀を抜いて自己紹介をしていると、地味な男が副長!と叫びながら乱入して来た。副長の口から山崎という言葉が出て来たので恐らく監察の山崎退だったのだろう。あまりにも地味すぎてその山崎の顔はイマイチ記憶出来ていないが、彼の要件は通り魔事件が発生したとのこと。私は留守番かと思いながら副長を見ればちょうどいいからお前も来いと言われて。仕事も何も教わっていない状態で現場へと向かい、そこで副長から簡単に仕事を教わりつつ現場検証をしていた。しかし犯人に繋がるそれといった手掛かりも掴めず時間だけが悪戯に過ぎ、一旦引き上げとなったのでそのまま山崎の運転するパトカーで帰って来た。ちなみに帰ってからは業務内容についてのみっちり勉強コースで。ぼそぼそと口答えをしながらも真面目にやっていたらいつの間にか外は真っ暗になっていた。
現在は夜の12時。夜勤以外の人は寝ている時間帯である。


「まぁそれは良しとして……住み込みなんて聞いてないんだけど…」


不満げにそう呟き、今自分が着ている着流しを再び見て深く溜息をつけば、頭は今日の夕方のことを思い出していた。

夕飯の時間帯も近くなり、いつになったら帰れるんだよーとボヤいていたそんな時に魔の宣告は下された。


『…なに言ってんだ、お前。隊員は全員ここに住み込みだぞ?』

『……ご冗談を。面接の時に真選組としての規則を教えて頂きましたが、そんなことは一言も』

『…誰が面接官だった?』

『松平長官です』

『あのおっさんの頭の中は基本、娘のことで一杯だ』

『…つまり、』

『職務を全うしたことは殆どない』

『すいません副長。今から少しお暇を貰います』

『四楓院、取り敢えず刀はしまえ』


何とも嬉しくないサプライズ。着替えも何も持って来なかった私は仕方なく副長の着流しを借りることになったという話である。あとは寝るだけなので別にいっかと呟きながら廊下を歩いていると、不意に電話が鳴った。
画面に表示された名前を見てみればそこには《浦原喜助》の4文字。無視してやろうかと思ったが再びかかってくるのも面倒なので、縁側に座り、仕方なく通話ボタンを押し耳に当てた。


「………もしもし」

〔いやースイマセン!名前さんに言い忘れてたことがあったんスよ!!〕


かなりのローテンションで出てみれば、それを吹き飛ばさんばかりのハイテンションで返って来た喜助の声。額に青筋を浮かべながら怒鳴りたくなる気持ちを必死に抑えて、口を開く。


「…住み込みの話?」

〔あれ?もうお聞きになったんですか?〕

「もうって、あんた今何時だと思ってんの?」

〔昼の三時ぐらいっスか?〕

「へぇ、お前今ロンドンにいるのか」

〔や、やだなぁ〜冗談に決まってるじゃないっスか〕


なにがしたいんだこの男は。
そう思ったが、喜助の意味不明さは今に始まったことではない。相手にしてるだけ無駄だと一つ溜め息を吐いて、話題を変えることにした。


「……本当に良かったの?」

〔なにがっスか?〕

「保持訓練。あの大人数を3人で相手すんの大変なんじゃないの?」


そう尋ねれば、急にふわりと夜風が吹いて髪を揺らした。

約1ヶ月半前、一夜にして大きく動いた魂魄消失事件。そして、その裏側に隠された真実を見てしまった喜助達は藍染の策略によって四十六室から無実の罪を着せられ、現世への逃亡を余儀無くされた。
その後、喜助は平子隊長達の虚化を一時的に安定させる方法を何とか見つけ出す。その名も、"内在闘争"。
これを、別々に逃げていて現世で合流した私と夜一も含めて手伝い、それも終わった今は虚化保持訓練に勤しんでいる。
私が今心配しているのはこの保持訓練のことだ。いくらなんでも8人の仮面を相手するのは体力的に厳しいのではないか、と。しかし、喜助は軽い声でこう返して来た。


〔だ〜いじょうぶっスよ。なんたって夜一さんがいるんスから〕

「そうだけどさ…」


そう渋ってはみたものの、訓練中の様子や幼い頃に修行をつけてもらった時のことを思い出し確かにあの体力は化け物だもんねと、付け足して笑う。


〔……それに、ボクらも貴方の為を思って真選組に入れたんスから。そんな心配しなくても大丈夫っスよ〕


その言葉に今日何度目か分からない溜め息を吐いた。


「喜助、その子供扱いさぁ…いい加減やめて」


幼い頃、親代わりだった氷雨と死別した私を迷わず養子にとり娘同然に育ててくれた夜一には感謝してる。それに、良く遊んでくれた喜助や真子達にも。

本当に、言葉じゃ言い表せないぐらい。

だけど、もう私は子供じゃない。真選組入ったのだって喜助達の半強制のように見えて、少し自立したいっていう意志があって入ったんだ。そう思いながらむくれた顔をしていると、喜助の声が耳に滑り込んで来た。


〔…そーんな顔してたら、お嫁に行けなくなるっスよ?〕

「……余計なお世話だ……って、見えてないクセにデタラメ言うな」

〔え〜…ほんとにデタラメ、なんスかねぇ…〕

「喜助だっていい加減そのニヤニヤやめないと近所の子供達に逃げられてばっかだよ?」

〔……見えてないのにデタラメ言わない方がいいっスよ〕


図星だったようで微妙に間が空いた喜助の返事。それに声を上げて笑うと再び喜助の声が耳に響いた。


〔…ま、"そっち"は頼みましたよ?〕

「……了解」


そう返事をして電話を切ると、隣にある柱に寄りかかり夜空を見上げた。


「明日は……満月、かぁ……」

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