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厄介っスねぇ。





話には聞いていたけど、やはり実際に見るのとでは随分違う。言葉一つで形が変わる刀というのを初めて見た感想は"綺麗"の一言に尽きた。俺に黒いマフラー(恐らく霊圧遮断機能が着いてるモノ)を渡してくれた名前ちゃんの雰囲気がガラリと変わると同時に一陣の風が舞い上がった。突然の風に思わず顔を覆って目を開けた時には既に斬魄刀は解放されていて。それは彼女の身の丈より少し長い、殆ど白に近いような淡い翡翠色の薙刀だった。薙刀には一般的に、刀身の身幅が細く反りが少ないもので静御前にちなんだ【静型】と、身幅が広く反りの大きいもので巴御前にちなんだ【巴型】の二種類に分類される。尸魂界ではどうだか知らないが兎に角俺らの居る世ー現世ではそう大別されていて、名前ちゃんのは前者の静型。ちなみに柄の部分は半透明の淡い翡翠色で刃の部分は勿論銀色だ。それを手に持ち俺の前に立つ名前ちゃんの実力は圧倒的で。本気で行く、と言った彼女の言葉に嘘偽りはなかった。


「…半年の沈黙を経て来たから少しは期待してみればこの程度。口程にもないな」

「…っ、くそ…」


薙刀と言ってもその戦闘方法は見たこともない型だった。この時代、男性より女性の方に好まれる薙刀は基本両手で扱うもの。何より長いし刃が先端にあるから力を入れにくい。だが、彼女はそれを右に左にと持ち替えて片手で扱っている。両利きなのは普段の沖田隊長との試合から知っていたが、流石にコレは驚く。しかもこういう長い武器は薙刀にしろ槍にしろ"突く"か"振り下ろす"のが基本なのに、名前ちゃんはまるで刀のように、まるで舞っているかのように振るっていた。…そして。


「終わりだ」

「…っ、ぐ…」


最後は俺が瞬きをする間にソレは起きていて。地面に倒れゆく男の急所と見られる所から二箇所、出血しているのが分かったが彼女の刺突は目で追うどころか言われなければならない程の速さだった。


「…さてと。終わりましたよー退坊ちゃん」

「え、ちょ…なんで坊ちゃんなのさ」

「だって、自分は何もせず私の後ろに隠れて……まるでどっかのイギリス貴族の悪魔を執事に持ってる餓鬼な伯爵のようだよ」

「まさかのファントムファイブ!?ていうか動くなって自分で言ったんでしょうが!!」

「いえいえ、まさか貴方様に命令などそんなおこがましい。私はあくまで、死神ですから」

「いやされたから!!ていうか動くな以上のこと言われたからね!?」


男が完全に息絶えたことを確認すると、不意にそんなことを言ってふざけ出した名前ちゃんからはさっきのような威圧感はもうなくなっていて。今の数分間の出来事が嘘のように思えた。

…でも。

死ななくて良かったねと笑みを浮かべて俺に手を差し伸べている彼女はやはり自分達と次元が違う強さを持つのだと改めて認識した瞬間だった。


















ー 厄介っスねぇ。 ー























「…で。顔は?」

「私の好みではなかったかな」

「…じゃなくて」

「はいはい。多分ひよ里達の時の奴だったと思う」


俄死神に会った日から数日後。昼休みを利用して私は喜助と会っていた。いつも副長と行く定食屋さんではなく、幾松というラーメン屋さんで。何故ここなのかと問えば、一頻り辺りを見回してからなんでもないっスとヘラっと笑った喜助を殴ったのは言うまでもない。


「…てかさ」

「はい」

「そうメールしたよね?私。翌日に。今更確認する必要あるの?」


ラーメン屋なのに蕎麦を頼んだ私と同様に蕎麦を頼んだ喜助の器から油揚げを取りながらそう言うと自分の口に放り込んだ。それに浦原商店の店主は行儀悪いっスよと咎めると、それはと言って話し出した。


「態々忙しい合間に僕に会いに来た名前さんに言えることだと思うんスけど」

「…まぁ、それもそうか」

「それに僕と話したかった内容は、」

「俄死神」

「に、ついてっスもんね」


半年間、ちょうど私が天導衆に喧嘩を売ってからこないだの夜まで、俄死神と私達元死神との遭遇はぱったりとなくなっていた。気の早い真子やひよ里は使えんと分かったから出すのやめたんちゃう?と言っていたがたかが6ヶ月、されど6ヶ月だと喜助が宥めて一応警戒していたのが功を奏した。そしてもし出てくるとしたら最後に会った時よりは確実に強くなっているだろうという喜助の推測も。退の目からみたら私が圧倒しているように見えたのだろうが、私が思っていたより強くなっていたのでちょっと焦っていたから全力でやっただけの話。自慢出来ることは何一つない。


「"実際"、どのぐらいでしたか?メールには五席以上は確実と書いていましたけど」

「…副隊長」

「え…?」

「には届かないレベル」


そう言って箸を置くと店主の幾松さんにお水を頼む。緑茶も置いてあったのだがなんとなく水が欲しかったのだ。喜助はそんな私をちらりと見ると自分の湯呑みに手を延ばした。


「…厄介っスねぇ…」

「そ。この上なく厄介なんですよ。

……中でも、平子隊長達と"同じ"霊圧を持っている、という点がね」


その言葉に喜助は珍しく眉を潜めた。
私が半年振りに俄死神と会って驚いたのはその強さではない。彼らの霊圧の変化だった。半年前は席官クラスの死神に劣る程のスカスカな霊圧だったのだが、今は死神どころか虚の霊圧まで感じた。


「…何か分かった?」

「掴みかけてはいるんですが、あやふや過ぎてお話し出来る段階にないっス。ですが、一つ言えることはちゃんとした指導者がついたということっスかね」

「ちゃんとした、指導者?」

「はい。死神の基礎をキチンと教えられる人っスよ」

「藍染…」

「は、無理っスよ。彼は一応尸魂界の副隊長についてるんスから。たとえ鏡花水月を以ってしても、長期間尸魂界に不在という危険は犯さない」

「…だったら、誰が」

「それが、わからないんスよ。そのほぼ完成版の俄死神から霊圧を採取したり僕らの全員が接触して覚えのある霊圧かを見たりすれば何か掴めるかもしれないんですが、今の所名前さん、貴女だけっスからね。…今更ですが、お心当たりは、」

「残念ながら」


てことは名前さんが来る前か。
そう呟いた喜助の顔を思わず見上げた。今の言い方は多少なりとも心当たりがあるモノだ。しかし、その真意を問おうと口を開こうとしたのだが、彼の顔は思った以上に深刻そうで。何か危険があるとすれば確実に彼は私に伝えてくれる。それをせずに溜め込むと言うことは、そこまでの注意は要さないということか。そう考えて此方も黙って喜助を見ていると、幾松さんが水を持って来てくれた所で漸く口を開いた。


「まぁ、取り敢えず此方で調べてみます。…ですが、事が事なだけに場合によっては貴女に手伝って貰う必要があるかもしれません。大丈夫っスか?」

「うん、全然大丈夫。いざとなったら退に補佐を涼に護衛をおしつけるから」


そう言ってにっこり笑えば喜助は呆れたようにヒドイ上司だと言って笑う。そしてそうやって笑ったまま、ふと店の天井隅にあるテレビを指差すと、ところでと言った。


「いいんスか?アレ」


そう言った彼の指先の画面にはある銀行店が映っている。緊急番組らしく画面の斜め右上には速報という赤い文字と《銀行ジャックはパンダか!?》という文字が見える。画面にチラホラ黒い制服が見えるので喜助は行かなくて良いのか?と問うたようだ。


「…あー…やっぱ行かないとダメかなぁ…」

「何言ってるんスか。警察でしょ、貴女」

「だってさ。副長、今右之助と映画なるものを観に行ってるんだよ?」


この時程喜助に哀れんだ目を向けられた事はなかった。

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