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一番隊副隊長、新田涼。





「馬鹿野郎!!んな近距離で会っときながらどうやったら獲り逃がせンだよ!!」


ある日の晩。
深夜も一時間を過ぎた頃、真選組の屯所には土方の怒鳴り声が響いていた。時間帯が時間帯なだけにこれだけ声を張り上げれば他の隊士達が文句を言っても良さそうなのだが、そうする者はいない。別に土方が怖いから、とかではないのだ。実際、真選組に長くいる者で土方に軽口を叩く者はいるし、土方もそれに怒ったりはしない。
じゃあ、なんで誰も文句を言いに来ないかと言えば、忙しいから、である。一週間前の朝の定例会のことだ。そこで最近下着泥棒が頻発していると二番隊と監察方から報告があり、急遽夜の見廻りを強化させることになった。そして昨日の夜、下着泥棒を探していた筈が思わぬ大物が釣れたのである。


『土方さーん、名前ー。いやすかァー?』

『入れ』

『あら珍しい。下着泥棒捕まえたの?』

『いや。そんなのよりもっと大物が釣れやした』

『…大物?』

『桂でさァ』

『!…長かった鬼ごっこも漸く終結と言うワケか。ざまぁねぇな桂の奴。…総悟、良くやった。お前には、…』

『いやいや焦っちゃいけねェな、土方さん。俺が放ったバズーカに恐れをなしたヤツは…』

『…自害、か?』

『暗闇と言う名の隠れ家に帰りやした』

『………』


それからどうなったのかと言うのは御想像通りで。総悟ォォオオー!!という土方の怒りの声が屯所中に響いた直後から三十分経った今も尚、土方の声は途絶えることがないのである。
ちなみに他の隊士達は土方の代わりに名前に指示され、見廻りを強化したり、脱獄したフンドシ仮面の捜索をしたりと忙しくしているので、仲が良いんだか悪いんだかわからないバカコンビに構っている暇もないのだ。


「…大体なァ!!あれ程無闇矢鱈にバズーカ撃つなって言ったじゃねぇか!!あれはこういうことを危惧して言ってたんだよ!!」

「…ーー、ー」

「んだと!?もう一回言ってみやがれ、総悟!!」


怒鳴っているのは土方だけなので、意外と防音に長けているこの屯所では普通に受け答えをする声は聞こえない。そんなひたすら憤るだけの土方の声を少し離れた廊下で聞いていた名前は呆れたように溜息を吐いた。


「糠に釘、馬の耳に念仏、豚に真珠、猫に小判、立て板に水、蛙の面にしょん…」

「…名前」

「そんな顔で見ないでよ、終。何度総悟に説教は無駄だって言ってるのにちっとも聞き入れてくれないんだよ?その労力を指揮系統に回してくれって。溜息もでるわ」

「…そっちだったのか。俺はてっきり総悟の方かと…」

「へ?」

「い、いや。その…なんて言うか…きっと俺の解釈が悪いのかと…」

「いや、斎藤。俺もそう思った。お前は間違ってねぇよ」

「…そう、か。…だが右之助。お前と同じと言われても殆ど安心出来ないのだが」

「ちょっと待て斎藤。お前今、澄ました顔でとんでもねぇこと言ったよな!?」


彼女がいるのは副長室からやや離れた総悟の部屋の前。一応緊急の対策本部となっているので、今は色んな隊士が出たり入ったりと忙しない。本来、こういう本部は副長室に作られるのが定石なのだがその部屋の主があんな状態ではとてもじゃないが不可能。なので已む無く総悟の部屋にしたのだが案外好条件で。部屋の主が怒られているので暫く帰って来ることもない。それに普段の暗殺奇襲攻撃を考慮して、副長室からはやや遠いのだ。そんな部屋の前で、いい加減説教も終わるだろうと出てきた名前と報告に来た三番隊と十番隊の隊長が偶々鉢合わせ、そのまま話しているのが今の場面である。だが三人の会話が一旦途切れ、その合間に再び土方の怒鳴り声が聞こえてきた瞬間。名前は持っていた資料を総悟の部屋へと放り投げた。


「あーなんかもう、いいや。終、右之助。後は一番隊に明け方まで見廻りやらせて、他の隊は上がってって伝えて」

「いいのか?」

「うん。怪我してんのにこんだけ探しても見つからないってことはもう無理だよ」


伊達に何年も真選組から逃げ回ってないってか。そう付け加えて携帯を出すと、働けよー土方ァーと呟きながら通話記録を開いて誰かの名前を探し始めた。そんな彼女の様子を見ながら原田は苦笑している。


「ふ、副長!!!」


そうやって名前が携帯を耳に当て、原田と斎藤が自分達の隊に今の指示を伝えるべく二人が踵を返した時だった。突如廊下の向こう側から焦ったような声が飛んで来た。直後に全力で走っている足音と共に。


「…あれは、」

「涼、か?」


涼とは一番隊副隊長の新田涼のことである。珍しく総悟が気に入っていて、しかもサボりがちな総悟に代わって良く一番隊をまとめてくれている。彼の存在は名前や土方もかなり重宝していて、度々特別支給を出してやっている程だ。ちなみに名前はその涼に掛けようとしていたので、携帯から耳を離し誰だという顔をしていた彼女は二人の声を聞いて、え?という顔をした。


「ふ、副ちょ…あ!!名前さん!!」

「ぅ、わあっ!ちょ、涼!?なんやねん!?」

「出たんです!!また!」

「な、何が?」

「恐竜です!!」



…ハイ?











ー 一番隊副隊長 新田涼 ー

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