風の中。参
『名前から離れろ、高杉』
一年にも満たないたった数ヶ月で、この“人間”の存在ががこんなにも私の中で大きくなってるだなんて思いもよらなかった。
― 風の中。参 ―
高杉の首に当てられた刃。見え隠れする白い着流し。頭越しに見える銀髪。そこに現れたのは屯所で奇妙な別れ方をした銀髪の侍だった。ちなみに銀時の持っている刀は私の斬魄刀。天導衆に持ってくるなと言われたので銀時にお迎えを頼むがてら預けた。正直、風車を抜けると思っていなかったので、すんなり片手で持っていることに私は驚いたが、斬魄刀は持ち主の心情を反映する物だから当然か。
「銀時か…祭り以来だな」
「…そうだな。つーかお前野外プレイ好きなわけ?」
「いや、特に好みはねェな」
「突っ込めればどこでもいいってか?」
「野郎共なら誰だってそうだろ。逆に聞くがお前はどうなんだ?」
「俺だってどこでもいい。まぁ敢えて言うならSとしては恥ずかしがる女に無理矢理で突っ込むってのが…」
「あんたらなんの話してんの?」
何故か、この親にしてこの子ありという諺が頭に浮かぶ。こういう場面で緊張感のない会話を繰り広げられるのは流石幼馴染みと言える。だが、今お互いの立場が敵対していることは分かっているらしい。私がツッコんだ後から急に空気が痛くなった。
「このままお前がどかねェなら尸魂界送ってやっけど?」
「それも楽しそうだが……まァ今日、俺はコイツとヤリに来た訳じゃねェからな。お前の言う通りにしてもいい」
そう言った高杉の顔が不敵に歪んだ瞬間、ピアスをしていた方の耳に痛みが走った。同時に手も解放されたのだが、耳朶の衝撃でそこまで解放感を覚えず、それどころか手の拘束などなかったかのように咄嗟に手を耳に持って行った。
「名前!?」
いつの間にか高杉は私と3メートル程距離を取っていて、やや青い顔をした銀時は私をガン見していた。
「ん?なに銀時?」
「なに?じゃねェよ!!大丈夫か!? 」
「平気だよ。ハッチいるし。治るし」
そういう問題じゃねェんだよと怒鳴ると、私の手をどけて耳をまじまじと見つめた。高杉はずっと私のピアスを持っていた。だが銀時の言葉に従って後ろに退く時、何を思ったのか、ピアスを無理矢理引っ張ってくもんだから、当然後ろの留め具も引っ張られ、結果的に大惨事となった。そしてピアス型無線機は今高杉の手の中。ちなみに無線は私の霊圧に触れないと作動しないのでアレは今単なるアクセサリーだ。
「…高杉ィ、ちーっとやりすぎなんじゃねェの?」
「悪いとは思ってるが…こうでもしねェと話を聞かねェと思ったんでな。悪かったな、名前」
「いや、別に」
いや、賭けてもいい。高杉は悪かったなんて微塵も思ってない。ただ、話があるのは本当なのだろう。もしあのまま高杉が銀時のいう通りに大人しく下がっただけだとしたら、その瞬間私は間違いなく銀時から刀を貰い斬りかかっていった。斬魄刀を手にした死神と刀を手にした侍。どちらが勝つかなんて明白だ。話どころではない。だけどお陰で私の耳は血だらけだ。銀時が偶々持っていた手拭いで圧迫止血をしてくれているが、既に隊服には血がついている。副長に詰問されることは間違いない。最悪だ。
「…てか話ってなに?」
兎に角、早く終わらせて浦原商店に行こう。そこで副長に電話して、夜一が急病で今日は帰れないとでも言えばいい。で、ハッチには悪いが一晩で直して貰おう。そうやって今後の計画を立てたところで面倒臭い雰囲気を全開にして高杉に尋ねたら、とんでもない答えが返ってきた。
「お前ら死神に関することだ。尸魂界の判決とやらを藍染から伝えるように言われたんだが、聞きたいか?」
なん、だって?
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