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風の中。壱





気が付いたら、何処か見覚えのある森の中にいた。あれ?おかしいな。確か私、布団に入って本読んでた筈なんだけど……ああ。夢、か。自分は一体なにを思って“こんな処に”と思いながらも地面に出来た濃い自分の影を見て、視線を上に移せば満月が夜空に浮かび上がっていた。


「…………満、月か…」


満月は嫌いだ。
今は殆どなくなったが、気を抜けば未だにあの夜のことを思い出してしまう。自分は夜一達に比べれば随分と子供だ。あれだけのことがあれば折り合いをつけるのは時間がかかるとハッチに諭されたが、いつまでも年齢に甘えるわけにもいかない。
それに早く忘れてしまいたい。
自分の中に残すのは藍染に対する怒りだけで十分だ。私の大切な人達を傷つけた、という怒りだけで。


「…とか言ってるそばからこの夢って、どうなの?」


間違えようのないあの時の場所。自分の姿を見てみれば死覇装だ。今と過去が混ざっているのかと思いきや、腰からぶら下がっている隊長用の小さい薬入れの巾着が今の自分ではないことを示している。過去の夢なんて嫌だ。早く覚めてくれ。と、そう思っていた時だった。


「!?……っぐ…」

「余所見とはいけないな。名前」


気配も音もなく一撃。あっけなく背後から背中をばっさりやられて、思わず前に膝を突いた。
あの時と同じように。
夢の筈なのにやたらとリアルに感じる痛みに顔を歪めながらも、なんとか後ろへ視線をやればよく見慣れた顔。


「そ、そう、すけ…」


そう声を絞り出せば誰かの腕の中に引き寄せられた。
いつの間にか役者が揃っていた。
九十九番で縛られた拳西。その周りに仮面をつけて倒れているひよ里達。怪我の痛みで動けない私を抱き抱えて藍染に刃を向ける真子。
この夜。私は一緒に隊首会を覗いていたリサと共に出動命令を受けた。最初、十四朗は春水さんの提案を渋っていたが、リサがいるならと許可を下ろしてくれた。
未知との遭遇。前代未聞。
更に空前絶後、と言い切っても過言ではない。護挺隊の上位席官になって初めて大仕事となる任務は、絶望の二文字しか見えなかった。


「……君は、何故虚化しない?」


冷たく、背筋をすっと撫でられるような声。聞いたこともないようなそれに、真子の羽織りを破けそうな程握り締めた記憶がある。


「カワイイ名前の顔にはこんなブッサイクな面つけられへんて、神様も思ったんやないか?」

「…なる程。面白いことを仰いますね、平子隊長」


後になっても未だに分からないことなのだが、この時現場にいた私だけが何故か虚化しなかった。喜助も首を捻るばかりで、何らかの条件が揃わなかったとしか言いようがない、と難しい顔で呟いていた。そんな風に過去を見ながらぼんやりと考えていると、不意に自分の方へ藍染の腕が伸びてきた。


「君は、僕と来て貰おうか」

「…い、いやだ」


恐らく、イレギュラーな存在に興味を持ったんだと思う。勿論全力でお断りしたが、直後急に早まった虚化の所為で真子と離れてしまい、藍染との距離は近くなってしまった。恐怖と痛みをこらえながらも、再び伸ばされた腕から逃れる為に斬魄刀を解放して遠ざけていた。


「!……くっそ…」

「君が僕に適うわけがないだろう。それより大人しくしてくれないかな。大事な実験のサンプルは傷をつけたくない」

「背中をばっさりやった奴がよく言うわ。それに、負けるつもりはない」


この後、怪我の所為か思うように力が入らずあっけなく刀を飛ばされた。でも、藍染に掴まれる直前、まるで漫画のようなタイミングで助けが入った。…筈だが。


「さぁ、僕と行こうか」

「え?ちょ、な、何で?」


この夢では一向に喜助と鉄裁が来ない。一歩また一歩と近付く度に、私は二歩三歩と後退する。なのに、藍染は確実に私との距離を縮めている。
このままじゃ捕まる。
鬼道でほんの少しでもいいから目くらましを、と考えていると背中が何かに当たった。


「え?…木、って…」


そんなベタな展開ありですか。と思ったのも一瞬のこと。次の瞬間には藍染の顔が目前に迫っていた。














「…捕まえた」











― 風の中。壱 ―























「…は、離せ!!」


布団から飛び起きながら叫んだ声は、部屋の暗闇へと吸い込まれた。息も荒いまま視線を下に落とすと、片手にある本が目に入る。寝る直前まで読んでいた本だ。


「夢、…か…」


長い息を吐いて、再び布団へと体を後ろに沈み込ませると天井を見上げた。暫くそのままの体勢でぼんやりと眺めていたが、ふと廊下へと面する障子の方を見て顔が引きつった。


「う、嘘……やっちゃったの?…」


運良く枕元に転がっていた手燭に火を入れて自分の周りを照らした瞬間、目に入ってきた光景に、更に頭を抱えた。机の上にあった書類は部屋中に散乱。壁に掛けてあった隊服はぐしゃぐしゃになり、部屋の隅へ。押入の襖と障子は、何か刃物で切ったかのような跡が数本。他にも多々被害があったが、この部屋だけまるで突風が吹いたかのような状態になっている。


「夢で混乱して…霊圧の暴走、って一体何歳児だよ…」


襖と障子はどうにもならないが取り敢えず散乱した物だけでも片付けようと、部屋の電気を点けると手早く物を片付ける。


「……よし。これでいっか」


幸いにも斬れていなかった隊服を壁にかけてそう呟くと、時計を見た。午前4時。朝稽古まであと2時間ある。二度寝出来そうな時間だが、残念ながらもう寝る気分にはなれない。熱いお茶でも飲むか、と軽く欠伸をしながら障子と襖に目をやって、やはりげんなりとした顔になってしまう。


「これは貼り替えないと駄目そうだなぁ」


ああ…万事屋にでも頼むか。
そう呟いて羽織りを肩にかけ斬魄刀を手に持つと、万事屋と副長達との起きるであろう喧騒に軽く笑いつつ、切り傷だらけの障子に手を伸ばした。

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