誇り。
「ねぇ、死後の世界ってあると思う?」
「…おぬし、何を言っておる。頭大丈夫か?」
それは一人にとっては平和な、もう一人にとっては地獄のような日々を送っていた時のことであった。
ー 誇り ー今日も酷いな。
終わってみて少し冷静になった頭で辺りを見回せば、地獄のような光景が広がっていた。
天人の死体。
壊れた武器。
その中に見え隠れする、仲間の死体。
当然、戦場で死んだのだから彼らの顔は穏やかではない。中には今朝自分の隣で飯を食った奴もいた。明日は我が身という言葉が頭を過ぎり少し背筋が寒くなる。しかし、この光景に慣れてしまった自分の方がよっぽど怖いような気がし…
「……何をする。坂本」
「何をって、殴っただけぜよ?」
「いや、何故殴る必要がある?」
「それはおまんがそがいな顔しちょるから、…かのう」
「あやふやか」
日中は戦場であった場所を見つめながらそんなことを考えていると、後ろから頭を盛大に殴られた。このバカの所為でさっきまでのシリアスモードは何処かへ行ってしまったが、下らない小競り合いに何となくほっとした。
「ヅラぁ!辰馬ァ!サボってんじゃねぇよ!!」
仕返しに、と坂本の頭を殴ろうとしていると不意に声が飛んで来た。
「ヅラじゃない、桂だ」
そう言ってその声の方を向けば、白髪の天パが仲間を二人腕に抱えながら此方に歩いて来るのが見えた。どちらも既に息はない。
「あっちにもう二人いんだ。さっさと行きやがれコノヤロー」
「おう、そしたら儂が行くぜよ。ちょうど高杉もあそこにおるき」
そうやって駆け出した坂本の背中を見ていると隣の銀時が口を開いた。
「一人、持ってくんねぇ?コイツなんかやたら重ェ」
「ああ」
そして二人と二体は拠点としている寺院へと足を向けた。
そんな感じで毎日が過ぎていく。正直、『負け戦』と言われても致し方ないと思う。とうの昔に幕府は天人と条約を結んで開国宣言をし、はっきり言って天人と争っても抵抗にも何もならない。毎日仲間は悪戯に死んでゆき、生き残っている者達も日を追うごとに目が虚ろになってゆく。
しかし、しかしだ。
俺達にはやめられない理由が…―と。そこまで考えて、不意に何かの気配がして辺りを見回した。
同時に無意識に刀の柄へ手が伸びる。
「……誰だ?」
今俺がいる場所は、亡くなった仲間を弔っている簡易の墓のような所だ。丑三つ時も近いこの時間、銀時達は本堂の中で寝ている。ここには自分しかいない筈だ。つまり、もし誰かいるとしたら……敵。そう思い、若干殺気を放ちながら五感全てを研ぎ澄ますと、後ろの方から聞こえてきた一つの足音。割と軽めなその足音に些か怪訝な思いをしながらも、刀を一気に引き抜くと振り向きざまそいつに斬りかかった。
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