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山崎はミタ。参








「ククク……こいつァ、いい。あの化け物の立ち合い見た後じゃ侍同士の斬り合いなんざガキの喧嘩に見えますな」


煉獄関。
其処の観客席より更に高い所にある櫓から二人の男が闘技場を見下ろしていた。一人は眼帯を付け、もう一人は口までマント隠し網傘を深く被っていてほぼ顔が見えない。


「しかし茶吉尼の戦いっぷりをこの目で見れるたァ…奴らは夜兎と同じく大戦でほぼ絶滅したと聞いていましたがねェ」

「我を誰と思っておる。手駒なら幾らでも揃っておるわ…茶吉尼は夜兎・辰羅などに並ぶ、武を誇る傭兵部族。アレにかかれば侍など赤子も同然」


会話の話題は、二人の視線の先で金棒を振り回す“鬼”。6.7人いる浪人をまるでゴミのように蹴散らす茶吉尼に感心の声を上げながらも、眼帯の方は浪人を増やさないとと不安を漏らすぐらいだ。


「鬼道丸も哀れな男よ…大人しく我に飼われておればよかったものを。処刑されるところを救ってやった恩を忘れ逃亡しようなどと…侍など最早前時代の遺物。奴等が生き残る術は我らに飼われる他ないというのに…最後までバカな男であった」


過去を悔やみ立派に父親として第二の人生を生きていくことを決意した元死刑囚―否、“鬼”。だが無情にも過去の報いなのか、その夢は叶わず、本当の“鬼”により殺されてしまった。しかし、そうやって網傘の男が儚く散った鬼の運命を嘲り笑うも、その笑いは長くは続かなかった。


「!!…あ、あれは…鬼道丸!?」


確実に殺したと思っていたはずの鬼が現れたのだ。


「面白いではないか。鬼道丸め、我らに恨みを晴らすため地獄より蘇ったか…」


新しく煉獄関の鬼となった茶吉尼は負けないという余程の自信があるのだろう。この状況を自分の楽しめるように書き換え、心から楽しんでいるように見える。隣の眼帯も同じだ。途中で面が取れ、中は鬼道丸ではないと分かったが戦いは尚終わることはない。それどころか、茶吉尼に引けを取らない木刀を振り回す銀髪の侍に、次第に雲行きは怪しくなっていく。

…あの眼は、本物の、


「……本物の侍の眼、か?普段は死んだような眼ェしてるんだがな」


不意に後ろから聞こえた声。
銀髪侍の戦いに思わず見入っていた網傘は、ゆっくりと後ろを振り返った。気付けば隣にいた筈の眼帯男はいなくなっている。どうやら銀髪の侍の始末をつけに行ったようだ。代わりに目に入ったのは一人の女。身に纏うは漆黒の服。真選組か、とそれを確認した網傘男は彼女の服が幹部であるのを見て納得したように口を開いた。


「そうか…お前が噂の副長護衛、四楓院名前か」

「へェ……噂になってるのは“そっち”か。存外、天人から見ればウチの副長は頼りなく見えるらしいな」


少し意外そうな声でそう呟きながらうっすらと笑う名前。男は闘技場に背を向け、彼女に向き直ると眉を潜めた。


「何用だ。此処に我らが関わっていると知っての狼藉か。真選組副長護衛…いや、下等な人間の分際で」

「当然だ。お前が関わってなかったらこんな面倒な処に一人で来るなんてことはしない。それに、私を人間として括るのは止めて貰おうか」

「…なに?」

「私は、















…死神だ」




























― 山崎はミタ。参 ―


























一瞬…いや、5秒程だろう。
男の目が大きく見開かれた。そして、ゆっくりと目を戻すと不気味に笑い始めた。名前はそんな男に思い切り眉を潜めると斬魄刀の柄に手を置いた。


「クク…そうか。あの男が我の割と近くにも“自分と同じ輩がいる”と言っていたのはこのことか。ここ数ヶ月、幾度か俄死神なるものと戦っていたのは貴様らだな?」

「俄死神…幻族を知ってるのか」

「ああ…“力量の判断材料にして欲しい”と言って映像を送ってきたからな。リアルタイムで見させて貰ったぞ」


俄死神。名の通り死神ではあるが、ただ斬魄刀を持っているだけで鬼道は勿論のこと、尸魂界にすら行ったことのない死神を指す。
だがどうにも俄死神の“作り方”が良くなくて。…いや、違法なのだ。しかもかなりの重罪の。それに、藍染が関与していることを夜一が突き止めたのが今から4ヶ月前。そしてそれ以外何も情報が出て来なく、これはワザと掴まされたものかもと真子が呟いたのが2ヶ月前。そして、ある結論に至ったのが1ヶ月前だった。


『藍染はソレ以上なにもしていない、という推測が正しかったんス』

『俄死神をぎょーさん作ってるだけ言うことか?』

『はい。ただ、ひよ里さんの言う《ぎょーさん》は違って来てますね』

『俺らが会う度鎖結と魄睡を破壊しとるから、やな?』

『…その上、それも藍染は計算済み、と?』

『恐らく』

『え〜?じゃあ、藍染の目的はぁ〜?ハッチー』

『ワ、ワタシに聞かれても…拳西さん』

『俺に振るんじゃねェよ。オイ、名前』

『神様がご存知ですよ。ね、神様?』

『あ、はい。僕らをその俄死神と戦わせることっス』

『『『何でお前が神様ァア!?』』』


とても深刻な話をしていると思えない会話が紛れたが、藍染の目的はかなりシンプル且つ舐められたものだった。席官にも満たない平隊士の死神を隊長と戦わせるというレベルだからだ。


「…で、ご感想は?鬼道丸、いや、鬼獅子に勝てそうだったか?」

「貴様…何故知っている」


そして、数日前に夜一が掴んだ情報。


『藍染は、俄死神を煉獄関の闘技場で戦わせるつもりじゃ』


正直、名前もこれを信じ切ることが出来なかった。藍染にとっての利益が何も見えなかったからである。でも、夜一が撮ってきた映像と音声が物理的証拠として残っている以上信じるしか道がなかった。…藍染と画面越しに話すその映像を見たら。


「私には遊び心の強い義母上がいるからな」

「忍び込んだというのか!?我らの住処に!?絶対にあり得ん!!」

「信じるも信じないも勝手だが…マズいんじゃないのか?コレ、が世に流れたら」


そう言って名前が見せつけたのは、USB。恐らくその証拠映像が入っているものだ。
相手の顔は網傘の所為でよく確認出来ないが、最初よりは顔色が悪くなっていることは間違いない。


「…違法賭闘技場の存在、その闘技場と天導衆の繋がり、ひいては“死者の国”との交信というオカルトめいたもの…これだけでかなりの…」

「黙れ」

「あらら。お気に召しませんで?」

「黙れと言っている」


流石は天人。
出している殺気は一般的な侍の比ではない。だが、この網傘男が下手に出ることが出来ないのも事実。僅かに拳を握り締めた後それをふっと緩めると、一気に殺気は収まり無感情な声を出した。


「………よかろう。今回、真選組には灸を据えるだけにしてやる」

「察しが良くて助かります」

「その代わり…」

「…はい。近藤と松平が無事真選組屯所に帰ってきた暁には私、真選組副長護衛兼補佐四楓院名前が此を持って馳せ参じましょう」

「…ふん。呼び出す猿の名までお見通しか」


やはり、貴様ら“死神”は気に食わん。
網傘男が吐き捨てるようにそう言ったのを最後に、名前は微笑みながら一礼をすると、その場から消えた。

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