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山崎はミタ。弍







【閃花】

回転をかけた特殊な瞬歩で敵の背後へと回り込み刺突で鎖結と魄睡を破壊する技名を指す。但し、これは高度な技術を要するため、瞬歩の不得意な者には向いていないと思われる。














― 山崎はミタ。弍 ―



















この閃花は尸魂界にいた頃、六番隊隊長朽木銀嶺の孫、白哉と考えたものだ。護挺隊にいた私と違って白哉は実践には赴いていなかったが、四大貴族の子供同士仲は良く、夜一との鬼事も暇さえあればやっていた。鬼事では大抵私と白哉が鬼となり夜一を捕まえるという、よくよく考えてみれば不可能極まりないものだったが、幼かった私達はムキになって追いかけていた。その中で考えついたのが閃花である。当初は、夜一を捕まえることだけを考えていたので鎖結や魄睡を破壊することなど全く頭になかった。しかし、数年が経ち二番隊第十席から十三番隊第四席にまで昇進したことで増える実践の中でコレが使えることに気付き白哉と共に名前を付けたという話。
とまぁ長々と説明してみたが、今は技の生い立ちなんてどうでも良かったりする。それより大問題はそれを人間に止められたということ。昨夜、ツッコミその他色々面倒だと気絶させた退を連れて、小部屋から出ようとした時のことである。あの時、早く出たくて大人げないと思いながらも閃花を使ったのだ。狙いは鎖結でも魄睡でもなく、首。正直殺すつもりでやったが、死神への攻撃ではなかったので、本気ではやらなかった。

しかし、彼はやってくれた。

閃花についてきただけでなく、出した攻撃に反応したのだ。あり得ないと思わずこっちの動きが止まったが、すぐに攻撃を返して消えた。いや、逃げたと言った方が正しかったかもしれない。しかし、それで終わりではなかった。どうやったのか知らないが、地下闘技場から地上へと出て高い屋根へと登って一息ついていると何故か真後ろまで迫っていた忍のお兄さん。余りにも優秀すぎる忍の存在に、そこまでして内情を探られたくないのかと眉を潜めたのはほんの一瞬のこと。お兄さんがクナイを取ろうと懐に手を入れた時には既に足元を蹴っていた。そこからは、元隠密機動のプライドにかけて瞬歩をフルに使って帰ってきた。その連用数は裕に百を超える。当然、圧倒的速さでお兄さんとの距離はすぐに離れ、振り切ることに成功した。
ちなみに退は全快。一応、大事をとって休ませてはいるがミントンが出来るぐらい元気だ。副長は目を見開いて驚いていたがそれは別段驚く程のことでもない。何故かって、昨日退を治療したのは、解析を終えてしっかりと解毒剤を用意し、医療班に扮して屯所に忍び込んだ喜助とひよ里だったのだから。技術開発局局長と研究室長であった二人からすれば人間如きが調合した薬などわけない。
それと、昨日の夜。副長と私は夜遅くまで退の持ち帰った資料について話し合っていた。その優秀な監察が掴んだ情報は、眠気を吹っ飛ばすのに充分だったのである。煉獄関の賭け事に関与していた幕府は、実質この国の実権を握る“天導衆”とかいう奴ら。“この国の実権を握っている”奴らだ。当然、告発など容易に出来まい。やってしまった暁には、良くて切腹、悪くて全員打ち首だ。


『この資料、お前にだけしか分からねェように書き換えて原本は燃やせ』


これが幕府上層部にバレるのは絶対防がなければならない。喜助に教えて貰った技術開発局のデータ保存時に使用されている暗号と隠密機動の暗号とを混ぜたもので昨夜は一睡もせずに書き上げた。だから非常に眠い。見送りなんて、正直めんどくさくて仕方ない。


「オイ、四楓院」


と欠伸をしたところで不意に副長の声が耳に入って来た。


「…あ、はい。何でしょう」

「何でしょう、じゃねェよ。近藤さんだ、近藤さん」

「へ?……あ、いってらっ…ていうか、何で泣いてるんですか!?」


で、今は何をしているのかと言うと、局長の出張の見送り。珍しくちょっと長めになるらしく、数 日前から慌ただしく自分の仕事を片付けていたのが記憶に残っている。そんな見送りに立っていたのだが、本音と昨日の忍のオッさんのことで完全に上の空になっていたらしい。気付けば目の前でゴリ…局長がさめざめと泣いていた。


「……いいんだ、別に。気にしてないから」

「い、いや、局長。あの、…」

「俺は何度も呼びかけたのに、トシは一回で振り向いたのなんて気にしてないんだから」

「めっちゃ気にしてるじゃないですか」


そう言いながらも、いじけて酷く面倒臭い局長にバナナを差し出したりして宥めていると、副長の溜め息が聞こえた。


「近藤さん。時間だ。運転手も困ってる」


ナイスです、副長。目だけでそう伝えると軽く睨まれた。すいませんソレ怖いです。もうしませんから許して下さい。


「じゃあ、行ってくる。二人共、頼んだぞ」

「ああ」

「はい。お気を付けて」


そう言って二人は幕府専用の黒塗りの車が見えなくなるまで、屯所の門前で見送った。


「……さてと。メシ、行くか」


現在は朝の六時半。
大将が無事出発し、何だか嫌に威圧感のある幕府の車が目の前から消えたことにより気が緩んだのだろう。煙草の煙りを溜め息と共に一気に吐き出している。そんな上司の姿が何故か世間一般にお母さんと呼ばれているものと重なり、ふと笑みが零れた。


「…んだよ」

「いえ。何でも御座いません」


それより早く食堂に参りましょう、と背中を軽く押して促すと押すなよといいながらも足はスムーズに動いてくれた。そうやって歩くうちに食堂に近付き、同時に比例して隊士の声も大きくなってくる。


「副長、終わりました。どうしますか?」


そんな喧噪に紛れさせて囁くと、副長は驚いたように此方を見た。


「…早すぎねェか?」

「いえ。こういう仕事に関しては早い遅いは関係御座いません。どれだけ早いか、が問題です」


にっこりと笑って脇に抱えていた資料の束引き抜くと、まだ驚きが消えない彼に渡した。そしてその資料の題名が目に入った瞬間に副長の顔は若干引きつった。


「………《トイレ清掃について》」

「いい題名でしょう。誰かが見ても決して中を覗こうとは思いませんよ、大体の予測は付きますからね」


中の内容までトイレ清掃について書かれていて、自分が読んでも一切分からない資料は最早緊張感の欠けらも感じられない。あれ、確か昨日自分達は真選組を揺るがす程の物凄いことを掴んでしまったのではなかったっけと、思わず現実を疑いたくなるぐらいだ。
だが、コレなら確実に分からない。


「……すげェな」


剣の腕は勿論デスクワークにも長けていたのは十分に把握しているつもりだったが、改めて凄さを実感した。そうやって珍しく素直に感想を述べた副長に思わず、後退りをした。



「…なにやってんだ、お前」

「いや、気持ち悪いなって」

「…ねぇ、斬っていい?痛くしないから。すぐ終わるから。一瞬で送ってやるから」

「止めといた方がいいですよ、副長。私、“手加減”って下手なんです」

「よーし。四楓院、刀を抜け。メシはそれからだ」

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