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山崎はミタ。壱








「副長。四楓院です」

「入ってくれ」


幽霊騒ぎから随分と経ち、いつの間にか蝉の鳴き声も聞こえなくなっていた。屯所の庭にある落葉広葉樹の青々とした葉は黄色くなりつつあり、秋の装いが目に着き始めている。そんな季節の移り変わりを見て、落ち葉が溜まったら総悟と焼き芋でもしたいなと思いながら廊下で歩いていた。
そんな時である。

『その書類、終わったら俺の部屋に来てくれ』

『あ、はい』

大して人の顔も見ずにいつものように眉間に皺を寄せながらそう言われ返事をすると、庭の衣替えなど一切見ずに自分の部屋へと帰った副長。まぁ、忙しいのは分かるけども。せめて日本人ならば少しぐらいは興味を示して欲しいものである。そうやって副長の日本人としてのあり方に不満を抱きつつ、彼の部屋の前で声をかけた所で冒頭へと戻る。


「…山崎が潜入捜査に出てるのは話したよな?」

「はい」


襖がしっかりと閉められたのを確認すると少し声を顰めて尋ねてきたのでこちらも声を顰めながら頷く。するとそのことなんだがと言って彼は一層眉間に皺を寄せた。


「昨日の朝から山崎と連絡が取れなくなった」

「…朝の何時からか覚えてらっしゃいますか?」

「午前10時だ。その時間はちょうど定期連絡の時間だったからな」

「今が午後6時47分、ということは…32時間47分」

「……ああ、音信不通だ」


長いな。いや、長過ぎる。
退の監察としての腕は副長が全幅の信頼を寄せているのを見れば明らかなように、かなりイイ。何より喜助や夜一が認めているのだ。余程のことがない限り、収穫情報がゼロだったり捕虜になったりと失敗することはない。そう誰もが思っているだけに定時連絡を入れない山崎に何かあったと考えるのは当然だろう。


「1日、…様子を見ようと思ったんだ。もしかしたら無線が壊れただけかもしれねェし、今日戻る予定だったしな」

「…だが戻る予定の午後3時を3時間過ぎて尚連絡はない、と」

「…ああ」


今回の退の潜入捜査は副長と私の三人の間でしか知らない極秘調査だ。前々から気になっていたことを本格的に調べたいという副長様の我が儘に二人が付き合ったという形である。つまり屯所内では誰も知らないので、退が潜入捜査を失敗したかもしれないと隊を容易に動かすことは出来ないのだ。
だから。
この最悪の場合を想定して、副長は自分にも話したのだろう。いざとなったら立場を利用して簡単に動ける副長護衛兼補佐にも。


「退の救出を最優先に?」

「ああ」

「……副長。先に申し上げておきますが、私は退のように“優しく”はありません」

「……ああ。いざという時は殺れ。後で腹切るでも打ち首でもなんとでも責任とってやる。とにかく山崎の救出を最優先に、」

「じゃあ殺しは出来ないですね」

「…何故だ」

「私は貴方を護る為にいるんですから。腹を斬らせるワケにはいきません」


そう言って微笑めば、副長は目を見開いた。ついでに口から煙草もポロリと落ちている。


「何をそんなに驚いてらっしゃるんですか?」

「え?い、いや…なんでもねェ…」


いや、挙動不審度ハンパないんですが。と言い返そうと思ったが、今はそんなことを指摘してからかって楽しんでいる暇もない。また今度にしよう。


「必ず、ウチの優秀な監察を連れて帰って来ますから」

「頼んだ。…気を付けろよ」

「はい」


そう言って出て行ったはいいが、一時間程でぐったりとした退を肩に担いで戻って来た時には、笑顔のひとつも見せる余裕はなかった。































― 山崎はミタ。壱 ―

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