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にわかしにがみ。







「あれは今日みたいに蚊がたくさん飛んでる暑い夜だったねェ…俺、友達と一緒に花火やってるうちにいつの間にか辺りは真っ暗になっちゃって……」


総悟が名前に道場で奇襲をかけたその夜。時刻は深夜を回ろうと言うところか。真選組屯所のある一室では隊内の殆どの隊士が団扇を片手に集まっていた。


「……もう真夜中だよ?そんな時間にさァ、寺子屋の窓から赤い着物の女がこっち見てんの。俺もうギョッとしちゃって…」


部屋は真っ暗。灯りと言えば今まさに喋っている稲山の顔を照らす懐中電灯の光のみ。普段見慣れた顔もこういう時は何故か恐ろしく見えるものだ。


「でも気になったんで恐る恐る聞いてみたの。
“何やってんの?こんな時間に”
って。…そしたらその女、ニヤッと笑ってさ……」


特に、“怪談”をしている時は。
彼の話の冒頭にあった通り今夜はアイスなどものの数十秒で溶けてしまいそうなぐらい暑いのだが、この不気味な雰囲気も手伝ってか空気はひんやりと冷たい。そんなシチュエーションからなにまですっかり揃っている深夜の怪談は何者にも壊せないと思っていたし、それ以前に壊す者などいないと思っていた。

のだが。


「マヨネーズが足りないんだけどォォ!!」

「「「ぎゃふァァァァア!!」」」


いた。
見事にオチの前にマヨネーズなどと下らぬ言葉を挟んで邪魔する輩が。マヨネーズが足りなくて文句を言いに来たのか、はたまた怖いもの見たさで襖の側で聞き耳を立てていたが怖くてオチを遮ったか。まぁどちらか定かではないが、兎に角、今の土方の登場で雰囲気がぶち壊されたのは間違いない。


「副長ォォォオ!!なんてことするんですかァ!?大切なオチをォオ!!」

「知るかァ!マヨネーズが切れたんだよ!買っとけって言っただろ!?焼きそば台無しだろーがァ!」

「もう充分かかってるじゃねーか!なんだよソレ!最早焼きそばじゃねーよソレ!黄色い奴だよ!!」


二言目には『切腹』の鬼の副長にこうも強気で出てしまうのは当然だろう。そんな言い合いをしてる中、近藤が土方のマヨネーズで泡吹いて気絶していたのが発覚。それを呆れ顔で見ながらその場を後にする土方に、悪気など見えやしない。


「くだらねェ…大体幽霊なんぞいてたまるかってんだよ」


自室へと戻り彼曰くマヨネーズの足りない焼きそばを食べ終えて、煙草をくわえながらそう呟く。最近やたらと蚊が多いな、と首に止まる蚊を仕留めた時にふと声が聞こえて、土方の動きが止まった。

……―死ねェ〜…


「…え…?」


……―死ねよ〜土方〜お前頼むから死んでくれよォ〜


名前が限定された死の懇願に部屋が火事になることも忘れ、口から煙草がポロリと落ちた。


「……まっ、まさか…ホントに…」


顔に冷や汗を浮かべながらも、意を決して勢い良く襖を開けるとそこにいたのは同じく顔に冷や汗を浮かべる白装束の沖田。頭に蝋燭を立てていることからなんらかの怪しげな儀式を開いていたことは明瞭だ。


「…何してんだテメェー…こんな時間に?」

「ジョ…ジョギング」

「嘘つくんじゃねェェ!そんな格好で走ったら頭火だるまになるわ!!」


最早隠す気もあるか分からない沖田の余りに苦しい言い訳に青筋を立てながら怒鳴り返していたが、不意に目の端に何かが映り口を噤んだ。


「どうしたんだィ?土方さん」

「総悟…今、あそこに何か見えなかったか?」

「いいえ?何も…?」


「ギャァァァァア!!!」


 「「!」」


何をいきなり言い出すのかこの人は。そんな顔をしながら土方に答えた沖田だったが次の瞬間に聞こえた悲鳴で、それはどうでもいいこととなった。


「…何ですかね、今の色気のねェ悲鳴」

「野郎に色気のある悲鳴求めてどうすんだ。取り敢えず俺ァ行く。お前、四楓院呼んで来い」

「名前なら今、夜間見廻りですぜィ?」

「は?なんでアイツ一人で……つーか、今日テメーの当番じゃねェか!?」

「儀式遂行の為に代わってもらいやした」

「……お前、絶対仕事ナメてんだろ」

















―ゲームは夜九時まで―




















「………絶対私のことナメてんだろ、アイツ」


沖田と土方が色気のない悲鳴を聞いたのとほぼ同じ頃。沖田の代わりに夜間見廻りに来ていた名前は吐き捨てるようにそう言うと、苛立たしげに携帯を閉じた。


{あ、名前さん?ちょっと遅くなっちゃいそうなんで、待ってて貰えますか?}

『……何かあったの?』

{いや〜それがっスねェ…平子さん達とゲームしてたら…}

『…時間経つの忘れちゃって〜、てか?』

{ハイ♪}

『もういっぺん死んで来い』


全く悪気の見えない喜助に怒鳴りつけると一方的に電話を切った。携帯を壊さなかったのは奇跡に近い。大体、時間指定をしてきたのは喜助の方だ。なのに、その本人がいないとはどういうことか。


「浦原商店から此処まで喜助の足で、恐らく…約5分。

…こんな蒸し暑い中待たせるってどんな神経してんだよ」


夜中に呼び出して悪いからと、喜助の為に買っといたアイスを口に加え、文句を垂れる。…恐らくこのアイスが彼の口に入ることはないのだろう。ちなみに彼女が今いるのは薄暗い路地裏。勿論喜助に指定されたワケだが、何故こんな微妙な場所なんだと今更ながらに疑問が湧く。


『いいか。路地裏はな、人目につかないって点で浪士が仕掛けてくる確率が一番高く、検挙率も高い場所だ。だが、逆に捉えれば俺ら真選組にとっては一番危ねェ場所になる。だからもし、見廻りで路地裏に入んなきゃなんねェ時は袋小路になってないかを絶対確認しろ』


と、結構前に言われたのをふと思い出した名前は自分の左側に目をやる。


「……すいません、副長」


完全に行き止まりです。屯所で恐らく寝ているであろう人物に笑いながら無言で謝罪をする名前の目線の先には、彼女の背丈を裕に超える木目の壁がある。つまりもし、今ここで右側から浪士の集団が来たら名前はご愁傷様というワケだ。


「……ここで死んだら殺されるんだろうな…」


そうやって、矛盾しまくりの言葉を呟いていると割と近くまで喜助の霊圧が迫っているのに気付いた。しかし、何だか急いでいるようである。


「…そんなに律儀な奴だったっけ?」


普通ならあまり見られない行動に首を捻っているうちに、喜助の姿が右側の袋小路になっていない方から見えた。


「喜す……




「名前さん!!後ろ!!」




……え…?…」


そんなに焦ってどうしたの。
本来ならば後に続く言葉は鋭い喜助の言葉によって遮られた。他の隊とは言え、元上司だ。戦場さながらの緊迫感に反射的に斬魄刀を引き抜きながら振り返るとありえない位置に“ソイツ”はいた。


「…なん…で…」

「……見たな」


“ソイツ”は振り向いた名前の真ん前。背後など滅多なことがない限りとられることはない。だが、実際今とられているし、振り上げられた刀は既に真上。マズい、動かないと。そう思っていても何故か体は思うように動かない。なすすべもなく振り下ろされる刀を見て、恐らく来るであろう痛みを想像しながら思い切り目を瞑った。

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