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書類整理時々魂葬。








『なにかありました?…高杉と』


銀時一歩手前の店長にそう聞かれてから二週間は経つ。あの時、確かに喜助の様子はいつもと違っていた。“あの夜”程でもないが何処か険しい表情。敵に対しても一応さん付けなのに何故か呼び捨て。声色に僅かに滲んでいた感情。どれもよっぽどのことがない限り見ないものだ。だが、ゴリラの乱入によってそれは流れてしまい、ゴリラに見送られてた時には既にあの雰囲気はなかった。しかも困ったことに、確かめようにも仕事が忙しくて休みがとれない。


『その話はまた今度にしましょ。それと、外出する時は行き先を誰かに伝えてから行くんスよ?』


こんな餓鬼に諭すような電話を五日前にしたっきりだ。あれ以来喜助と会っていない。


「…なんだったのかなぁ…」

「なんの話だ?」


思わず口から零れた言葉を上司に聞かれていたらしい。何でもない単なる独り言ですと軽く笑って言えば、そうかと再び手元に目を戻していた。
名前が今いるのは土方の部屋。片手に筆、目の前に積まれた書類、浴衣と着流しという状況を見ると今日一日、二人は書類整理に徹しているらしいことが分かる。既に陽は高く昇り正午も近いと言うのに、隊服を着ていないということは、そういうことを指している。


「副長。お昼近いですが、一息入れませんか?」

「ん?…ああ、そうだな。持ってきてやるよ。何が飲みてェ?」

「何を仰いますか。私が行くに決まっておりましょう。冷たい麦茶で宜しいですか?」

「あ、あァ…悪ィな」


何で謝るんですか。名前はそう言って笑いながら立ち上がると襖に手をかけて外へ出た。
























ー 書類整理時々魂葬 ー



















「名前お姉ちゃん」




「……ん?」


副長室から出て少し、庭に面した所を歩いていると誰かに呼ばれたような気がして足を止めた。
昼も近いこの微妙な時間帯。
隊士の殆どは任務についているか、食事をとっているかのどちらかなので当然庭で呑気に園芸をやってる人は誰もいない。それに、この屯所内で自分のことを間違ってでも“お姉ちゃん”などと呼ぶ人物はいない。
つまりいるとしたら一人だけ。


「章太!」

「久しぶり、お姉ちゃん!!」


嬉しそうな声を上げて腰に飛びついてきたのは8歳ぐらいの男の子。世間一般には幽霊と言われている部類に属する子だ。


「最近見ないからてっきり尸魂界に行ったのかと思ってたよ」

「えへへ。寂しかった?」

「生意気言うんじゃない。どこに行ってたの?」

「公園!」


そっかそっか、と言って頭を撫でてやれば更に嬉しそうな顔をする章太。ちなみにこの男の子。いつだったか総悟と縁側に座って話していた時に名前の視界に写っていた子である。


「今日はね、お姉ちゃんにお願いがあって来たの」

「ん?何かな?」

「母ちゃんに“泣かないで”って。“僕、元気にやってくから。桃子と幸せに暮らして”って言って欲しいんだ」


腰から手を離し、そうやって真剣な顔をして言う少年に思わず目を見開いた。章太という少年はある不慮の事故で不運にも命を落としてしまった子だ。それも母親と妹と公園に行く最中に。その事故当時の現場の交通整備をしたのが真選組であり、その時にパトカーに乗ってこの屯所に来てしまったという何ともお茶目な幽霊少年でもある。幼いということもあって自分が死んだことを理解してないんじゃないかと思い、総悟と話したその夜、池の縁にいた章太に声をかけてみたのだが案外しっかりしてる子で。その場ですぐに魂葬をしようと言ったのだが、そこは聞き分けが悪かった。


『母ちゃんと桃子と父ちゃんがまた公園で笑ってるのを見てからじゃないと嫌だ!』


「……お姉ちゃん。このままいたら僕…危ないんでしょ?」

「まぁ…整だからね。それに現世の事柄に執着心がある。よりによって親族にね。虚に落ちないとは言い切れないよ」

「うん。だから、もういいんだ。それで母ちゃんや桃子を傷つけるなら、早く尸魂界に行った方がいい」

「章太…」


なんて出来た子供だろう。ウチの一番隊隊長と副長に見せてやりたい。と、若干愚痴のようなことを心で零しつつ、章太と同じ目線になれるようにしゃがみ込んだ。


「章太がそれでいいって言うなら今すぐにでも送ってあげる。…けど。本当に、いいの?」

「うん。さっき母ちゃん達の顔見てきたからね。もう、いい。満足」


にっこりと笑って言うと少年は着物の懐から何か小さい物を取り出して名前の手に乗せた。


「…コレは?」

「貝殻!海に行って採って来たんだ。桃子にあげて、お姉ちゃん」


だから最近、顔見なかったのか。海なんて遠かっただろうに。


「……絶対渡すよ、約束する」

「ありがと!!」


本当は最後に会わせてやりたいが、見た目以上に章太の魂魄は不安定だ。何をきっかけに虚に堕ちるかわからない。かわいそうだが、自我を失った状態で家族を傷つけること程悲しいことはない。この少年はそれを分かっている。この歳で。


「さてと。お姉ちゃんからも一つお願いがあるんだけどいいかな?」


斬魄刀を抜き、柄の先を章太のおでこに近付ける前にそう言うとなに、と首を傾げた。


「尸魂界行ったら私の名前、存在は一切喋っちゃダメ。友達が出来てもね?」

「………うん、分かった。絶対喋らない」

「よし、いい子」


そう言って刀の柄を章太のおでこに付けると、最後にと霊体が完全に消える前に微笑みながら頭を撫でていた。


………が。



「名前…ちゃ…ん…?」

「さ、退……」


突然、後ろから声をかけられて、恐る恐る振り返ると、そこには思いっきり怪しんだ目をした地味男が立っていた。

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