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十三番隊舎。





…喜助の予想通りだ。

予想通り、なんだけどやはり動揺は隠しきれなかった。隙を突かれあっけなく自分の手から飛ばされた斬魄刀を視界の端に捉えながら、高杉を見上げた。


『……っお前、…何処で…』

『…“何で”、と聞かねェとこを見ると予想はしてたみてェだなァ…

俺が藍染と接触してるのは』


ニヤリと笑いながら自分を見下ろす高杉に藍染の顔が重なり背筋が寒くなる。すぐにでも彼をはねのけたいのだが左脇腹に刺さっている刀がそれを阻む。いくら動揺したからと言って人間に刺されるとはなんとも情けない。夜一に知られたら殺されるんだろうな。


『…惣右介なんかより…百倍頭のええ奴がおるからなぁ…それよりこの刀抜いてくれない?あんたが、いつまでも体重かけてるから、痛くてかなわんわ』

『…クク…この状況でそんな減らず口が叩けるたァ驚きだが…お前ェさんそろそろ限界なんじゃねぇかァ?

…意識保ってんのによォ』


その言葉に目を見開く。

…そうだ。さっきから何かおかしいと思っていた。ただ刺されただけなのに変に意識がふっとびそうな感覚がする。そこまで出血はしてないのにだ。


『………なんか、したのか…』

『なんかって程じゃねェけどな。…“穿点”って薬に聞き覚えはねぇか?』

『……マジ、で…?…』


穿点。確か強力な麻酔系の一種で、霊圧の低い死神なら僅かな量で意識を混濁させることができる薬だ。恐らくコイツはそれを刀に塗っている。塗りたくっている。
…やられた。
いくら霊圧の高い死神でもコレには逆らえない。


『…私を…どう…す…る、つもり………だ…?』


途切れそうな意識を必死に戻しながら問えば高杉はまた怪しい微笑みを浮かべる。


『それァ…起きてからのお楽しみってヤツだァ…


…名前』


唇が触れそうなほど顔を近付けながら高杉に言われた言葉を辛うじて聞き取ったのを最後に、視界が暗転した。






















―十三番隊舎―






















目を開けるより僅か前に意識が戻り、同時に自分の側に何かの気配を感じた。何をどうこう考えてる場合じゃない。
“これ”を始末する方が先だ。
そう判断し、起きると同時に割と近くにあった斬魄刀の柄を掴み一気に引き抜くと“それ”に斬りかかった。意識が戻ってからその間、僅か2秒。確実に仕留めたと思ったのだが耳に入った音は予想に反して鈍い金属音。人間に防げる筈もないと驚き、思わず顔を上げれば淡い金髪の良く見慣れた顔がそこにあった。


「おはよっス。名前さん」

「…浦原…隊長?…」


自分が斬りかかった相手を見れば、そこには紅姫を抜いている喜助がいた。ということは此処は鬼平隊の船内じゃないのか。彼の優しい微笑みを見ながらそう思った瞬間一気に安堵感が押し寄せ、刀を下ろして大きく息を吐いた。


「傷は痛みますか?」

「いえ…それほど……それより此処は…私の部屋?」


冷静になって辺りを見回せば何となく見慣れた景色。隅にある机の上に何かの書類が積まれているのが分かる。“屯所内”の自分の部屋だ。


「そっスよ。真選組の屯所内っス。…ていうかアナタ昨日斬られて森の中で倒れてたんスよ?覚えてます?」


『…知ってるよなァ…藍染惣右介を』


「……はい…」

「携帯が繋がらないのを不審に思って探しに行った土方さんが見つけたんスよ。

…会ったんスね?」

「…はい」

「やはり繋がってましたか……」


流石喜助と言うべきか。脇腹の傷の血中成分から穿点まで辿り着いたのだろう。後は簡単だ。こんなもの浦原商店以外、現世で手に入るわけがない。そして彼に売った記憶がないのなら残る選択肢は一つだけという結論に至る。


「…ああ、そういえば名前さん」


考え込む喜助を隣に刀を閉まっているとふと呼びかけられた。彼にしては珍しく何だか表情が険しい。


「…なに?」


怪訝に思いながら問うと、先程より少し語気が強まった喜助の声が返ってきた。


「なにかありましたか?

…高杉と」


………え?


「……ど、どういう意……


「名前ちゃァァん!!!!」


………へ?」


急に響いた大きな声。
かと思ったら、廊下が抜けるんじゃないかってぐらい大きな足音がして、これまた壊れるんじゃないかってぐらいの勢いで襖が開いた。そこにいたのはゴリ……局長。


「きょ、局長?どうかなさっ……ぐぇっ…ちょ、局長!?離れ……

「良かったよォォー!!目が覚めてェー!」

「…え…?私どんだけ重症扱いなんですか。ていうか局長、暑苦しいです」


姿を確認するなりいきなり抱きついてきた局長。普通のオジサンなら間違いなく殴り飛ばしてるだろうけど、局長だから何となく許される。本気で泣きながら良かったと繰り返す近藤に困ったような笑みを浮かべご心配をおかけしましたと謝ると漸く離れてくれた。


「うんうん。とにかく無事で何よりだ」

『…無事で良かった』


…似てる。


涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔は程遠いが、部下思いの性格や雰囲気がある人を思わせる。


私の、元上司である人を。


「…大丈夫ですよ。私は滅多なことがない限り死にません」


局長か、或いは別の人へか。相手はどちらか定まらなかったが、目を見てしっかりと言えばそうかそうかと言って彼は頭をポンポンと叩いてくれた。


「んじゃアタシは帰りますね」


それを見ていた喜助が側に置いてある紅姫を片手に持ちながら立ち上がった。いつの間に戻したのか今は刀だと分からないように杖になっている。


「あ、うん。ハッチと鉄裁にお礼言っといて」


脇腹の痛みが殆どない。恐らく夜中に真選組の目を盗んでここに来て鬼道で治療してくれたのだろう。そう思ったのだがやはり当たりのようで。最初から承知していたかのようにハイと返事をすると、喜助は開きっ放しの襖から廊下に出た。と、急に局長が立ち上がり喜助の後を追った。


「あ、玄関までお送りしますよ!!浦原殿!!」

「え、そんないいっスよ〜アタシはただ暇だったから来ただけで。それに色々とお忙しいでしょう」

「いや〜優秀な部下が多くてね。私なんか名前だけの局長のようなもんですよ。アハハハ」


局長はほんとこういうの上手いよな。
既に小さくなりつつある二人の話し声を遠くに聞きながら思わず感心してしまう。相手が不快にならないような押し通し方を良く知っている。…まぁ本人は無自覚なのだろうが。


「真選組局長…と、初代技術開発局局長か」


同じ局長でも大違いだな、と呟きながらふと笑うと土方に電話をするべく携帯を開いた。

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