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ぷろろーぐ










降り積もる雪の中。


淡い翡翠色の刀を握り締め、私は呆然と立ち尽くす。



『氷雨ェ!!』



悲鳴にも似たその声は、今しがた自分を庇い、目の前で倒れた人物に向けたもの。

その場に膝を付き、彼の体を抱き起こしなんとか頭を腕に抱える。



『あぁ……無事なようで何よりです。あんな無茶は…今後、一切しちゃ駄目ですよ?貴方はまだ子供なんですから』



そう言いながら私の涙を掬う手は冷たい。雪の所為なのか、はたまた死期が近いからなのか。



『大の大人を抱えるのは骨がいるでしょう…私は置いて早く行きなさい』



いやだ、と言って首を振れば私達から僅か数メートル離れた場所にいる《化け物》が唸った。


なんで…なんで私達なのだろうか。

どうして…この場所でなければならなかったのだろうか。


平凡な日常の夕飯は、突然の《化け物》の襲来に因って、呆気なく非日常となり果てた。


氷雨の攻撃を受けた《化け物》は一時的に大人しくなっていたが、今はゆっくりと近付いている。

…氷雨の死期と同様に。



『…名前。この斬魄刀は貴方にあげます』



そう言って渡されたのは真っ白い筈なのに彼の血で赤く染まった刀。


…なんでそんなお別れみたいな言い方をするの?



『あの虚は今、私の鬼道で動きを鈍らせています。…でも、解りますよね?』



…うん。解る。でも言わないで。貴方の、あたしの親のような存在である貴方の口からそんなことは聞きたくない。



『あと数分で、それも解けてしまいます』



…やめて。聞きたくない。貴方とはもっと別の話をしたい。明日の朝食のおかずとか、今日貴方から教わったことについてとか。



『だから…私が、死ぬ前に早く…早く逃げなさい』



…いやだ。貴方を置いて逃げるなんて絶対にしない。出来ない。



『名前…いい子だから私の言うことを聞きなさい』



…いやだ。


しかし、いくら抱きしめてても、いくら涙を流していても、いくら首を振っていても、確実に冷たくなっていく貴方の体。途切れ途切れになる呼吸。弱くなっていく心音。


それなのに貴方の表情はいつもみたいに穏やか。

剣術だとか、鬼道だとか、世の中の知識だとかをあたしに教えてくれている時の表情だ。

でも何だか良くわからない。

今、貴方は何を教えてくれようとしてるの?



『名前……聞きなさい。これが私の最期の"願い"です』



違う。その表情は教える時のもの。願いじゃない。

何が言いたいの?何を私に"教え"ようとしているの?



『…生きて…立派な、死に…が、…』



…それを境として急に増した氷雨の体が冷たくなる速さと、《化け物》の迫り来る速さ。


それをぼんやりと視界の端に捉えながら、あたしは氷雨の最期の"教え"を漸く理解した。












私を娘のように可愛いがってくれた貴方の命懸けの"教え"、を。



























―別れ―








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