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むかしのはなし。参



「…氷雨に……子ども?」

「そう噂されてるのを耳にしたけどねぇ」


場所は十番隊舎。ある日の昼下がりに友人でもある京楽の隊舎へと立ち寄った。数ヶ月前に任務中の怪我と元来の身体の弱さから副隊長が辞めてしまった。寂しい気持ちもあったが任務には常に死が隣り合わせだ。彼も苦渋の決断というのは分かったので意見を尊重した。その悲しさからいい加減現実をみようと、新しい副隊長の候補を京楽に相談しようと思ったのだが、思わぬ話をされて手に持った饅頭を落としてしまった。


「え?相手は誰だ?あいつの周りにそんな匂いはなかったぞ!?」

「あのねぇ。いくら氷雨くんだって男だよ?女の子の一人や二人いたっておかしくないでしょ」


昼間だと言うのにお猪口を口へと運びながら呆れたようにそういう京楽になんでそんな冷静でいられるんだと頭を抱える。袂にしまってきた書類ががさりと音を立てた。


「だってあいつがやめた理由は、」

「それに偽りはないでしょ。彼はそういうことはしないはずだよ。それより浮竹ェ、いい加減座ろうよ。落ち着いて飲みたいなぁ」


そう言われて漸く自分が取り乱していたことに気付く。ひとまず彼に謝り座ると、出されていたお茶を取る。一口啜って気持ちが落ち着いたところで、饅頭を手に取りながら京楽の方を見た。


「その子どもはどのぐらいの歳なんだ?」

「リサちゃんの話だと朽木家の白哉君より少し下ぐらいだと」

「まさか矢胴丸は会ったことあるのか?」

「リサちゃんだけじゃなく、って感じみたいだよ」

「?どういうことだ?」


予想していなかった方向に行こうとしている話に首が傾く。そんな自分を見ておかしそうに笑いながら縁側へと寝転ぶ京楽。そのままお猪口へと手を伸ばして煽ると俺にもそれを進めてきた。やんわりと断って話の続きを促せば、少し残念そうな顔をして言った。


「僕が知る限り二番隊の隊長さんも一枚噛んでるみたいだよ」


というか仕事中に呑むんじゃない。
























ーむかしのはなし。参ー

















「夜一!夜一はいるか!?」


昼は、畏れ多いと俯き加減の砕蜂を無理矢理連れてうどんを食べに行った。うどんが美味しいからと連れて行ったのにそこで鴨葱そばを頼んだ儂に瞠目しながら顔を上げた砕蜂に笑い、帰りは美豆良屋の饅頭を買った。八つ時にそれを食べようと口を開けた瞬間に聞こえた声に、心底げんなりした。

大方、十三番隊の元副隊長の”拾い物”のことだろう。

奴が辞めた理由は単に身体の具合でそれ以上でもそれ以下でもない。そもそも十三番隊は浮竹が病弱体質だ。副隊長もそうと来れば有事の際に困るだろうと、そろそろ副隊長二人制度を特別に作ろうかと話が上がりそうな時だった。柔和で温厚。まさに人の良さを絵に描いたような隊長副隊長コンビを見られなくなるのは少し寂しい気もしたが、常に死と隣り合わせの任務、それに副隊長という重責を背負いながら隊員を護るのは段々と自信がなくなってきた、自分が死ぬのは良いが部下が死ぬのは耐えられない、と呑んでいる最中に唐突に頭を下げて言われれば止めることも出来まい。浮竹のことは任せろと言って送り出した。
だが時を置かずして、また別のことで奴の名前が上がるようになった。

『…拾った?』
『ええ』
『子どもを?』
『ハイ』
『……隠し子』
『ではないことは確認済みっス』

どうやって、とは聞かなかったがみんなが思う疑問を噂が立つ前にあっさりと片付けるのは喜助らしい。ついでになんか変わった体質を持っていることもわかったようで今度会って欲しいとも言われた。

『あと』
『なんじゃ。まだあるのか』
『とてもかわいいっス』
『…おぬし、それ本気で言うておるのか?』

そんな会話をしてから三日後に実際に会いに行っている。その時の事を砕蜂に話してやろうと今日、昼を外で食べたのだ。屋敷の中だと色んな耳や目が多過ぎる。まだそういう奴らに聞かせる話ではないと思い外に出たのだが、それも今、浮竹が来たことで水の泡となりそうである。
手に持った饅頭にかぶり付くと同時、襖が開かれた。


「夜一!氷雨の、」

「聞いておる」

「その子は隠し、」

「子ではない。血縁はないと確認済みじゃ」

「そうなのか!?…ってお前、なんて顔して饅頭食ってんだ。はしたないぞ」

「誰の所為じゃと思うとる」


玄関で叫んでから数十秒。その間に気を利かせた砕蜂がもう一つ湯呑みを持って来てくれたので、空のまま浮竹へと投げる。


「ぅわっ、!と、…あれ。何も入ってないのか。よかった」


一瞬、熱湯を被るのではと身構えていたが手に落ちる寸前で気づいたようだ。取り敢えず座るように言って、急須を差し出せば、ありがとうと言いながら律儀に両手で湯呑みを差し出す。そういえば京楽の所では飲み損ねたなと呟いているのでハシゴしてきたのかと笑いが漏れた。


「まるで今のおぬしのようじゃのう」

「…?どういう意味だ?」


季節は秋に入ったばかり。美味しい焙じ茶を昨日仕入れたとか女中が言っていた気がするが、確かに美味しい。浮竹が一口啜ってから自分も喉を潤すと、肘置きで頬杖をついた。


「見てもいないのに中身を想像して焦っておる。実は大したモノも入っておらぬかも知れんのにのう」


そう言ってまた一口焙じ茶を啜って浮竹を見る。1秒程動きを止めて此方を見つめていたが、湯呑みを静かに置くと顎に手を当てて考え始めた。漸く冷静になってきたのだろう。
というかこういう役割は友である京楽の役割であろう。なのにあやつは浮竹を更に混乱させ、興奮させてこちらに送り込んで来た。きっと、喜助が噛んでいるのを知ってだろうが、なんで儂がここまで面倒を見てやらねばならん。
もう一つ饅頭を頬張りながら浮竹のある一言を待って30秒。


「…夜一。その子に会わせて欲しい」


漸く出てきたその言葉に饅頭は飲み込めたが、大きなため息は漏れた。
儂はこいつのお母さんか。

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