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むかしのはなし。弐



「朝からご足労頂きありがとうございます、副長」


浦原と全く同じセリフを吐いた四楓院は手に湯呑みを持って縁側に座っていた。紺色の浴衣に薄緑色の羽織を肩にかけて、まるで病人のような装いに眉間へ皺が寄るのがわかった。隣の座布団を示してお座り下さいと言われたのでそこへ座ると、見計らったかのように部屋の障子が開いた。


「ありがとう鉄裁」


振り返りもせずにそう言った四楓院。鉄裁と呼ばれた男もそれが普通なのか特に反応もせずに近寄ってくると盆の上に乗せた湯呑みをコトリと静かに置いた。ちゃんとお茶請けに落雁を持ってくるところを見るとこいつらの育ちの良さが窺える。


「十四郎殿、ごゆっくり」

「…ああ」


何ともなしにそいつの手を追っていればふと名前を呼ばれて。思わず返事が遅れてしまったが、振り返ったときにはもういなかった。


「副長。昨夜は申し訳ありませんでした」


そうやって少し驚いていると隣からそんな声が聞こえて、顔を戻すと頭を下げている四楓院がいた。手を前について土下座をするその様子がやたらと小さく見えて、言い知れず不安になった。それに。


「……謝るのは俺の方だろ。すまなかった」


何も出来なくて。
自分でも情けなくなるほど小さい声で言えば四楓院が漸く顔を上げた。なんだか久しぶりに真正面から顔を見た気がする。


「いえ。貴方を危険に晒しました。今、ここで首を刎ねられても文句は言えません」

「なに馬鹿なこと言ってんだ。むしろ助けてもらったんだろうが、俺は」

「助けたのは喜助です。私は単なる足手まといでした」


その言葉にたまらず四楓院の右腕を掴んだ。


「副長。今日お越し頂いたのは何故死神である私達が現世にいるのか、そして今私たちは何と戦っているのかを話そうと思ったからです」


急に腕を掴んだのに一切動揺せずに微笑むコイツは昨日間違いなく生死を彷徨っていた。ここ最近何度も話そうとしていたが、それがこのタイミングなのはきっと俺のくだらない嫉妬心に気付いたからだろう。
情けない。本当に。


「聞いて、下さいますか」


十四郎。
掴んでいる俺の腕にそっと手を添えて。懇願されるようにそう言った名前に俺は黙って頷いた。
























ーむかしのはなし。弍ー































多分現世で死んだんだと思う。
私の記憶は尸魂界から始まっている。瀞霊廷内ではなく流魂街にいたからきっとそうだと思っている。ただこれもあくまで子どもの頃の記憶だから正しいものかわからない。だけどとりあえず覚えられる記憶はここから始まっている。
当時の私の運が良かったところは郊外とは言っても第一区の潤林庵の郊外であったところ。流魂街の中では一番治安が良く、強盗も殺人も飢えも流行病もなかった。ただ皆が平和に暮らしている、それだけだった。私もただ朝起きて、近くの寺子屋へ行って、偶に近所の甘味屋で甘納豆を買い、帰って寝る、という生活をただ繰り返していただけだった。

そんな中、出会ったのが彼だった。


「……貴女、お名前は?」

「……そういうあなたはだれ?おにぎり食べたいんだけど」


その日は寺子屋をサボってみた。特に理由はない。なんか行く気分ではなかったのだ。読み書きなんて習って一体いつ使うのだろう。金平糖を買う時ぐらいしか思いつかない。それよりもお腹が空いてきた。私の周りにはお腹が空く人があまりいないから、趣味で野菜を育てている人から食べ頃だと思うとかで分けてもらって空腹を凌いでいる。生前はどこかのお手伝いさんだったとかいうおばあちゃんが近所にいて、そのおばあちゃんから偶に料理を教わっている。今日のお弁当にとおにぎりを握って竹の葉で包んでいたときに、ふと寺子屋をサボって近くの竹林で静かに過ごそうと思い立った次第である。
ちなみにおにぎりを口に入れようとした時に話しかけられた。私は早く食べたいのになんでこの人はそれを邪魔するのだろう。少し不機嫌に応えれば少し驚いたような顔をされた。だけどすぐにそんな顔もなくなり、ふと笑うと私と目線を合わせるようにしゃがんだ。


「…私は、吉田氷雨と言います」


その時に聞きなれない金属音が聞こえて漸く気付いた。思えばこの人は音もなく私の前に現れ、真っ黒い着物を着て腰に刀を差している。偶に似たような格好をした奴らが偉そうに威張ってこの辺を歩いているのを見たことがあるからわかる。こいつは死神だ。ただそいつらと違うところが三つあった。私が食べ物を食べようとしていても馬鹿にしたような表情をしないこと、左腕に十三と彫られた何かを巻いているところ。そして。


「……氷雨さんってとても強いね。空気がきれい」

「!君は、……」


纏っている空気が明らかに洗練されているところだった。

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