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むかしのはなし。壱



『……痛い』
『でしょうね。自業自得です』

几帳面に巻かれた包帯を眺めてぽつりと呟くとため息混じりに言われた。それに少しの不服を示す為に自分を治療してくれた人を見上げた。

『……冷たい』
『当然でしょう。貴女は私の忠告を聞かなかった』

そう言って再びため息を吐くと、その人はついに立ち上がって部屋の奥へと消えてしまう。その先を見てから俯くと、もう一度自分の腕に目を落とした。
大した虚ではなかった。
セオリー通りに動けば難なく倒せる虚だった。だから氷雨も任せてくれたし、助言も手助けもなかった。あの瞬間までは。

……『…【遊べ 風ぐ、』
……『!名前!!やめなさい!!』

動きも遅かったし、十分に自分の気持ちを落ち着けて解放する余裕があると思った。し、解号を知ってから一週間。早かったかもしれないが、行けると思った。
それが慢心だったと気付いたのは、いつの間にか氷雨の腕へと収まっていた瞬間だった。斬られた腕は痛み、血は止まらずダラダラと流れ続ける。彼の右手は構えを解いていて、虚の方を見れば既に昇華している最中だった。

『………怪我では済まない場合もあります。貴女が一人しかいない時も当然あるでしょうし、私もいつかはいなくなります』

視界が涙で霞んで来た時に再び私の前に座って、頭を撫でながらそう言った氷雨。その時はそんなに深い意味では捉えなかったが、今思えば自分の死期を予言していたのではないかと思う程に少し前から色んなことを私に叩き込んでいた。

『いなくならないで』
『……貴女、怒られてるのわかってますか』

そうやって言われたが、恐る恐る見上げた先にあった顔は呆れたように笑っていて。それを見た私は大泣きしながら氷雨に抱きついた。

































ー むかしのはなし。壱 ー








































『珍しい怪我したな。寝不足か』
『…副長』

少し前。ある過激派攘夷浪士の御用改めの日だった。
過激派とは言っても所詮は人間。適当に短刀であしらって斬りつけていたのだが、ふと他の事に気を取られてバランスを崩して、思わぬ攻撃を受けてしまった。大した深さでもなく、直ぐに回道で治療しながらそいつは殺した。

『いえ、天気に気を取られました』
『天気?』

屯所へと戻って、事情聴取や報告書作成など雑務を終わらせた頃に副長がやってきて。ちょうど怪我の具合を確かめていた時だったのでそんな話になり、笑いながらそう言えば思い切り眉をひそめられた。

『雨が降りそうだなぁ、と』
『…お前、モノ獲りの最中にそんなこと考えてんのか』
『ちょうど外の景色が目に入ったもんで』
『余裕か』

そう言って大きなため息を吐くと、庭の方へと目を向けた副長。それにつられて外を見ると、どんよりとした雲が見えた。

『そんなに嫌いか』

思ったよりも近くから聞こえた副長の声に驚いて視線を下ろすと、いつの間にか隣に副長が座っていた。煙草を加えながらじっとこちらを見る様子にそんなに興味を惹かれることでもあっただろうかと、僅かな疑問が頭をよぎる。

『雨は嫌いです』
『割とガキみてぇにはっきり言ったな』
『大分幼い頃に同じ様な怪我をしたことが二度あって』
『赤ちゃん返りってか』
『そこまでいきませんが』

二度目で育ての親が死にました。
そう言って笑えば、一瞬動きを止めた副長。この時、彼から突っ込まれた質問をされたら全てを話そうと思っていた。だけど、予想に反して彼は何も言わず。

『……梅雨明けはもう少し先らしいぞ』

そう言って少し乱暴に私の腕を取ると、綺麗に包帯を巻いてくれた。







「……ー名前!!」


昼間に外へ出た時にふと気になった霊圧があったので、夕方、仕事もひと段落したところで行ってみようと腰を上げた。一人で行くつもりだったので瞬歩にすれば良かったもの、何となく歩いて行こうと思ったのがいけなかった。
玄関でばったりと会った副長は勿論付いて行くと言って聞かず権威を振りかざし、仕方なしに一緒に出てきた。せっかくだからと外で夕飯も済ませようかと焼き鳥食べたいだのおでんが良いだのと話していた時にソレは来た。

『四楓い、!』
『っ”十四郎”!!手を出すな絶対に!』

空間を割って現れた大虚と、それに乗るヒト。何故手懐けているのかと思う間もなく、飛んできた攻撃に思い切り十四郎を蹴り飛ばして怒鳴った。そして斬魄刀で受け止めながら義魂丸を飲み込んだ。
現世へと逃げて来てからずっと霊圧追跡不可能な義骸に入っている。勿論尸魂界や藍染達からの追跡を逃れるためであるが、余程のことがない限り抜けるなと喜助にキツく言われている。今まで何度かまずいなと思うことはあっても、その余程のことはなかった。そう思う余裕があった。だが今、無意識レベルで義魂丸を飲み込んだ。私の身体に入ったルーチェも柄にもなく驚いた顔を浮かべていた。
それが、功を奏した。

『ルーチェ!!』
『っはい!!』

アイコンタクトだけで要件を読み取って動いてくれたばかりかその後も先読みして動いてくれた。大虚と俄死神。今までなら鼻で笑って処理してたかもしれない。だが、今この目の前にいるヤツは違った。
異様な雰囲気を纏い、何より霊圧が巨大すぎた。

『オイ!』

ふと、何かの気配を感じて、同時に十四郎の怒鳴り声を聞いて。二人の方を振り返り目に飛び込んできた光景に迷わず卍解をした。

『っ、ある、じ…申し訳、』
『喋るな。十四郎はその襟巻を外すな。私らの霊圧に消し飛ぶ』
『あ、ああ…』

以前、退に貸した霊圧遮断出来る襟巻きを念の為と巻いていたのだが、それを卍解する前に十四郎の首へと巻きつけた。そんな余裕があることに自分でも驚いているが、俄死神がもう一人増えるというこの絶体絶命な状況に逆に冷静になれたのかもしれない。その急に現れたヤツにルーチェがやられた。咄嗟にどうかしようとしたのか十四郎も刀を抜いていたが、流石に目で追えるわけもなく。ルーチェも気付いてはいたのだろうが十四郎を抱えて逃げる余裕はなかったのだろう。急所を避けて十四郎を庇う方を選んだか。だけど、そこまでさせてしまったことに少し後悔の念が生まれ、思わず噛んだ唇は鉄の味がした。

『【縛導の七十三 倒山晶】』
『っ!なんだ?』
『二人を抱えては無理だ。一旦義魂丸に戻す。それと十四郎。何が起きてもそこから出るなんて思うなよ』
『オイお前、それどういう、』

それ以上副長に構ってる暇はなかった。ルーチェを義魂丸に戻して回復用の液体入り瓶へ入れながら、自分の義骸と副長を纏めて倒山晶を張った。アレに戻るのは少々気が進まないので自分で治してからになるなとくだらない事を考えながら、更に増えたのを含めて二人の俄死神と大虚をどう殺そうかと能力を全力で解放した。

だけど。
絶対に死なせてはいけない人間を気にしながら勝ちに行こうなんて、今のコイツらにはあまりにも無謀だった。
喜助に連絡を取ろうとしたが、そんな暇もなく。この膨大な霊圧に気付いて貰うことに掛けた。なんて甘えを出したのもいけなかったんだと思う。不意を突かれて背中を斬られた。しかも昔藍染に斬られたところを寸分違わず。その正確性に何らかの意図をはっきりと感じた。虚を連れ、虚化に踏み込んでいる俄死神に私の古傷を斬らせる。きっと、私の虚化を狙ったんだろう。
だがそんなことを思いながらも、如何せんもう身体は動かない。無様に倒れれば、怒鳴り声が響いた。


「名前!!」


私が斬られたとして、人間のアンタらに出来ることなんて一切ないから。
銀時に念の為と対死神用の刀を渡した時に、言ったセリフだ。少し私達との付き合いが深すぎた彼は狙われることもあるやも知れないと危惧した上の全会一致の判断だった。いきなり突き放すなどもう出来ないしそんなことしたら銀時はきっと気づく。だったら自衛させよう。いきなりこんな重いモノをスナックお登勢で渡されて一瞬表情が強張った銀時だったが、珍しく全員揃っていた私らの顔を見てすぐに悟っていた。

『…今日お前らの全奢りな』
『それアナタ仕様にする為に結構苦労したんスけどねぇ』
『だったら俺を死神にした方が早かったんじゃね……悪かった!俺が悪かった!だから全員その斬魄刀をしまえ!!』

そうふざけながらもちゃんと腰に差していた。
一体、私達は人間に何を期待しているのだろうか。所詮巨大な霊圧に触れれば消えてしまう存在だ。だけど、銀時ならいっかと思ってしまう。それがたとえ危険を伴うものだとしても最大限防御できる物を与えて送り出してしまう。人間なのに。
だから、刀を与えた時点で彼は覚悟したと思う。死神と対峙する時が来るのだろうと。しかも副隊長以上の実力を持つ者達と。


「っ!…な、!人間、だと!?」

「ハイハイ。人間です、よ!」

「!貴様っ、…」

「神楽ァ!!」

「はいな!!」


後数歩で私を殺せる筈だった状況は崩れた。俄が走り込んで来るのは見えていたし、鬼道で対処しようと詠唱を唱えていた最中でもあった。だけど銀時と神楽の霊圧を僅かに捉え、それが割と近いのを確認して放つのはやめた。その結果、自信満々に振り下ろされた俄の刃からは何故か鈍い金属音が聞こえ、しかも邪魔された相手はどう見ても人間で。
この巨大な霊圧同士がぶつかる中で、まさかそれより弱いモノが入り込むなど誰が思うか。本来ならば何をしに来たと怒鳴り散らすべきなのだろうが、不思議と私の口角は上がっていた。俄の悔しそうな声と表情に。


「お前らの言う人間如きに負ける気分はどんなもんかねェ、…ー”俄”、如きが」


そう吐き捨てて木刀を、私達が渡した刀とは反対の手で抜いた銀時の背中に迷いはなかった。

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