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限界。



「総悟が?」

「ああ、山崎の話だとそうらしい。あの時は急務だったから指示を出したはいいが到着が遅れてな」

「ほぼ二人で処理した、と」

「死んじまった三人がどこまで粘ってたのかは分からねぇが、恐らく」

「だけど、今回総悟は刺された訳で。つまり、あの時息を潜めて隠れて生き残った者がいた。そして、そんな時そんな場所にいた不自然さを考えればソイツは当然関係者。更に言えば創界党の者だと大いに考えられる」

「ご名答だろ。だがこっちにも秘密裏に動きたいとあのドSバカが思ってる所を見ると」

「彼の人間的な部分に訴える何らかの事情がある、と」

「そう言うこった」


渡されたファイルに目を落としながら自分が就任する前の真選組をぼんやりと想像する。考えたところで別段意味のない行為をやめて副長の顔を見た。


「で、どうするおつもりですか」

「切腹だ」

「貴方が」

「何でだ」

「可愛い部下の任命責任がおありになると思いまして」

「そしたらテメェが副長に、って算段か四楓院」

「わー嬉しい明日から零番隊を増やしますかねぇ」

「死神をけーさつには絶対させねぇ。他の奴らの仕事が無くなる路頭に迷う」

「勿体無き御言葉」

「俺は貶したんだがな」


そう言って煙草を既に容量オーバー気味の灰皿に押し込む副長。案の定二本程溢れるも、お構いなしに煙草の箱へと手を伸ばして口に咥える。程なくして視界の端に煙草の煙が写り、灰皿内の吸殻を廃炎で消しつつそれを目で追った。


「……それ、何本目ですか」

「本数なんて数えるか普通」

「じゃあ言い方を変えましょうかねぇ。三箱と三本目、ですね」


副長の目線が私に移るのが分かった。閉め切ってはいないが、殆ど風が吹かない今日は煙がこもり易いしとても暑い。適当に風を吹かせて部屋の換気と暑さ対策をしていたので彼を見ていなかったのだが当たっていたらしい。目線を下ろすと副長と目があった。


「何でしょうか」

「ほぼ確認じゃねぇか」

「いつもは何本かご自覚は」

「……まさか数えてんのかストーカー」

「今の時間、午後二時頃の平均は一箱と六本です。いつもの倍ですね」


そんなに総悟が心配ですか。
反論しかけた副長より先にそう言って微笑めば、あからさまに顔を逸らした。そもそもわざわざ資料室の奥から二年も前の資料を見繕って持ってきて、仕事を止めてまで私に読ませる時点でおかしいと思わなかったのだろうか。やはり総悟が可愛いんだろうなと思って付き合ったが、図星を突かれた後の誤魔化し方をいい加減考え直した方が良い。あれではその通りですという自己表示以外ない。


「あの時涼はいなかったようですね」

「……非番だったんだ」


涼がいれば。そんな声が聞こえて来そうな雰囲気だ。口にしている煙草はもう半分もない。いい加減捨てても良いのではないかと非喫煙者の私にも分かる。彼の口元に灰皿を持って行くと、ぼんやりと畳の上のファイルに目を落としていた副長は顔を上げた。


「やめましょう。たらればは」


私達は"あの夜"から何度たらればを考えたか。
何か一つでも違ったら、見破れていたら、気付いていたら、力があったら。だけど、毎日毎日何度も何度も考えたって、過去には戻れない。それにたらればをシミュレートしたって誰かしらが必ず殺されることになって、死者ゼロの今の結果が最善だったのではないかとさえ思ってしまう。


「……そうだな」


目が合って暫く、そう呟いて煙草を灰皿へと押し付けると副長は短く息を吐いた。
































ー 限界。 ー






















『……ここで。何を』


一体誰がこんな悲劇を予想しただろうか。
地面に斬り伏せられた隊長副隊長全員の顔には虚の様な仮面があり、纏わり付いて残っている霊圧は見た事もない異様なモノで。相対するのは底知れぬ力を持つ反逆者。
そしてそれに唯一刀を向けているのは、一番非力な四席で。いくら全開で解放していてもそれは棒切れにしか見えなかった。
その絶望的な状況下でまるでアニメのヒーローの様な登場をして間に入ったのが、浦原隊長だった。


『…ー藍染、副隊長』


あと数ミリで私の顔に手が届くという所で突如、身体を後ろから引っ張られ、その見知った霊圧に斬魄刀も落として縋る様に無我夢中でしがみ付いた覚えがある。


『……何を。…ただ、平子隊長達の救助を試みていただけですよ』

『救助?』


私の頭にあった手に力が入る。より喜助の胸に押し付けられたことで少し息苦しくなって、顔を上に向けた。

それに後悔した。

彼の顔に見た事もない感情が浮かんでいたから。私はアレに心底、


『嘘言っちゃいけない、コレは。


………ー"虚化"だ。』



ゾッとした。














「……ィ、オイ四楓院!!」

「!っ痛、…」


総悟が一人で突っ走った六角事件の続編は昨夜、神楽の片脚と総悟の多数擦過傷の被害だけで幕を閉じた。六角宗治の娘の誤解も解けた様で、総悟がまた一歩大人に近付きましたという珍しく気持ちよく終わった一件だった。

筈、だったのに。


「オイちょっと待て。まさか昨日の乱戦で、」

「違います。ちょっと昔に作った傷痕を今朝障子の縁に上手い具合にぶつけました」

「どういう偶然だよ」


呆れたように言う副長に苦笑いで返すと背中を摩る。大して意味のない行為もすぐやめて総悟と神山の始末書を見てきますと言えば、腕を引かれた。以前は声だけだったのに最近少しこういうことが多いような気がする。掴まれた部分を見遣ってから副長の顔を見上げると無言で先を促した。


「見せろ」

「……貴方、自分が何を仰っているかわかってますか」

「お前、自分がどれだけ嘘をつきまくってるかわかってるのか」

「それとこれとは今関係ないでしょう」

「古傷が軽く叩いただけで痛むか普通。昨日の襲撃でとは考えにくいが、それでなければもっと問題だろ」

「時間外、若しくは個人的に狙った。という可能性をお考えで?」

「わかってんなら俺を納得させるような理由を言ってみろ」


それに溜息を吐くと、壁のカレンダーを見た。後少しで今月も終わる。給料日には知世の店に行こうかなと全く関係のないことが頭に浮かんだ。


「昨日は一日中それこそ朝から晩まで貴方と一緒にいたと思うのですが」

「お前らは義魂丸っていう便利なモンを持ってるだろ」

「ちょっと副長、まさかルーチェと私の区別もお付きにならないんですか」

「つく」

「ではお分かりでしょう」


それでも尚、腕を離そうとしない副長に眉間にシワが寄っていくのが分かった。彼は、そもそもこんな説明をしなくたって私が単独行動をとる暇なんてなかったのは十分承知しているはずである。だが一つの僅かな痛みに対してここまで粘ってくるとなれば、最近の私の行動に疑問を持ち続けていたのだろうと予想はつく。意外と長いお付き合いだ。
しかし、今回に限っては本当に心当たりはなく本気で訝しんでしまう。一体、何を言いたいのか。じっと見つめていれば、次の瞬間にとられた行動にやられたと内心舌打ちをした。


「!ぃっ、ちょ、何…」

「……ホラ。何でもねぇワケねぇだろ。昨日やられた怪我じゃなけりゃ余計にな。

どうしたんだその"背中"は」


掴まれた腕を急に引かれて壁に叩きつけられた。思いもよらなかったことに咄嗟に庇うことも出来ず、あまりの"背中の痛み"に思わず呻いて足の力が抜けた。副長はそれを予想していたのか、特に焦りもせずに脇に手を入れて私を支えるとそのまま背中を覗き込むようにしながらそう耳元で囁いた。


「っ、こういう体勢なら、もっと甘いセリフにして頂けませんかねぇ」

「脱がされるのが好みか?」

「強姦未遂の現行犯で宜しいですか」

「お前は上司に対する偽証罪だ。どうだ犯罪者同士なら満足か、"名前"」

「何が仰りたいのでしょうか、"副長"」


彼は私を名前で呼んだ。だが、私は意図的にそれに応えなかった。尸魂界に関係することだと勘付いたのだろうが、私はそれを肯定するつもりはないという意思表示だ。思わずと言ったように少し私を離して見下ろしてきた副長を微笑みながら見上げると、彼は思いっきり舌打ちをした。


「…戦闘に支障は」

「人間相手ならございません」

「なら人間以外は死神達にやらせろ。分かってるなコレは、"副長"としての命令だ」


どうやらさっきの仕返しらしい。文句あるかと言わんばかりの顔に思わず笑うが、生憎人間に言い負かされる程若輩者ではない。


「死神に関して私の上司はお前にはないよ、’十四郎’」


そろそろ限界なのかなとは思う。
無理に聞き出そうとはしないが、何か突破口を模索し続けているのは知っている。私の意味深な言動に反応しているのだとしたら、それは一昨日のたらればの会話だ。言葉としてはそれ程はっきりとは出していないが、私の頭の中はあの夜のことでいっぱいだった。何かしら見えたのだろう。


「……、見廻り行くぞ四楓院」


だけど、彼はそれ以上突っ込んでは来ない。それが彼の優しさなのか何か考えがあっての事なのか。


「はい。副長」


私はそのどちらにも漬け込んで、真相を語らない。でもそれを繰り返すことにそろそろ疲れ始めていた。

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