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三番隊。



結論から言えば斎藤は死ななかった。別に俺のお陰とかじゃないと思う。事の次第は全て屯所内で始まり、屯所内で終わった。しかも時間にして僅か一時間。犠牲者は隊長である斎藤を除いた三番隊全隊士。その全てが、真選組の局中法度違反による粛清によって。

そしてそれはほぼ斎藤一人の手によって行われた。


























ー 三番隊。 ー























銀時と一緒に飛び込んだ部屋は足の踏み場もない程に人間が折り重なって倒れていて、畳があるなど忘れるぐらいに真っ赤な海が広がっていた。その部屋の真ん中に立っているのは両手に抜き身の刀を持った終。私が襖を開けたと同時に隊士であった1人が畳へと伏した。
その瞬間からこの部屋で生きている人間は終以外もう一人としていなくなった。彼が全部粛清してしまったのだ。局中法度に反した謀反者達を、一人で。

させたくなかった。

これをさせたくなかったから、ここ一週間外は銀時、中は私の二人体制で見張っていた。最早自分の隊の隊士は全て敵。それらからの護衛も兼ねていたのだが、正直あまり心配はしていなかった。私が心配だったのは終が一人で'何か'を起こす事だった。
なのに。


「終」


そう呼び掛けて足を踏み入れる。白い靴下が赤く染まってゆく。嫌に生暖かいソレがとても気持ち悪い。だが未だに戦闘体制を崩さない終の方が少し気になる。生きている人間も潜んでいる人間も一人もいない。新海稔はここにいないが、私がさっき確実に始末して来た。予想通り死神の力の譲渡を受けていた新海稔に、だけど予想以上に時間を食ってしまった。結果、こうなった。大失態じゃ済まされない。きっと、終の中では計画通りだったのだろう。その点に関して言えば私が副長に話さなかったのは正解だった。だが私としては計画通りには行かなかった。終一人に全てを負わせてしまった。


「終」


もう一度呼びかけるも中々こちらを振り返らない。最早誰のものと分からない程に返り血を浴びている彼の肩へと手を伸ばす。が、その瞬間にとんでもない殺気が向かってきた。


「名前!!」


殺気に気付いた銀時が声を上げたと同時に重い二重の金属音が鳴った。万一のことを考えて対二刀流用に雪月を持ってきていて良かった。少し掠ったが、終の肩に触れるか触れないかぐらいで弾かれたように向けられた剣先に斬魄刀を二本抜いた。風車一本でも解放すれば何ともないが、人間に無駄に霊圧を当てたくない。しかも、'意識のない'人間には尚更だ。


「銀時、それ以上寄るな。終の間合いに入る」


咄嗟に私へ駆け寄ろうとしている銀時を止めた。合わせた刀越しに彼の目を見て気付いた。それは虚ろで何も写してはおらず、意識はもうない。だが、直前まで行われていた戦闘が彼の本能だけを残してしまった非常に厄介な状況である。銀時もそれを察したのか、木刀をしまってその場に留まった。


「どうする。呼んでくるか土方」

「お願い。アンタがここにいる理由はお好きに」

「夜伽にしとくわ」

「どっちが死者役?」

「そっちの意味じゃねぇ。ていうかそれならお前だろ死神」

「強制的に死者役にしてやろうか人間」


そう返してふと違和感に気付いた。確かに終は大量に返り血を浴びているが、終の口元から今明らかに血が流れ出た。眉を潜める間もなく、激しく咳き込んだ彼の状態が分かり瞠目する。直後に素早く刀を払い落すと回道を始めた。その手元を見たのか割と近くで銀時の息を飲む音が聞こえた。


「オイ、それ…」

「銀時!副長じゃなくて緒方先生呼んできて!!医務室に、」


「いや、それは涼君お願い。面識がない旦那じゃスムーズにいかなさそうだ。旦那は副長と局長の方をお願いしてもいいですか」



不意に聞こえた第三者の声に柄にもなく驚いて顔を上げると、そこには退とその後ろに涼がいた。何故いるの、なんて聞いてる暇も今はない。ないはずなのに、退から目を逸らすことが出来ない。終の喘鳴音だけが嫌に大きく聞こえる。
退はそんな終にチラリと目をやると無表情で口を開いた。


「…この状況、いくら重傷者と雖も斎藤隊長の尋問は免れないことを頭に置いといて下さい。それと四楓院補佐官。緊急を要するとは言え、一般市民である浦原喜助を'屯所の留置所へ入れ'、更に'抹殺を指示した'ことに関して、貴女も尋問の対象となりますことをお忘れないように」


思わず回道が疎かになりかけたのを見た銀時が私の腕を掴んだ。優先するのはどっちだ。無言でそう言われて一つ息を吐く。無意識に息を止めていたのに今気付いた。
そんな私の様子を無表情そのままに見ていた退だったが、ふと大袈裟に溜息を吐いた。


「…ーなんて言うと思った?」


呆れた様にそう言って苦笑する退。涼は一緒に一つ苦笑してから失礼しますと言って素早く踵を返した。


「斎藤隊長の隊士編成に疑問を感じてたのは俺と涼君も同じだよ。でも少し遅かったし、きっと俺らですら気付いたんだから名前ちゃんはとっくに気付いてるんだろうなって思って、君の動きを追うだけにとどめた」

「…全く気付かなかった」

「当然だよ。痕跡を辿ったのとほぼ同じだし、四六時中尾行するって訳じゃなかったから」

「喜助のはよく気付いたね」

「ああ、あれは浦原さんから直接言ってきたんだよ。しかもメールで」

「……私がやったことにするから、黙っとけって言うたのに。態々言うか、あのアホ」

「それが親心ってもんじゃないの。それより斎藤隊長の容態は?」


喋りながらこちらへ足を進めていた退はそう言って私の手元を覗き込んで、一瞬動きを止める。さっきの柔らかな表情を一変させ、同時に見開かれた目を見て、やはりそうなるよなと思いながら口を開いた。


「傷口から見る限り気管と恐らく、」


声帯もやられてる。
その言葉の直後に背後からガタンという音が聞こえて。振り向いたそこには、副長と総悟が呆然と立っていた。

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