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存じ上げております。





「なにしてんだ、四楓院」


ある夜。そろそろ寝ようかと布団を敷いて洗面所へ行こうとしていた時にふと隣の副長の部屋が気になった。それはある時期から偶に現れている魂魄の気配で。本当は魂葬したいのだが、中々会うことが出来ないのと、そんなに副長の魂魄へ悪影響を及ぼしていないことで経過観察という形をとっていたものである。
きっと、'彼'は私が魂魄を尸魂界へ葬る者だと直感的に気付いていたのだろう。故に中々私の前で姿を見せないのだと考えていたのだが、今日に限って分かり易く出てきた。
だから、副長の部屋の襖を開けて黙って見下ろせば、'彼'なりの精一杯のしかめ面で言葉を発したのが冒頭だ。あまりの威圧感のなさに笑いが溢れるのを堪えて、それに冷たく言い放つ。


「…それはこちらのセリフだ。なにをしている」


副長の身体で。
ぎくりと身を引いたのがはっきりと分かった。煙草を咥えてでもいれば誤魔化せるとでも思ったか。安易な考えにため息が漏れる。机の上を見れば書類は隅に片付けられていて、本日のデスクワークにはひと段落ついているらしい。じゃあもういいかと取り敢えず部屋へ入ると、副長の歯ブラシをタンスから出して目をパチクリとさせている'彼'の腕を掴んだ。


「ど、どうするつもりでござるか」

「逆に聞くけど歯ブラシで何をして欲しいの」

「え!?せ、拙者はそういう…」

「アホか。誰がアンタと歯ブラシプレイすんねん。単なる歯磨きや。ちょうどいいのでもう寝てもらいます」


そう言って立たせると、'彼'の手からフィギュアがポロリと落ちて。二度目のため息を吐きながら洗面所へと連行した。



























ー 存じ上げております。 ー
























直感なのか単に疑問を持っているだけなのか、歯磨きなのに刀を腰に差しているのが気になるらしい。鏡越しにチラチラとこちらを見ているのが鬱陶しいと思いつつ、口を濯ぐとその鏡越しに目を合わせた。その瞬間に分かり易い程に目を見開き固まる'彼'。今まで'彼'がやっていたことをやり返してやっただけなのだが、分かっているのだろうか。


「自分が本来居てはならない存在であることは理解してるのか」

「え、あ、そ、その…はい。何となく」


斜め下へと目線をそらしながらも頷く'彼'は私より先に口を濯いでいたので、タイムラグもなく答えた。いつ刀に乗り移ったのかは知らないが、因果の鎖は残り僅か。人間の魂魄に引っ付いたまま虚化した場合、どうなるかなんて考えたくもない。


「私がどういう存在かは」

「……はい。何となく」


今度は確りと斬魄刀を見て答えた'彼'。その落ち着き具合を見れば斬られることはないと分かっているらしい。恐らく長年刀にとり憑いてという形ではあるが整として彷徨ううちに魂葬の場に出くわしたことがあるのだろう。正解だが、私としては出来る限りを尽くして痛く魂葬してやりたい。判を押す時に力み過ぎると痛がるのは知っている。


「で、でも!!拙者には野望があるでござる!!」


斬魄刀にも無意識に触らないようにしていたし努めて無表情にしていたのだが、私から不穏な空気を読み取ったのか突然そう言って声を張り上げた。だが'彼'と言っても姿と声は副長である。日中、その声の脅威に晒されている隊員も多い中、就寝直前まで聞こえた暁には眠れなくなってしまうだろうに。静かにしぃやと言って眉を潜めると、慌ててすみませんと小さくなった。
でも気になる。


「どないした急に」


歯ブラシをギュッと握りしめ、俯き加減になりながらも何とかして私を説得しようと口をパクパクとさせている。このまま魂葬されるのではという恐怖よりも伝わらない焦りが見られるのが面白い。確かにさっき野望がとか言っていたので、恐らくその理由を尤もらしく伝えようと頭で整理しているのだろう。だが、冷静に見れば副長が挙動不振になったとしか見えないワケで。
段々耐えられなくなってきているのが分かる。


「拙者は、その、取り柄というものが…オタクしかなく、刀に入っていた時とは違って動ける身体がある事で、また楽しさを思い出してしまった。出来ればこのままずっとこうしていたい。だけど、この身体は'土方十四郎'という人の物であり、しかも江戸の警察を取り仕切る人だ。命を狙われる事が多々あるのは経験済みであるので乗っ取った所で自分には害が大きい。…というよりこの人は多くの人に必要とされているのが良く分かるでござる。必死で拙者を抑え込もうとしているのは良く分かる。その度に早々に出て行かなければと思うのでござるが…」

「無理、だろうな」

「全くその通りでござる。そうしたらここ最近、'土方十四郎'の方からこちらを見ようとしていて…」


オイオイ、マジか。
そもそもなんで今夜私が声を掛けたかと言えば副長に無視をされ続けている'彼'の魂魄の状態が心配になったからだ。度々表面化していたのも気になっていた。余程、現世への思いが強いのだろうと。そんな魂魄を放っておけば恨みつらみが募ることは間違いなく、虚化の可能性も高くなる。故に話を聞いてやろうとしたのだが、まさか副長の方からアプローチをかけていたとは驚いた。
そして、その瞬間から希望が見え出した。


「それで。十四郎はなんて言ってた?」

「…お前の望みを叶えてやる、と」

「だから出て行け、とは」

「言われてないでござる」


あくまで'彼'の欲求を満たす為だけに動くらしく、だから'彼'も戸惑っているようで。これだけ長い間副長の中にいるのだ。性格は十分分かっているだろう。だけど、これは本当に魂葬なしに成仏出来る可能性が見えてきた。


「よし。それ私も乗った」

「……へ?」


歯ブラシケースの蓋をパチンと閉めるとにっこりと笑って、戸惑い顔全面の'彼'の腕を引いた。

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