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太陽。伍



慢心だった。まさか六十番代の鬼道が破られるなんて思ってもいなかった。

六杖光牢が破られたのを見た瞬間に頭をよぎったのは同様に止めてきた神威。霊圧を探るともうこの場にいて、更に晴太は三つ編み男に捕まりそうで。瞬歩で滑り込んで三つ編み男はもう死んで貰おうと斬魄刀を迷いなく突き出し、同時に雪月の方も抜いて神威が来る方向へと突き出した。
だが、団長さんの狙いは私ではなかった。
神楽を力の限りに殴り、それを目の端に捉えた私は一瞬気が逸れた。何より突き出した雪月の向かう先は空を切っていて、それの切っ先を神威に向け直す時間の遅れには十分過ぎた。


『名前!!!』


とんでもなく焦った銀時の怒鳴り声が聞こえたが、自分の腹から突き出している団長さんの手にやられたなと自嘲しつつ、彼の方へ倒れこんだ時には視界が暗転していた。


「あ。起きた」


一人反省会をしながら薄っすらと目を開けると木目の天井が見え、更に聞きなれた声がした。首だけをそちらの方へと向けると窓枠に座っている神威と何故か片腕に包帯を巻いている阿武兎がいた。というかその阿武兎の上腕から下がない。え、一体何があった。月詠か銀時が一矢報いたか。
どうやら自分は布団に寝かされている様なので、起き上がろうとして思わず呻いた。そう言えば貫通してたんだった。血濡れた指先が自分の腹から覗いた映像が急に蘇り、一瞬くらりと眩暈がした。


「キミ頑丈だねぇ。普通それ程の怪我したら死んでるか、起き上がれないよ」

「だから言ったんだよ、オッさんは。今からでも手足拘束してくれ」

「…っ、三つ程。質問をしても」

「いいヨ」

「オイオイ」


上半身を起こして腹部に手を当てると簡易的に治療が施されているのが分かった。一体誰がやったのか気になったが、アルコールの匂いがするので消毒の類はしてくれたらしい。一応清潔は意識されていることに有難さを感じながら、回復系鬼道である回道を始めた。三つの質問は単なる時間稼ぎに過ぎない。起き上がるのも辛いという顔をしておけば、これぐらいの猶予はあるだろうという読みが今の所当たっている。


「晴太はどこに」

「さっきちょっとした遊びをしてる最中にどこかに行っちゃった。あの子中々見所あるよ」

「その遊びでオッさんの腕はなくなったがな」

「鳳仙はどこに」

「ここがエロジジイの城だからねぇ。どこかにいるよ」

「銀時達はもう来たか」

「ぎんとき?」

「さっきいただろ。白髪のアホ面が」

「ああ。うん、多分もう入ったんじゃないかな。さっき百華達が騒いでた」


そこまで聞ければ十分だ。銀時達は殺されていない様だし、順調とは言えないだろうが確実に目的へと近付いている。それに、私もやや短めだが瞬歩が出来るまでには臓器を修復した。血は知らない。取り敢えずこの場から逃げ切れればその先でぶっ倒れても構わない。


「丁寧な返答をありがとう」

「そう?オレ結構適当だったと思うんだけど」

「いや。十分だった。

…ー私が逃げる準備をするのにはね」



最後の一言は神威の耳元で囁いて。瞬きより短い時間の移動に彼らが目を大きく見張る。流石戦闘一族と言うべきか、反射的に彼らの手足が動き出した時には既に、私は窓から飛び出していた。























ー 太陽。伍 ー

























「あーあ。逃げられちゃってさ。何やってんだよ神威」


心底具合も悪そうに布団に座っていたのに、本当に一瞬のうちにその姿は消えていた。瞬きよりも短かったと思う。肩に手を置かれて耳元で囁かれた時は何が起きているのか理解出来なかった。咄嗟に出た蹴りなんて彼女にとっては動いてないも同義だったのだろう。振り返った先に笑顔で手を振って再び消える姿を呆然と見送った。
あれが死神。しかもその世界では一番速いと言われる隠密機動という組織に属し、そのトップに基礎的な戦闘力を鍛えられている。ほんの少し前に手合わせはしたが、十分ついて行けた。と、思わされていたのだ。実際今のを見ればとんでもなくセーブしていたのだと分かる。本気でヤったらどれ程楽しいのだろうか。


「ねぇ、聞いてる?神威」


それはこの今目の前にいる死神にも言えることだ。宇宙海賊第零師団団長、西園寺祥之助。元々危険分子として隔離されていたのだが、色々あって現世へ逃亡。何を企んでいるか知らないが突如現れてベラベラと老いぼれを説き伏せ春雨に一つ新しい師団を作った男。実際本当に何が目的なのかはわからない。与えられたのか、祥之助自身が提示したのか。戦闘に関する有力者の引き抜きと言う名の拉致を主な仕事として動いている。入ってきた当初、強いのかどうかを知りたくてふっかけたら見事に返り討ちにあって、それから見かければ殺しに行く様にしている。それなりに仲はいいのではないかと思う。


「あの子、名前なんていうの?」

「ガキの方か?それとも四楓院四席のことか?」

「ガキじゃない方」

「四楓院名前」


今回こいつも付いてきたのはその名前を見るためらしい。会うんじゃなくて見るだけなんだとやや機嫌良さ気に言われた時に若干引いたのは俺だけじゃない。今は未来の海賊王の為に尻拭いをしに行っている阿武兎も酷い顔をしていた。


「…ちゃんと殺し合いたいな」

「やめてやめて。アンタが言うと冗談に聞こえない。そしてとんでもなく心配」

「いいじゃん。それに俺の師団の業務に拉致誘拐は入ってないしネ」


そう言った途端にふと祥之助の表情が変わった。これは怒られるのかなとニコニコして返答を待っていると、予想の斜め上を行く言葉が来た。


「俺が心配してるのはお前だ、神威」


一体どういう意味かなんてすぐ考えれば分かる。だが、バカにされている様な気がして一気に表情がなくなって、思わず手が出た。


「…そういう所だよ。名前ちゃんは、いや、僕ら死神は一体君らのどれだけの倍の年数を生きてると思ってるの。それに戦闘の経験値だって遥か上だ。誰彼構わず強いヤツに当たりまくってるお前と比べても、だ」


繰り出した拳は手加減はしていない。それを掌ではなく指一本で止められた。
経験値が遥かに劣るのも戦闘センスも生き物としても遥かに劣るのも重々承知している。祥之助に会ってから嫌という程思い知らされたし、何より毎日が楽しい。自分の実力より下のモノと戦うより上のモノと戦った方が楽しいに決まっている。それが自分の近くになんと2人もいる。これ以上に嬉しいことがあるか。
お説教の時は無表情だったのだが、知らずに笑顔になっていたらしい。呆れた様にため息を吐いた祥之助にまた相手してねと言えば、死ぬなよと返ってきた。

どうやらこれからは少し本気を出してくれるようだ。

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