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太陽。肆



繰り出された右手を軽く交わし、間髪入れずに叩き込んだ蹴りは受け止められてそのまま掴まれる。それを軸にして地面から飛び上がり、今一度顔へ蹴りを入れる。その直前に彼は後ろへ飛んで避けたので不発となったが、特にバランスも崩さず、行き場を失った蹴りのエネルギーは上手く着地をして足元へと逃した。


「いやー。夜兎について来れる女の子は初めてだよ」


パチパチと拍手をしながらどうやら本気で驚いている様子の少年ー神威の言葉に、髪の毛を結び直す手が止まった。


「あれ?まさか男の子だとか言う?」

「…いや。見破ったのは貴方が初めてだと思っただけ」

「君の周りの男は最悪だね。どう?春雨に入らない?」

「オイオイ、団長。冗談でもやめてくれ。こんなお嬢ちゃん連れてったら元老院共がどんな顔をするか分かったもんじゃない」


戦闘でも手を出さず傍観だけに留めていた男二人のうち、一人が唐突に口を挟んで来た。ていうか驚いた。一応春雨の情報として喜助から神楽の兄である神威が団長を務めていると聞いていたが、こんな適当な奴が組織の頭である訳がない偶にはあいつも間違えるのかと思っていたのだ。だが少年が団長というのは事実らしく、思わず少年の方を見てしまった。


「あれ?まさか俺が団長なの不満とか言う?」

「…いや。組織によってはそういう教育方法もあるものかと今学んだだけ」

「阿無兎、俺今バカにされた?」

「オイオイお嬢ちゃん。俺に矛先が向きそうだよ」


そう言って私に助けを求める阿無兎と呼ばれた男に果たして言って良いものかといい加減悩み出した。私はお嬢ちゃんと呼ばれる程若い年齢ではない。
まぁ私がこの三人に接触した目的は、態々こんな地下都市に来た目的はなんなのかということを聞き出し今から行う晴太と日輪のご対面に支障が出ない様に為であって、自分を晒すことではない。現に、白打は使っているが、斬魄刀は抜いてないし鬼道も使っていない。
だが、どうにもこいつらが単に夜王と昔話をしに来た様に思えず、迂闊に切り上げて姿をくらませることが出来ない状況下にある。段々と晴太の方も心配になって来たし、別行動で不安因子を潰そうとしたのは失敗だったかと若干後悔し始めている。


「ところでさ。僕のトモダチに刀を使う奴がいるんだ」

「…侍?」

「いや。彼は一応地球人で日本人とは言ってたけど、侍じゃないんだって」

「……何が言いたい」

「君のその腰の刀。'なんて'言うの?」


こてん、と音がしそうなぐらいに首を傾げてこちらを見る彼はついさっきまで死闘を繰り広げていた相手とはとても思えない。神楽と良く似た髪と目の色、と霊圧。それらも助長させている。そんな可愛い団長さんはさっきバカにされただなんだと言っていたが、戦闘に関しては頭とは真逆だ。一体幾つの修羅場をくぐり抜けて来たのか、その経験から弾き出される勘は目を見張る。今の発言だって、恐らく確信を持ったモノだ。団長さんの側には'あいつ'が居る。


「私の相棒を奴の紅桜と一緒にしてもらっちゃ困るなぁ。こんなレベルじゃ'呼べない'よ、宇宙海賊春雨第七師団長さん」


風車の柄に手を置いてにっこりと笑ってそう言えば。キョトンとしていたが直ぐに彼の口角が上がり、同時に可愛さが一切なくなった。


「…どうやら俺らを知ってるみたいだね、お姉さん」

「愚問だな。お前に纏わり付いている霊圧が如実に物語っているよ」

「んー。ショウちゃんは帰ったらお仕置きかな」


今の一言で察せるということは、死神の生態をよくご存知な証拠だ。やはり私が死神だと最初から気付いていたか。だとすると。


「本気でやってないな」

「まんま返すよその言葉。お姉さんがだいぶセーブしてたの知ってたから、合わせてみた」


これは本気で後悔してきた。晴太をきっちり日輪の元に届けてからこっちへ手を出すべきだったか。思わずため息をついてしまうと、風車に気を抜くなと怒られた。


「で。どんな戦闘がお好みなのかな」

「そりゃあ勿論。

…ー激しいヤツ」


そう言われた時には既に。
狂気に満ちた神威の顔が目前に迫っていた。




















ー 太陽。肆 ー

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