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太陽。参



日輪のDNAを盗んで喜助と別れた後。普通に歩いて屯所へと向かっていた。その途中、少し遠回りになるがかぶき町を通ってみた。まだ夜中の10時を回ったばかりであり、夜の街としてはこれからという時間帯だ。そんな時にちょっとした事件が勃発した。
ひったくりである。
丈の短い可愛らしい着物を身に纏った二人組の女性の後方から近寄ってくる男から漂う何やら不穏な空気。偶々周りを見渡した時にそんな光景が目に入ってしまって、思わず眉を顰めた。一応一年以上は警察を生業としている身。知らずに不審者発見スキルが付いていたらしい。不用意に目を向けたことに恨み、そもそもかぶき町へ入った自分の行動に大いに後悔しながら溜息を吐いた次の瞬間、予想通りの展開となった。


「ど、泥棒!!!」

「誰か!そいつを捕まえて!!」


台詞までベタなモノときた。だが、現職警察官として見過ごす訳にもいかないし、何より女子からひったくるとは何て卑劣極まりない行いだと憤りも強く、全力で逃走を図る男の前にまわって足を掬った。無様にも地面に叩きつけられた男は一瞬何が起きたか分からないと言う表情を浮かべたが、それを理解するより先に腕をまとめて馬乗りになり地面へとうつ伏せに押さえ付けた。そうやって自由を奪われたことで漸く無様な状況を思い描く事が出来たか、顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。


「な、何だお前はァ!!」

「何だ、と言われると困るね。花街帰りの流浪人とでも言っておこうか」


今の私は吉原帰りなので男装中だ。不用意に警察手帳を出せないことに気付いて適当に名乗ったが、このままこいつの不毛な会話を続けたくもない。ちなみに現行犯であった場合、一般人にも逮捕権はあるので、時間を確認する。そして退に電話でもして迎えに来させようと携帯を出していると、ふと見覚えのある黒服が目に入った。


「…げ。ていうかなんでこんな繁華街を一人で歩いてんだ」


幹部服である事に途中で気付いて顔を確認して思わず毒付いてしまった。実力は申し分ないので過保護に心配することもないのだが、もう少し警戒しても良いと思う。それに今夜は夜間巡回はなかった筈。プライベートまで首を突っ込むことはしないが、制服を着ているとなれば話は別だ。何故そんな格好でこんな時間にこんな場所を真選組の副長が彷徨いてるんだ。


「副長の土方だ。何かあったのか」































ー 太陽。参 ー
























「待たせて悪かったな。えっ、と…剣心」

「なんでそうなった」


窃盗の現場に警察が居合わせてしまったのだ。取り敢えず関係者は全員屯所へとなった。普段、警察としてしか乗らないパトカーに一般人として乗るという奇妙な状況に面白さ半分、面倒さ半分だ。着いてから取り調べだと言ってまず被害者二人の女性から。私は控え室でお茶とお菓子を出されながら、段々と焦り始めていた。
そもそも副長が来た時点で盗っ人を引き渡して早々に立ち去るつもりだったのだ。だが、警察手帳を見せながら寄ってくる彼に被害にあった女性二人が私の下で鼻息を荒くしている盗っ人を指してまくし立てた。一人は涙目で。

『このお方が助けて下さったのです』

その涙目な方が最後、私を示しついでに笑顔も向けてそう言った。男なら一発で落ちそうな笑みに一瞬私もくらっと来たが、微笑み返すとそのまま土方を見た。

『犯人逮捕の協力に感謝する』
『いえ。市民として当然のことをしたまでです。お嬢様方にお怪我がなくて良かった』
『悪いが、状況を詳しく知りてェ。一緒に来て貰えるか』

すっかりトンズラする機会を失ってしまった。まぁ帰る場所は屯所なので別に構わないが、この男装がバレると非常に面倒くさい。なので早く調書を終わらせてくれないかと待っていたのだが、どうやら女性二人に犯歴があったらしく時間が掛かっている。なんで分かったかって、退からメールが来たから。控え室で一人、しかも善良な市民を演じた私は特に監視もなく自由なので持ち物は取り上げられていない。

{ちょっと、名前ちゃんどこいるの?}

女性だから私が対応した方が早いんじゃないかという内容の最後に上の文章。なんて返して良いのか分からず、既読スルー状態のまま、三十分後が冒頭の会話だ。てっきり取り調べ室に移動するのかと思って腰を上げたらそのままでいいと言われて副長は煙草を咥えた。


「名前は」

「…浮竹…剣心」

「なんだよ。あってんじゃねぇか」


どうやら偽名とは咄嗟に出て来ないものらしい。浮竹隊長の名前をまんま言おうとして以前、副長の前で十四郎の名を出したような記憶があったので、慌てて変えた。ら、剣心になってしまった。目をぱちくりさせているのを見れば案外驚いているらしい。偽名甚だしい名前を頭に刻み込んで、咳き込んだ。一応、一過性の薬で声を低くしているがそろそろ切れかかっている。四六時中一緒にいるんだ。若しかしたら気付かれる可能性もある。さっさと終わらせて欲しい。


「風邪か」

「ええ、少し前に。治りかけてはいるのですか」

「悪いな。すぐ終わらせる」


思惑通りに進みそうな感じに思わず微笑む。それを見た副長は徐に手を止めて、私を見た。


「…お前。どこかで会ったことあるか」


一体どこで気付いた。恐らく今の笑みなんだろうが、この姿で彼に会ってから色んな種類の笑みを向けた。そのうちの何故今のものにだけ反応する。一瞬、考える様な素振りをしてから遊女に向けるのと同じ様な笑みを浮かべた。


「真選組のお偉い様にお目見えするなど、滅相もございません。よくいる風貌に声だと友人からも言われます。恐らくその類かと」

「そうか…部下にな、似てそうな奴がいるんだが。……いや、悪かったな。お前の方がよっぽど礼儀正しい」


オイどういう意味だそれは。ていうか否定の前の長い間はなんだ。まさかその間に私の悪口が満載なんじゃないんだろうな。死ね土方。
なんて。言える筈もなく。


「お褒めの言葉、有り難く受け取らせて頂きます」


無理矢理に作った笑顔でそう言えば、土方はやっぱり四楓院じゃねぇと呟いていたので、やっぱり死ねと思いましたまる。

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