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太陽。壱



今日も今日とて書類に追われ、漸く寝られると筆を置いたのが夜中の二時。いや、正確には疲れ果てて文机に倒れ込んだと同時に筆が手から零れ落ちて行ったと言った方が正しいか。ちなみに書類はきちんと文箱に入れたので無作為に転がって行った筆の被害はない。


「あー…しんどい。動きたくない」


などと呟いてはみたものの、お風呂には入りたいという何とも矛盾した欲求が膨れ上がる。数秒の攻防の後に、結局身体の清潔を取った自分の思考に若干恨めしくも感じながらも立ち上がり。瞬間襲った動悸に、思わずシャツの胸辺りを握り締めて前屈みになった。


「…っ、あー…今日、月齢…15」


身体を支える為に手をついたのは偶然にも箪笥。その一番上の小物入れを乱雑に掻き回して目的のモノを探し当てると、勢い良くソレを自分の胸へと突き立てた。












ー 太陽。壱 ー



















「…午前十一時十五分、幼児誘拐の現行犯で逮捕。さっきの電話は自首だったのか。逃げなくてよかった。私の失態になるところだった。こんな奴の所為で減給されたらたまったもんじゃない」

「何でだァア!?逮捕されるのコッチ!!俺被害者ァア!!」


大量の書類に追われた翌朝、非番である今日は昼過ぎまで寝ることを心に決めていたのにけたたましい着信音で起こされた。時間は朝の10時。あと二時間の睡眠をどうしてくれると思いながらも、窃盗だ現行犯だ一般市民にも逮捕権はあるだろとひたすら繰り返す声に、うるさいと怒鳴って電話を切った。だが皮肉にもそれによってすっかり目が覚めてしまい、嫌々ながら着物を着て、食堂へ朝食だか昼食だか分からないご飯をつまみに行った。ちょうどおばちゃん達の休憩時間だったらしく、握って貰ったおにぎりを台所で一緒に茶菓子も貰いながら世間話をひとしきりして、屯所を出た。うるさい目覚ましからちょうど一時間後。街に買い物でもと思っていたのでまぁついでに寄ってくかと万事屋の階段を上ろうとして、急にスナックお登勢の扉が開いて引き摺り込まれた。
どうやって定春が扉を開けたんだとかそれよりどうやって店に入ったのとか余計なことを思いながらも、態勢を整えて中を見て、冒頭のやり取りへと戻る。一先ず朝起こされたことに殴ってから、お登勢さんと新八に説明を求めると、何やら複雑な事情が返って来て。またなんでいつも厄介なモノを抱え込むんだと内心大きく溜息をつきながら少年へと目をやった。


「四楓院名前。あんたは」

「せ、晴太。姉ちゃんは誰?」


名乗ったのに誰、と返ってくる辺り教育はあまりまともに受けていないことが分かる。それでも職業を聞いているのは分かったのでカウンターに座りながら税金泥棒だよ笑えば、目をぱちくりとさせた。


「あんたと一緒」

「お、おいらと?」

「そ。だって、あんた銀時の財布スったんでしょ?」

「だけど!それは銀さんだって、」

「言い訳は嫌いだよ。確かに銀時も手を出したがそれはあんたを止める為。だが晴太、お前は最初から盗むことだけを目的としていた。そんな強気な態度で反省の意を示さないようなら、子供だからといって情状酌量の余地はない。今すぐにでも逮捕は可能だよ」


警察手帳をチラつかせれば目を見開いて怯え出す晴太。銀時がオイと言って私を牽制して来るが、出されたアイスコーヒーを一口飲んで知らぬふりを通す。そんな私の意図を汲んだのか、お登勢さんが口を開いた。


「被害者が被害届を取り下げた場合はどうなるんだい」

「無かったことに」

「オイオイ、待てよババア。被害者は俺だぜ?勝手な判断でそんなことされちゃあ…」

「取り下げるよ」


直後、悪口雑言を撒き散らした銀時は一体どっちの味方なんだろうか。相変わらずの適当男に神楽も新八も白い目を向けていることにいい加減気付いた方がいい。ミルクをコーヒーへ入れてかき混ぜていると、晴太が戸惑ったような声をあげた。


「え、でもだって…」

「大人はね、こんな小さな餓鬼を警察に突き出す程小さい人間じゃないんだよ。それに子供がこんなことをしなけりゃ生きてけない世の中にした大人に責任はある。
その責任と言っちゃなんだが、まぁあんたもあんたでそれなりに悪いことはした。だから、ここで働きな」

「……え?」

「それでチャラにしてやるってんだよ。安いもんだろ、晴太」


銀時も最初から法的制裁を下そうだなんて微塵も思っちゃいない。私を呼んだのは恐らく別の意図がある。それが何となく分かったから最初の電話で大いに渋って切ったのだ。大抵こいつが持ってくることはギリギリ法に触れる。大いに裏へ足を突っこむ。無意識に一先ずこの先二三日の予定を確認していることに、自分も彼に協力する気満々だなと苦笑いした。
にしてもこの子が生まれた場所はとんでもなく面倒な所じゃなかったかと思う。でも今は、取り敢えず晴太を物理的に綺麗にしようと動き出したタマとキャサリンに大騒ぎしながら店の奥へと連れ去られた少年に心の中で合掌をしつつ、携帯へと手を伸ばした。

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