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えにし。肆




全てが終わった、と思った。
新八と神楽の話では最後、銃撃から近藤や土方を庇ったのが伊東の致命傷になったらしい。あと少し早くヘッドホン野郎をヘリ諸共潰していたら、なんて一瞬頭を過ぎったが、それ以上はやめた。たらればなんて今迄腐る程あった。考えれば考える程虚しくなるだけだと知っている。その伊東が最後は土方と決闘という形で倒れ、鬼兵隊共もヘッドホン野郎が倒されたと知るや一斉に逃げ出したり、捕縛されたりと、一応の収束を見せた。

だが、不意に俺の肩へ掛かった重みに、まだ終わっていないことを直感的に悟った。




















ー えにし。肆 ー






















「お、オイ!!名前!?」

「…あー。…ツラ、…」


肩に乗った重みは名前だった。何の前触れもなく触られて驚いて振り向けば、斬魄刀を地面に刺して支えながら、さらに俺の肩に寄り掛かる様にして立っていて。何してんだという言葉は引っ込んで、代わりに名前を呼びながら慌てて支えて座らせた。そんな俺の声は案外焦っていたらしく、異常を感じとった真選組が一斉にコッチを見て、揃って驚愕の表情を浮かべて駆け寄ってきた。
まぁ当然だろう。疲れ切っているのは見れば明らかだが、死覇装は数カ所裂けていて、そこから見える肌は血に染まっている部分が多い。掴んだ手が思わず引っ込めそうになる程冷たかったのは、使った斬魄刀が炎熱系の紅桜対策に雪月の方だったからか。


「…あいつはどうした」

「あ、それ。銀時マジ感謝」

「なんだよ」

「万斉助けに行った。死なれちゃ困るんだよーとか言って」


確かにあいつは殺すつもりでヘリと落としたがしぶといことに生きてたのか、と若干がっかりはするが、結果名前の助けになったなら良しとしよう。


「四楓院!」

「……十四郎」


終わったんなら雪月の始解を解けばいいのにと言おうとしたところで突如視界に土方が入ってきた。そう言えばこいつらが名前で呼び合う基準はなんだと不思議に思って考えれば、名前の両手が土方の胸倉に伸びていた。


「十四郎。…あんた、とんでもないヘマをしたって分かってるの」


特に怒鳴ったワケでも口調を荒げたワケでもねぇ。ただ、数十秒前まで弱々しくツライと吐いていたヤツとは思えない程によく通る声で言い放った。勿論息は荒いし、手は疲労からか震えているし、起き上がるのも辛いのが分かる。だけど、名前の言い方に目前にいた土方だけでなく、周りの真選組隊士も思わずたじろいでいた。後で気付いたのだが、霊圧を僅かに流していたから人間が萎縮して当然だった。


「…ああ。分かって、」

「いや、分かってないね。土方十四郎。君は、僕がこんなに接近しているのも分からない程名前ちゃんが疲弊してるのに対してどれだけ責任があるか」


分からないだろ?
その場にいた誰がそれに気付けたか。いや、そもそもいつからいたのかも分からない。ごく自然に会話へ入り込み、土方が思わず怒鳴りかけた時に漸くなんかの違和感を覚えたレベルだ。野郎の首に迫る切っ先に咄嗟に木刀を出して防ごうとしたが、それも間に合わないと悟り、せめて勢いだけでも逆らわずに殺そうと名前共々引き寄せようと左手を動かして、空ぶった。反射的に下を見ようとして、それより先に俺のガラ空きの腹に土方が勢い良く飛び込んで来て、踏み止まる暇もなく二人で仲良く後ろへ吹っ飛んだ。
驚いて二三度瞬きしたその視界に入ったのは刀を構えて西園寺の攻撃を防いでいる名前の後ろ姿だった。なんであの状況から間に合ったんだとか思っちゃいけない。アレに対処出来なかった時点でこの戦いにおいての俺らは足手まといなんてもんじゃないぐらい邪魔だ。兎に角、下手に動こうとか加勢しようとか思ってはいけない。
だから解放しっぱなしだったのかと納得しながら自分の上に乗っている土方を退けた。その音を聞いていたのか分からないが、タイミング良く人差し指を西園寺の肩に担がれている万斉に向けて笑った。


「良かったな、生きてて」

「腹立つなァ。やられたからやり返そうと思ったんだけど」

「ふざけるな。そいつをやったのは銀時だ。倍返しなら銀時にやれ」

「いやいや。貴女に関しては100倍返しだ」

「残念だな。マイナスでしかない銀時を副長に掛けても100にはならん」


そのパロディ古すぎだろとツッコもうとしたけど、最後自分が大いに貶されてることを理解して、思いっきり立ち上がった。
で、気付いた。
周りが全員尻餅をついていることに。いや、正確には涼は平気そうで、隊士達の異変に狼狽えている。二人から漏れる霊圧が高すぎるのだ。それに人間が耐えきれるはずもなく、涼以外が漏れなく膝をついた。土方と沖田は普段であれば平気なのだろうが、如何せん戦闘で疲労が溜まり過ぎていて、座り込んだままだ。


「ほら、やっぱり。銀時さん、霊圧高いじゃん。ね、神楽ちゃんと新八くんも」


誰のせいだろうね、と言ってにっこりと名前を見た西園寺。それに対して名前がどんな表情をしたか分からないが、霊圧のブレがないことから精神状態は比較的安定しているのかと安心する。


「祥之助。そのままでやるなんてナメたこと言うなら本気で潰すで」

「まさか。流石に手負いの名前ちゃんでもこれじゃあツライよ」

「だったら早く帰れ。お前の顔もそろそろ見飽きた」


普通はここで戦闘が開始されてもいいものだ。お互いが弱点を負ってるならそれを突いて攻め込めばいい。ましてや相手は宇宙海賊と指名手配犯の仲間だ。それが主な攻撃対象となっている土方達真選組だったらそうするだろう。だけど、そう名前が言い切らないうちに、西園寺は酷いなァと呟いて本当に消えてしまった。

そして、唐突に理解した。

名前は今、死神として此処へ居て、死神として戦っていたと言うことに。

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