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えにし。弍





「"四楓院名前殿。現職真選組副局長護衛兼補佐を解任し、真選組参謀補佐への就任を命ずる"」

「え、…ちょ、ちょっと待って。名前ちゃん、それって」

「所謂辞令ってヤツ」

「そんな冷静に言ってる場合!?」


副長が事実上の更迭をされ、総悟と餡蜜を食べてから二日後。監察方の篠原に朝食後に唐突に肩を叩かれて白い封筒を渡されて。一度瞬きをしてから彼を見れば、ご自分の部屋で開けて下さいと付け足されたので分かったと頷いた。自室へ直行し、座りながら開ければ中には一枚の紙。内容はあり得ないと憤りを覚えるモノだが八割方予想はついていたので特に何も思う事もなく。紙を指で摘み上げながら携帯を取り出して山崎を呼び出した処で冒頭へと戻る。彼は副長がおかしくなってからほぼ私の指示でしか動いていないので、呼び出しに直ぐ応じる様になっていてとても便利だ。定石通りのツッコミを入れた後、辞令書をひったくる様にして奪い取って目を通して私に鋭い視線を向けた。


「…君の言ってた通りになった」

「うん」

「……どうなさるおつもりですか、"補佐官"」

「それは。"どっち"の補佐官?」


首を傾げて微笑めば、両腕を思いっきり掴まれた。彼の目は怒っている。


「名前ちゃん。副長がいない今、真選組内で土方派と呼ばれる集団のトップは君だ。沖田隊長も…涼君も伊東派に付いた。まぁ本心は分からないけど、副長の座を虎視眈々と狙って来ていた彼からすればあり得なくもないだろう。終さんもどういう訳か昨日急に伊東派になった。噂じゃ剣の腕を買われて何らかの条件を示し伊東から直接引き抜かれたとなってるが、恐らくこれは正確な情報だ。ここまで来れば言われなくても気付いてると思うけど、特別監察組がちょうど半分に伊東派と土方派に別れた。俺はこれを君が仕組んだと思ってた。そしてこれから動くのだとも思ってた。……でも」

「でも?」

「君はそれを受理しようとしている。どうして」


掴まれた腕が痛い。当然退の方が身長は高いからこれで私が首でも竦めていたら旗から見れば子供を諌める父親の様だ。その第三者の目線を想像して思わず笑いそうになるのを堪えて、退と呼べば不機嫌そうに何と返すお父さん。


「大した読みだよ。でもね、退。最後だけ違う」

「…最後?」

「私はそれを受理しようなんて一ミリも思ってない」


余程予想外だったのか退の口がぽかんと空いた。見事な空きっぷりに今度は堪えられなかった笑いが漏れる。同時に緩まった腕をするりと抜いて先程から何度も鳴っている携帯を取り出した。


「退、私が真選組に留まっているのは何でだと思う?」

「え、……名前ちゃん達の目的を果たすのに都合の良い場所だから?」

「あんたそれ本気で言ってたら斬るよ」

「…でも間違ってはいないでしょ」


確かに強ち間違っちゃいない。
通話ボタンを押して瞬間ギャーギャーと騒ぐ携帯に顔を顰めて遠ざけると同じ様に呆れ顔をする退と笑う。ていうか聞いてんの名前と聞こえた処で電話を切ると退の方を見た。


「それだけの理由ならとっくに局長まで上り詰めてる」

「ちょ、ダメだからその発言。冗談でも」

「でも。そうしない理由の方が大きい。だから、私は大人しく副長の側にいる」


そう。大雑把に言ってしまえば私の目的は情報のみ。でも大分肩入れする様に真選組に組しているのは、'彼'を護る為。つまり、


「あの人のいない真選組に拘る理由が見つからない」


私の目的である情報を得やすい位置にいるから収まっているのであって、自分に、私ら側に不利益が生じると判断した瞬間に切り捨てる。話の流れではあったが私はそれを副長に伝えているし、彼もそれを承知している。前にやった有利すぎる等価交換であるが、今現在その取引相手は更迭状態。私を真選組の一人として組み込むには条件が足りない。それを参謀が代わりに出来る筈もない。
私の考えが分かったのか、先程とは別の意味で退は目を見開いた。最早辞令なんてどうでもよくなってしまったか、畳に舞い落ちた辞令書を自分の足で踏んでいることにも気付かない。


「ダメだ!!それは絶対に!」

「どうして。私を引き留めるモノは何もない」

「そういうコトを言ってる場合じゃないだろ!!君は、真選組がどうなってもいいと思ってるのか!?」

「論点がズレとるで。そもそも私が貴方を此処に呼んだのは辞令書を見せて、進退を告げるため。貴方の異論を聞くなど一度も言った覚えはないよ」

「名前ちゃん!!」


予めルーチェを控えさせておいて良かった。彼女は私専用の義魂丸で空気を操る能力を持ち、ある一定空間の音を遮断することが出来る。大声を出し始めた退に静かにしぃやと言えば余計に怒った様な顔をした。


「冷静に考えてみなさい。私はこの辞令で副長護衛兼補佐を解任になっている。そして就任先は参謀補佐。なるほど確かに尸魂界には隊長に任命された副隊長に拒否権と言う物が存在した。だけど、この組織は上の言うことが絶対故に、最初から私らに拒否権はない。この辞令通りに動くことが当然とされるし、もし従わなければ、クビ。最悪、士道不覚悟と見なされて切腹。
さて今回、私にこの辞令を下したのはどなたと存知るか」

「…伊東鴨太郎、参謀」

「いえ。もう一人」

「…局長」

「御名答。近藤勲局長との連名や。つまり私に与えられた選択肢は二つ。彼の補佐になるか、或いは真選組を出て行くか」

「……君なら、当然後者だ」

「またまた御名答ですよ、監察官殿」


退の顔が益々険しくなって行く。私の言っていることは十分過ぎる程に納得出来ているのだろうが、私がいなくなることは納得したくないというところだろう。一体この派閥の中どうやって仕事をこなせというのか。副長側の人間以外、誰に付けと言うのか。
ポーカーフェイスが得意の監察官の表情にそんなことが書いてあり思わず苦笑すると彼の顔に手を伸ばした。


「わ、ちょ、何名前ちゃ…」

「そんな顔しないで。私は別に私利私欲の為に離れる訳ではない。真選組を捨てた訳でもないよ」

「…そんなこと、分かってるよ」


まるで拗ねている子どもの様だ。やや俯き加減になった彼の顔を上へ向かせ、目を合わせると微笑んだ。少し驚いたような表情を見ながら、笑みを消すと手を離した。


「山崎監察官。最後に命を出す。伊東の動向を探り続けろ。土方と私がいなくなったこの屯所内でヤツは必ず本音を零すだろう。それを聞き逃してはならない。そして、耳にしたならばすぐに逃げろ。副長と私の元へと来い」


必ず、生きて。
死亡フラグを確りと立ててにやりと笑うと退は一瞬目を見開いて固まっていたが、直ぐに呆れた様に笑い、了解と敬礼した。

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