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それは、突然だった。





「副長!!」


年末に新しいゲームを買いに並んでから数日後。正月って何?という警察とは裏腹に世間にはまだ正月の余韻が残る中、一人の隊士の声が響いた。


「んな大声出しやがって…なんだってんだ」

「まだ大分遠いですよね」


副長の部屋で山のような書類と戦っているところだった。五枚に一枚は総悟に関するモノで副長の機嫌も比例して悪くなっている。あれだけせっついた声で叫んでいるのだから、多少の緊急性はあるだろう。普段だったら彼もきっと気付いているのだろうがドタドタと走る足音から全てがお気に召さないらしい。顰めっ面で障子を睨んだ。


「ふ、副長!おられますか!」


その足音がちょうど部屋の前で止まり、再び叫んでいるのだが、それが今にも障子を破らんばかりの様子で。流石に何かおかしい。そう思って副長の顔を見たのだが、彼も同じだったようだ。眉間に皺を寄せて頷いたので、急いで障子に手を伸ばした。


「ふ、副ちょ……!名前さん!?名前さん助けて下さい!!」

「うわ。ちょ、どないした慎之介」


副長を呼んだ途中で私の姿を確認した彼が急に矛先を私に変えて来た。しかも飛び付きのオプション付きで予想してなかっただけに堪らず尻餅を着いてしまった。なんか涼にもいつだかやられたことがあるなと思いながら、慎之介をよくよく見て思わず彼の腕を掴み返した。


「あんた、怪我してんの?」


その声に座って呆れた顔をしていた副長も腰を上げてこちらに来た。慎之介は首をぶんぶんと振って自分は何ともと言っている。だったら、誰のだ。私の後ろに立った副長がそう言うと、彼は焦点定まらぬ目で口を開いた。


「た、隊長が…」

「…右之助がどうした」

「き、斬られ、ました」







































ー それは、突然だった。 ー
































慎之介とは、十番隊副隊長北條慎之介のことだ。右之助慎之介と大分名前がうるさいが兄弟かと思う程に仲が良い。その二人はその日もパトカーで一緒に見廻りにに出て、一緒に屯所まで帰って来た。運転は当然部下である副隊長がし、車庫入れも一旦右之助を下ろしてから行っていた。犯行はその僅かな時間で起きた。慎之介が後ろを確認する為に数秒後ろを向いている間に右之助は袈裟掛けに斬られ、左側腹部を刺された。車を降りた彼がどれほど取り乱したかは想像に難くない。何とか彼を抱えて医務室に駆け込み、後は冒頭の通りだ。
右之助は死んではない。慎之介に言われるまでもなく医務室に飛び込んだ私は彼に回道を使い、治療を試みた。残念ながら回道は私の得意分野ではなく、重要な血管と神経を戻すことだけに集中して、後はそこにいた医者に任せた。
ここで一番の問題点を言っておこう。犯人の侵入経路である。屯所はあり得ない程のセキュリティ天国で私らでも侵入するのに非常に厄介だ。長官の趣味らしいがそう言えばあのおっさんの家も厳重だったと思い返してげんなりした。その屯所に侵入者というのがあまりにも信じ難いことで。当初隊士の中に犯人が、或いは慎之介かと考えていたのだが、その疑いは案外早くに払拭された。


「……四楓院。俺の、勘違いかもしれねぇが…」


副長の方も涼と動いて早急に屯所内へ必ず一組二人以上で行動する様にと警戒零を出し、非戦闘員が固まる食堂に隊士を数人置いて厳戒態勢をとらせ、総悟は終と、映像室で防犯カメラを見ている退の指示を受けながら屯所内を調べた。そしてその映像室の退から見て欲しいモノがあると呼ばれたので副長と総悟、終、涼で向かったのだ。が、そこでとんでもないものを見てしまった。
ピンポイントで見せられた映像は右之助が斬られた瞬間のもの。姿を残すなど犯人は一体どんな間抜けだと呆れて見始めたのだが、登場と犯行と退場と合わせて五秒もない。しかもその犯人の登退場の仕方が身に覚えがありすぎて。だがそれは彼らも同じだったらしい。恐る恐る声を上げた副長に無言で頷いた。


「いえ。御名答です。不完全ではありますが、これは」


瞬歩です。
そう言った私の声は全く感情が入っていなかった。

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