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相容れないモノ。弍





「…沖田ミツバさん、ですか」

「え、?…」


名前が帰り、山崎が銀時に引きずられる様に出て行った数分後。ミツバは激辛煎餅を手に廊下の窓に佇んでいた。大好物の筈なのにそれを齧る表情は暗く、夕日に照らされた顔は何処か物憂げであった。後、何回この夕日を見ることが出来るのだろうか。とでも考えているのかもしれない。
そんな彼女に声を掛けた人物がいた。
唐突に名前を呼ばれ、驚きながらもミツバが横を向くと、其処にはくすんだ深緑の甚平に黒い羽織、白と濃緑のストライプの帽子を被り下駄を履いた男が立っていた。


「…私に、何か御用でしょうか」


正直言えば相当怪しい。服装は見ないこともないのだが、目がよく見えないぐらいに深く被られた帽子となんとも言えない雰囲気が理由だとは思う。だけど彼女はあまりそうは思わないらしく、驚いた顔を消すと直ぐににっこりと笑って問い掛けた。


「こりゃ驚いた。…名前さんが天然って言ってたのはホントだったんスねぇ…」


むしろ逆に驚いたのは男の方だったらしく、あははと笑いながらそう呟く。すると、ミツバが首を傾げながら口を開いた。


「名前ちゃんのお知り合いなんですか?」

「ハイ。で、貴女のさっきのご質問に戻りましょうか」

「さっきの…」

「"私に何か御用ですか"」

「ああ、そうでした。嫌だわ、すぐに忘れてしまって」

「イエイエ!いいんスよ、僕の気まぐれですし……さて。アタシは貴女にあるモノを戻しに来ました」

「ある、モノ?…戻す、って…私、此方に来てから何か落し物でもしたんでしょうか?」

「物ではないんですがねぇ…正確には十年程前に」


一体この男は何を言い出すのか。名前に天然と言われたミツバも流石におかしいと思ったのだろう。先程までの微笑みはなくなり、訝しげな表情を浮かべる。


「…貴方、お名前はなんて仰るんですか?」

「これは大変失礼致しました。アタシは浦原喜助と言います」


かぶき町の郊外でしがない駄菓子屋の店主やってます。
そう言って帽子をとってお辞儀をした浦原をミツバは訝しげな表情はそのままに見つめた。























ー 相容れないモノ。弍 ー



















ミツバが危篤状態になった。
病院から瞬歩で消えて、終の自室で三日後の転回屋暗殺計画を確認していると不意にそんな電話が喜助からかかって来た。何故喜助がミツバの病室にいたかなんてどうでも良かった。ただ、何であんたは何もしないのと怒鳴りながら総悟を引っ掴んで屯所を飛び出した。

『おかしな人だ。理由なんて分かってるでしょうに』
『……だとしても足掻くことは、』
『出来ない。どうにも手が出せない事は貴女が一番良く分かってるっスよね』

一度、彼女の魂魄を引っ張った貴女には。
そう言われて無言で電話を切ると唇を噛み締めて足に込める霊圧を更に上げた。確かに私は一度抜け掛けた彼女の魂魄を引っ張った。パトカーで警邏中の副長とミツバが偶然にも婚約者の家の門で会った時だ。私と退もそのパトカーに乗っていて、咄嗟にやってしまった。が、それは禁忌だったらしく。

『もう二度とやらないと言え』
『……き、喜助?キャラ忘れてるよ?敬語何処に落として来たの?』
『返事は』
『申し訳ありません。もう二度としないと誓います。だから、そんな目で見ないで下さい。怖いから。夢に出て来そうだから。ヤメテ、浦原隊長』

後で物凄く喜助に怒られた。貴女まで向こうに引っ張られたらどうするんだ。万一死神としての記憶が残らぬまま尸魂界へ放り投げられた場合の危険を分かっているのか。藍染に利用され、僕らと敵同士になる可能性だってあるんだ。貴女はそんなに僕らを斬りたいのか。そうかなら剣を抜け。存分に相手をしてやる。懇々と説教をしたかと思えば素晴らしく違和感のない流れで最後に組手を入れて来た。え、そのテンションで組手ですか?浦原隊長どころか平子隊長も四楓院隊長も何故かやる気満々なんですけど。これが罰なの。私死ぬの。ていうかお前らどっから湧いて出た。


「……名前さん。一つお伝えしたい事が」

「分かってる。分かってます」


病院についてICUへと続く廊下を総悟と走っていると急に腕を掴まれて外れた廊下に引き摺り込まれた。咄嗟に刀へ手が伸びたが、それより先に抑え込まれて足を上げるとそれも掴まれて、冗談だろと思っている中、耳に滑り込んで来たのは喜助の声だった。またか。しつこすぎるぞ。そういう意味も込めて呆れた様に言えば、首を振られた。


「…どういう意味」


私はてっきり魂魄引き戻し禁止令を再び念押されたのかと思ったのだが、どうやら彼が言いたいのはそれではないらしい。言われてみれば彼の目は何処か焦っている。そのらしくない様子に此方の心も焦って来た所で喜助の口からとんでもないセリフが飛び出した。



「土方さんが一人で港へ向かいました」



「………は、?」




今、山崎さんから聞いたので間違いありません。
それを最後までどうやって聞いていたのかは分からない。無線から聞いたのかもしれないし、そこまで身体が動かなかったのかもしれない。兎に角、全力で全盛期よりも上回る瞬歩連用数で足を走らせた。

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