×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

相容れないモノ。壱





あれは、数年前の事だ。
攘夷戦争も終わり、現世の近況を詳しく知りたいからと副隊長も含めた五席以上が集められ、各々が担当場所へと派遣された。私の担当場所は武州という所だった。今思えばこの時既に私の歯車は回っていたのかもしれない。後で聞いた時に一人で思い出して懐かしんでいたのだが、武州とは副長達古株の真選組の故郷だったのだ。

そこで、私は奇妙な女に会った。


『貴女、此処では見かけないわね?何処からいらしたの?』

『…………は?』

『もう日暮れも近いから一人でうろつくのは危険です。最近も辻斬りがありましたし。道場から誰か人を呼んで来るのでその人と一緒に帰って下さいな』


現世駐在任務において、義骸を支給されることはまずない。末席近い死神だと言っても斬魄刀の名も知らぬ死神よりは遥かに実力はあるし、一人で現世に放り出されて虚と戦っても負けることはないとされているからだ。何より今回は虚討伐と言うよりは現世の動向調査でそもそも戦闘は入っていない。つまり何が言いたいかって、私は義骸を着ていないと言うこと。なのに何故、この女は私を認識出来ているのか。調べてみてもこの人はちゃんと人間であり、振り返って辺りを見ても誰もおらず、この空間には私と女しかいない。完全に見える体質なのか。というよりどうすればいいんだ、こういう時。


『どうかなすって?』

『え、えっと…その、辻斬りとは一体…』

『最近立て続けに起こってて、何か大きい刃物で一息にばっさりと斬られて亡くなってしまうんです』


…ちょっと待て。
対処の仕方が分からず苦し紛れにさっき彼女が言ったセリフから取ったのだが、恐らくそれは辻斬りではなく虚だ。未だに一人で辻斬りについて喋り続けている彼女の話から、犯人の手がかりはまるでなく、木が数本倒されていたり地面が不自然に凹んでいたり、何より目撃証言がないと言っているのがその証拠で、虚だってある程度霊力がある人にしか見えない。捕まらないのは当然だ。


『ところで話は戻りますけど、貴女、お家は何処ですか?』


これは今夜辺りにでも虚を始末する必要があるなと考えていると、急に話題が戻った。しかも困った方向に。私は死神だ。家なら尸魂界にあるが空を指してあっちの方になんてやった暁には恐らく変質者目線で見られる。兎に角知っている現世の地名を出そうとリサの行った地名を思い出そうと頑張った結果、こうなった。


『え、…家、は…その、何て言うか、…』

『まぁ、私ったら不躾な事を聞いてしまって…だったら私の家に泊まって下さいな。今日は弟達が道場合宿で、私一人なんです』

『えっと、…貴女はきっと勘違いしてるというか、なんと言うか…』

『寂しい夕餉にならなくて済みそうだわ。揚げ出し豆腐はお好きですか?』

『そりゃ、好きやけど、あんた、ホンマに話聞いてないでしょ?』

『まぁ、良かった。私も好きなの。それとお隣さんから貰った鮎を塩焼きにしましょう。ところで貴女、お名前はなんて言うのかしら?』


いや、語弊があるな。彼女は人の話は聞いている。だって私の揚げ出し豆腐好きな下りは確りと耳に入っているから。だけど、それはあくまで彼女に都合がいい部分だけで、他の私の言葉は一切届いていない。ここまで無視するのも珍しいが、最早清々しいレベルだ。だけど、私の呆れ顔などきっと分かっていないのだろうこの人の嬉しそうな笑顔に思わず苦笑し、名前ぐらいいいかと口を開いた。


『四楓院名前。貴女は?』

『私はー…


















ー 相容れないモノ。壱 ー



















「沖田、ミツバ?」

「そうだ。沖田隊長の姉上にあたる」

「…へぇ。終は会ったことあるの?」

「……何度か」

「なんか、余り嬉しくなさそうな顔してるね。何かあったの?」

「え、お前、終の表情の違い分かんのかよ」

「え、右之助。あんた分かんないの」

「……わ、分かるに決まってんだろ」

「嘘だな」


将軍様をキャバクラに連れて行ってから一ヶ月。朝稽古が終わってすぐの朝早くから客人が来た。ちょうど全員が風呂から上がったところで、汗臭い状態でお迎えすることがなくて良かったが、聞くとどうやら総悟の姉上らしい。なんでも結婚のご報告に来た様で、局長の目出度い目出度いと嬉しそうな顔を見る限り、かなり親しいことが分かる。そうすれば副長ともきっと仲が良いのだろうかと聞こうと思ったのだが、如何せん、彼は今総悟を起こしに行っている。さっき羊を数えろと怒鳴り声が聞こえたからまた死体を数えていたのだろうが、本当に仲が良い。きっと聞くまでもなくミツバとも仲が良いのだろうが、あの副長が女の人と仲が良いという状況がイマイチ想像出来ず、若干考え込んでしまった。


「で、終。あんたが苦手な理由は?」

「…毎月、激辛煎餅が送られて来るだろう」

「ああ、そっか。終辛い物苦手だもんね。間違って食べたとかそんな感じでしょ」

「……ああ」

「あはは。ていうかあれ、ミツバからの送りモノだったの?」

「ああ、そうだ。ってお前、会ったこともない人の名前呼び捨てかよ」

「なんか、つい」

「ついってなんだ、ついって」


ついはついだよー、と適当に返して襖の隙間から覗いていた新七の下に潜り込んで私も中を覗いた。綺麗だね総悟の姉さん。お前もな。珍しく気の利いた言葉を返してくれた新七に今度ご飯でも奢ろうかと言っていると彼の上に退が、更にその上に右之助が覗き込んで来た。


「しかし似ても似つかねェ。あんなおしとやかで物静かな人が沖田隊長の…」

「だから良く言うだろ?兄弟のどっちかがちゃらんぽらんだと、もう片方はしっかりとした子になるんだよ。バランスが取れるようになってんの、世の中」


直後、とても室内では起きない様な爆音が鳴り響いた。
副長に起こされた総悟が漸く来たのだが、恐らく副長暗殺の為に持ち歩いてたバズーカを今まさに絶賛悪口中の彼らに放ったというところか。その狙った襖の先には総悟の敬愛する二人がいる筈なのだが、何の躊躇いもなくぶっ放してしまうこの子はやっぱり謎だ。
ちなみに私は直前で殺気に気付いた終に引っ張られて被害を受けずにすんだ。


「まァ、相変わらずにぎやかですね」


この死屍累々とした状況を見てにこやかにそう言える彼女に思わず苦笑いが漏れる。今貴女の弟、殺人未遂犯しましたよ。ついでに言うと今から尊い命が貴女の目の前で奪われそうですよ。


「…名前」

「ん?あ、終、ありがと」


引っ張られた態勢のままちょっと非日常な光景をぼんやりと眺めていると、後ろの終から声がかかった。完全に彼に寄り掛かる様な形になっていたのでごめんよと言いながら立ち上がると、そうではないと言われて怪訝に彼の方を振り返った。後ろでは退が…誰?と呆然とした声を出している。


「どういう意味?」

「何か、気になるか」

「…何が」

「総悟の姉上だ」


正直、無表情を突き通せたか自信がない。終は偶にこういうことがあるから困る。喜助の様に常に全てを読んで来るタイプなら事前の心構えが出来るのだが、ふとした瞬間に思い出した様に言われること程困ったものはない。
一瞬でも表情が固まってしまったので、終には絶対バレてしまっている。黙っていてもいずれ分かることだから、言ってしまっても問題はないかと諦めて一息つくと、ミツバが座っていた場所に目線を落とした。


「……保って、一週間」

「…何がだ」

「総悟の、……いや」


ミツバの寿命。
参りましょう、姉上!私の言葉に目を見開いてリアクションをとった終など知らぬと言う様な総悟の嬉しそうな声が、その場に嫌に響いた。

prev/next

82/129


▼list
▽main
▼Top