約束。参
柳生家は代々幕府の剣術の指南役として仕え、廃刀令の後も幕府からのお声が掛かれば直ぐに馳せ参じられる様にと剣の腕を磨き続けて来た。たとえ真剣を持てずともその一門を叩く者は多い。実際この混乱の中、数えては見たが軽く百は超える。相当な大所帯だ。また、それを養うだけの財力もあると考えると、未だ幕府との繋がりは絶えていないと考えられる。
喜助はそこに目を付けた。
剣術の指南役。天人の技術もあり扱いも楽な飛び道具が主流となりつつある今、最早斬り捨てた所で何も困らない部分だ。しかし、幕府は彼らの懐に余裕が出る程に財を与えている。真っ黒な幕府の何かしらの一部を担いでいるのではないか。私が初めて九兵衞と会った翌日、そう考えた喜助は直ぐ行動を起こした。
『ちょっと門弟になって来ようかと思います』
『…は?』
内情を探るなら外からではなく内から。確かにご最もであるが、まさか喜助自らが行くとは思っていなかった。こう言うことには真面目に門弟をしてくれそうな拳西辺りが行くのかと思っていたからだ。まぁ、そんなのは喜助の気まぐれだとして、彼は門弟となるべく柳生家の門を叩き、翌日には一気に門弟のトップへと登りつめた。
やりましたよ〜
(
)
そんなメールが来たからやり過ぎだ、アホと返しておいた。決して最後の顔文字に腹が立った訳ではない。しかし、事は彼と私の思惑以上に良く進んでくれて。筋が良すぎる喜助は次期四天王ともまで言われ、加えてあの性格だ。ひょいひょいと懐に入り込みおだて上げるぐらいワケはない。放っておいても評価はうなぎ登りである。
そんなわけでたった一週間足らずで柳生家からだけでなく門弟仲間からも絶大な信頼を得た喜助は、今回のゲームの七人目として参加していた。
ちなみに銀時が何故気持ち悪いぐらいの読みをしてくれたのかと言うと、こういう経緯を知っていたからだ。決して読みが神様レベルに達したワケではない。アレは百年以上の歳月が必要だ。
「神楽、腕折れてない?」
「総悟さんは足、折れてますね」
お互い斬魄刀解放をし、久々に好き勝手暴れた私と喜助は、屋敷中の人間の霊圧が一斉に一箇所へ集まり出したのを見てそこでやめた。戦いも終盤に入ったということで、結果ぐらい見届けようと思い、数が多ければ加勢に入ろうと思ったからである。
だが着いてみて驚いた。神楽を始め、他四人がボロボロだったのだ。総悟はまだしも神楽の腕を折る程の怪力がいるんだと思わず目を丸くしてしまった。
でもまぁ、副長も中々の重症で、このまま死なれても困るので、助けに入ろうと、足元の霊子を崩した。
「な、なんだ貴様らはァア!!」
きっと突然と姿を現した私達に驚いたのだろう。神楽を後ろから狙う奴を喜助が落とし、総悟と副長を三人掛かりで狙おうとしていた奴を私が吹き飛ばすとその場が止まった。塀の上で対峙していた四人も此方を向いて目を見開いていた。…いや、銀時だけはなんか怖かった。
「…ていうかさ、喜助。あんた門弟として仲間からの信頼があったんじゃなかったの?」
「の、筈なんスけどねぇ…」
「私と貴様ら括りにされてるよ」
総悟を副長の肩から降ろして縁側に座らせながらそう言えばあははと苦笑していた。いやいや。あんたが穏便にことが進みそうだと言うから敵陣の真っ只中に足を降ろしたのになんだその適当さは。
「オイ、四楓い…」
「オイ、名前!!テメェ、後で覚えとけよ!厠に放り投げやがって、どんだけ大変な思いしたと思ってんだ!千円札でケツ拭く気持ちが分かるか!?」
「いや、分からん。分かりたくもない。それに厠に閉じこもったのはあんたの豆パンの管理が悪いからでしょ」
「そうだよ!俺のせいだよ!!だがな、厠は選べよ!せめて屋敷の中!!」
「そんな無茶言うなや。あんた一人飛ばすのにどんだけ霊力消費すると思ってんの。それとも……何」
代わって欲しいの?ソレ。
副長を遮る様に突っかかって来た銀時を適当に流し、最後に敢えて微妙な間を取って言えば彼の目が真剣に戻った。
「…いや。俺と新八でやる」
「……そう。なら後は此方で引き受けるわ」
柳生家の人間が多数いる此処で鬼道を使うワケにもいかない。総悟と私の隣に来ていた神楽に動くなと念を押して立ち上がると、副長と目が合った。
「また随分と派手にやられましたね」
「…うるせえ」
「まぁ、後はやるんで。というか半分は喜助の所為なんで、責任取らせて一緒にやらせるんで直ぐ終わります。副長は局長と一緒に休んでて下さい。あ、ついでにコレ、お願いします」
「…は?」
一気にまくし立てて唖然としている副長に斬魄刀を押し付けると、四楓院家の百人組手には及ばない組手に足を踏み入れた。
妙に掛けられた、"約束"という都合の良い言葉で置き換えられた枷を外す為に。
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