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ありがちな。





椿屋。
二百年以上続き、今代で六代目となる和菓子屋は多くの市民から親しまれていた。それこそ老若男女に。だが、そんな由緒正しき和菓子屋の常連客からタレコミがあったのがつい一週間前。

『…裏メニュー、か』

『普通は常連へのお礼として出される物ですね』

"裏お品書き"なるものがあるらしいのだが、それらがどうもクサい。匿名で送られてきた短い文書にはそうあった。近所の噂からは些か信じ難い事だったが、疑わしきは調べぬ訳にもいかない。なので退を走らせてみたのだが、哀しいかな。"出て"しまった。裏お品書きの和菓子は一品につき百万は下らない。全て麻薬関係だったのだ。

『…どうしますか』

『何バカなこと聞きやがる。摘発だ。総悟と終に伝えとけ』

『分かりました』

入手ルートも突き止め、報告に来た退に副長がそう指示を出したのがつい数時間前。そしていとも簡単に制圧が終わり、椿屋から証拠品も押収し終えた今、私はその証拠品が集められている管理室にいる。


「よくもまぁ、こんなモノまで…」


押収された薬関係は麻薬類に留まらず、爆薬や毒薬、それに喜助が喜んで解析してくれそうな怪しげな薬まで様々なモノがあって。その中でも"若返り"と銘打ってある瓶を見付けて思わず感心してしまった。そこまでして老いることに恐怖するのか、人間は。


「…四楓院?何してんだ」

「あ、ああ…副長。いえ、面白い薬もあるものだなぁ、と」

「若返り、だと?アホか。んなこと出来るワケねぇだろ」


若返りの瓶を持って中身の液体を光に翳して見ていると不意に声をかけられた。気配には気付いていたので驚きはしなかったが、後ろを振り返ると案外近くに彼の顔があって少しびっくりした。


「一滴で十年、若返るらしいですよ」

「三滴も飲んだら消えるな」

「……そうですか」

「オイ、なに普通に懐にしまってんだ」

「副長。今後、口に含むモノ…特に煙草とマヨネーズにはお気を付け下さい」

「お前はいつから総悟の手下になった」


五百年前から。あいつが死神だとは初耳だな。そんなことを言い合って笑うと瓶を棚に戻し、副長を促して管理室を出た。

だけど、この時うっかり漏らした年数に私は後々後悔することとなる。















ー ありがちな ー



















「名前ちゃん」

「退か、どうした?TNT関連の爆薬のデータならさっき涼に渡して今はフェノール類に入ったからそろそろピクリン酸の、」

「ちょ、ストップ。そんなことじゃなくって」

「じゃあなんや」

「休憩しない?原田からの差し入れなんだけど」

「へ?わ、桜の練り切りだ。嬉しいな」


椿屋検挙の翌日。
押収した物に薬物関係があったと言ったが、それは全体の二割に過ぎない。残り八割は殆どが書類やデータ類で脳筋揃いの真選組では検分は絶望的。故に数少ない頭脳派の私を含めた退を始めとする監察全員でやっているのだが、予想を遥かに上回った。量が膨大なのだ。データ関係は私と退と涼で。書類関係はそれ以外の監察で、と分けはしたのだが、とても一日二日で終わるような代物じゃあない。そろそろノイローゼ者が出るんじゃないか、と言う今日この頃である。


「抹茶も貰ったから、飲み物はそれにしたよ」

「…なんだかやたらと気が利くじゃん。なんか怖いんだけど」

「まぁ、簡単に言えばごめんってことなんじゃないの?」


パソコンから離れて、黒い器に良く映える桃色の桜の練り切りを口に入れたのだが、退の言葉に首を傾げた。


「ごめん?」

「あいつらこういう頭使う仕事苦手じゃん?だからさ」

「ああ。自分達は出来なくて、ってこと?」

「そうそう」


その隣の抹茶が入っている器に口を付け、やたらと美味しいけど誰が立てたんだろと思いながら退の分の抹茶に手を伸ばす。


「誰にでも得手不得手はあるんだから謝ることでもない」

「そう俺も言ったんだけどね。名前ちゃんの場合、戦闘もあいつら上回ってるからさ。余計申し訳なく思ってるみたいだよ」

「…へぇ。まぁ、有難く頂くよ」

「うん。それと、抹茶は…」


と、退が言いかけた時だった。
急に身体が熱くなり、身体中が猛烈に痛んだ。コレは我慢出来るレベルを超えていて、倒れ込むと同時に抹茶の器が手から滑り落ちて畳の上に中身をぶちまけた。突然の私の行動に退は一瞬固まっていたが、抹茶が自分の手にかかったことで我に返ったらしい。名前ちゃん、と叫びながら私の肩を揺すった。


「さ、退…コレ右之助に貰ったって…」

「練り切りは原田。だけど抹茶は」


沖田隊長。
その名前を聞いた瞬間、私はクソガキと呟いて意識を手放した。

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