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お粗末な頭。





幻族は一時期なりを潜め、その約半年後に急に能力を上げて再び現れた。人間への死神の力の譲渡という相当の重罪に当たるこれをやっていたのは、藍染だと考えていた。天導衆と連絡もとっていたし、高杉の口から藍染の名前が出ていたからだ。だが、これらは全て西園寺祥之助による策略で、藍染は一つも関与していなかった。夜一が天導衆の拠点に忍び込み盗って来た映像の中の藍染は西園寺が作った合成映像で、高杉は藍染と接触などしたこともなく、西園寺祥之助からそう匂わすようにしろと言われていたに過ぎなかった。その異変に気付いたのは紅桜の一件より二週間前。藍染が私達と接触をして来ないことに疑問を持った喜助が調べに調べた結論だった。そしてその時、俄死神の能力UPの要因も分かった。

『死体から抜けた魂魄を現世で引き留め、死神として育成させて、疑似虚化させたんス』

最初の頃、私達は俄死神と会った際、一人残らず殺していた。しかし、私が退といた時に会った俄死神はその殺した奴のウチの一人だった。幾松ラーメンで蕎麦を食べながら話していたのはコレだ。疑似虚化とは藍染の研究を別の方法で完成させようとしている西園寺が辿り着いた仮の虚化のことで、完全に虚化は出来ないが、虚の力を利用出来る能力を有する。果たしてそんな事が出来るのかと眉をひそめたが、彼は尸魂界に危険を及ぼす恐れのある者として蛆虫の巣の最下層、涅マユリと同じ牢獄にいた者。こういう科学的なことにはずば抜けて秀でていたらしい。あまりにも有能すぎる脳を持ち、常識から逸脱した行動を取っていた彼は尸魂界の重鎮達に嫌われたのだろう。ここで、さっき藍染は関与していないと言ったが、少し訂正を加えよう。彼は間接的には関与している可能性がある。何故ならって、蛆虫を巣から出したのは藍染かもしれないからだ。蛆虫の巣からの脱獄はほぼ不可能。囚人がそんな不可能な状況下で逃げ出したとあって当時隠密機動内では相当問題になったが、方法は分からず、理由も謎だった。しかし、同時刻に別の部署にあった斬魄刀が持ち去られていたことから外部から誰かしらが手引きしたのは明らかで、その後も霊圧捕捉などしてはみたが尸魂界では見付からず、現世に逃亡したのかもしれないと予測を立てていた。そしてまさか、宇宙にいるとはそこは予想外だったわけだが、幻族を従えた西園寺は最近、春雨の傘下に入り、第零師団として所謂隠密機動のような位置にいる。皮肉にも自分がかつて捕らえられていた所の、しかも捕らえていた側の。

まぁ今のところ、分かっているのはこんなもんだろう。

そこまでの文をまとめ上げ、パソコン上部の保存ボタンをクリックすると、軽く伸びをした。


「…ちょっと、名前ちゃん」


すると隣からかかって来たいかにも不満そうな声。その顔には真面目にやってと書いてある。
今私がいるのは屯所内の自分の部屋。そこで退と涼とある事件のことについて話している。涼は一番隊の副隊長だが、身軽さと気配を消すのが上手いこともあって監察も兼職している。というか私と退が引っ張った。総悟の世話も大変なのに申し訳ないが監察の手が少なくて困っていたのも事実。副長と頭を下げて、給料の賃上げも提示してお願いしたら、そんなことしなくともやりますよと慌てながら快諾してくれた。なんて良い子なんだと泣きそうになったのは記憶に新しい。


「なぁに、退」

「なぁに、じゃないよ。今結構重要な話してるんだけど」

「ちゃんと聞いてたよー潜入しようか否か、って話でしょ」


だから、そんな怖い顔しないでよ。
そう言ってお皿に乗るお団子に手を伸ばすと、退は諦めたように大きく溜息を吐いた。ちなみにこの団子は涼が買ってきてくれたモノだ。

















ー お粗末な頭 ー




















今巷で大問題となっている連続婦女誘拐事件。
社会弱者を狙う卑劣な犯行に憤りは感じていた。だけど、それがあまりにも真選組の重要管轄地域内で起こるものだから、コレは喧嘩を売られているのではとすぐに予測が立った。更に、殺すつもりなら態々荷物になる女の子を自分のアジトに連れ帰るなんてせずに、その場で死体を置いて行けば良い話で。彼らはその捕らえた女の子達を人質として恐らく何らかの取引を要求してくるのだろうとも予測がついた。つまり、数を増やすことが大凡の目的で兎に角行き当たりばったりに手近な所から目に入った女の子をどんどん捕まえているワケで。そこら辺を可愛い着物を着てなよなよしく歩いていればあっさりと捕まるのでは、と思ったのが当たった。かぶき町の人気が少なくなる朝早い時間帯を狙い、三人でバラバラに歩いていたら、直ぐに後ろから口を塞がれ体を引かれ。あっという間に後ろ手に縛られ車に放り込まれて、アジトのような所に詰め込まれた。
…退だけ。
あれ?おかしいな時間帯的に早かったのかな、と首を傾げながら隊士が殆どいない屯所へ戻ると、そこで涼と合流。同じような表情をしていたので、彼と何でだろと話していれば、耳の無線に退から潜入成功との声が入った。
何で退だけ?と疑問も生じたが、思えばさっき歩いている時に確かに後ろから何人かにつけられている気配があったのに、唐突にいなくなっていたのを思い出し涼もそうだったと言い、何となく納得。

『強さの選別は出来るようね』
{どういう意味かなそれェエエ!!}

敵さんもどうやら馬鹿ではないらしい。そして、退に大体の場所が分かるかと問えば、変な薬を嗅がされて今気付いたばかりなので全く分からないと言う。役立たずと吐き捨てて後の状況把握は涼へ任せると、つい一週間程前に捕まえた浪士が入っている牢屋の前にいるのが今の現状だ。


「……何の用だ」

「貴方の仲間がウチの隊士一人の女装を見抜けず攫ったわ」

「そりゃあ末期だな」

「どっちが?」

「俺の部下も、お前の部下も」

「そうね」


そうやって牢屋の中心で胡座をかき、テンポの良い会話をしてくれたのは天狗党の幹部だ。先日のとある料理屋の粛清の際に偶々居合わせてしまったこの男は混乱に乗じて逃げるつもりだったらしいが、私がそれを見逃す筈もなく、幾つか刀を交わした所で捕らえた。中々剣筋は良かったが、潔も良かった。刀を弾き飛ばし、首にピタリと当てれば諦めたように笑い両手を挙げた時は正直驚いた。
まぁ一先ずそんなことは置いといて、連続婦女誘拐事件の犯人はさっきの私の考えが間違っていなければ天狗党だ。彼らは過激派であっても比較的慎重な行動を取るグループであったのに、何故か暴挙に出た。その理由は恐らく、今私の目の前にいる奴の解放を条件にした取引だ。


「いつもは騒がしいのに今日はどうした?集団食中毒でもかかったか?」

「残念。今日は一日局長イベントで彼らはパレード中」

「なるほど」

「それで。貴方に聞きたい事が一つ」


部屋の入り口にあったパイプ椅子を広げて座り、足を組みながらそう問い掛けると、男は目を細めた。


「…なんだ」

「貴方のアジト、どこ?」


と、急に男は爆笑し始めた。
この反応は予想範囲内だ。こういう性格の浪士は偶に見てきたが、ここで憤らずに笑って拒否するのはどうやら彼らの習性らしい。あまり理解は出来ないが、嫌いではない。会話の、言語の戯れはむしろ好きだ。


「率直だねぇ。それ、俺が言うと思ってるのか?」

「勿論、言う訳がないと思ってるわ」

「だったら聞くなよ。いくら俺が捕まったからって、仲間、売るわけねぇだろ」

「ああ、やっぱり。貴方は何か勘違いなさってるようだ」

「…何?」

「私は"貴方の"と言ったのよ。貴方達の、とは言ってない」


その瞬間、頬を何かが掠めた。
一体この男の身体検査は誰がやったんだと眉を潜めて心臓を狙ったもう一本に目を落とすと、不意にその針がぐにゃりと曲がった。だから身体検査もすり抜けたのかと思ったが、指に触れる感覚で自分の方に異常があるのだと理解した。しかも私の記憶違いでなければこれは、一度体験している感覚だ。


「………」

「驚いたな。それは、象でも一瞬で倒れる毒だぞ」

「それは凄い毒ね。試された象は可哀想に。
…で?私の質問には答える気はあるの?」

「ねぇな」


迷いもなく言い放ったその言葉の次の瞬間には彼の首に刀が食い込んでいた。私の座る椅子から牢屋内の彼の座る位置までは約一.五メートル弱。解放して真っ直ぐ狙えば十分届く距離だ。
表皮、真皮、皮下組織と切り、頸動脈の血管外壁でピタリと止めて彼を見ればその顔はさっき迄とは激変していた。目をいっぱいに開き、だらだらと冷や汗をかいて、顔面は蒼白。息もろくに出来ないようで、うっかりと血管を切ってしまいそうでこっちがはらはらする。


「貴方が表向き所属している天狗党。そこのアジトなんてのはとっくに知ってるのよ」


彼の恐怖は当然だ。私は今だらだらに霊圧を垂れ流している。しかも彼に向かって。軽い呼吸困難になるのは致し方ない。早いうちに話してくれなかった彼が悪い。


「それに今から彼らが攫いに攫った女の子連れて立て篭もろうとしている場所が異菩寺だってこともね」


にっこりと笑って言ったのだが、最早彼に笑顔を見せる余裕はない。目の大きさで感情を伝えている状態で、此方からすれば少し滑稽でもある。可哀想とは微塵にも思わない。こいつは、こうやって今の私の立場に立って何人もの子供や女性を殺してきた。剣の腕が良いと変な趣味までプラスされるのはどっかの盲目の人斬りを思い出させる。


「さて。貴方が中々答えてくれない進まない会話を一気に進めましょうかね」

「……、っ…」

「貴方の本当の所属場所の上司と、今日限定のウチの局長の音楽プロデューサーは同じ人物で正解かな?」


直後、彼の目が見開かれたのと、無線からワンとふざけた吠えが耳に入って来たのはほぼ同時だった。

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