可愛い、と君は僕の目を見て笑う
僕はただ俯いて、赤くなった顔を隠した


となり


僕の隣、いつも君がいて。
それが当たり前で、いつまでも続くと思ってたし、君がいなくなるなんて、思いもしなかった。

けど、そんなこと、続く訳なくて。
この春から、君は遠くの街に行ってしまう。

「だから、大丈夫って言ってるでしょ?」

「でも…」

「でもじゃない!もう、ほんっと心配症なんだから…」

小さい頃からずっと隣にいた幼なじみ。でも、そんな呼び方では括れない感情が僕の中にはあって。
とにかく、君がいなくなるのが嫌だった。

「向こう着いたらすぐ電話するし、ってか1・2ヶ月したら一回帰って来るんだから。…そんな顔しないでよ」

「…ごめん」

「…謝ることでもないよ」

言いながら、僕の顔を覗き込んだ。瞬間、目が合う。

伝えたい言葉が山のようにあった。
寂しい、行って欲しくない。君のことが、大好きだから。

「なぁ」

「ん?なに?」

「あの約束、覚えてる?」

「約束?…なんだっけ、ごめん、覚えてないや。いつの話?」

そうだろうな、あんな約束、覚えてるほうが凄いし。心の中で小さく息を吐いて、勇気を振り絞って君を見た。

「10年前、隣町まで家出したときに言ってたこと、覚えてない?」

「10年前…?あぁ、あれ?!まだ覚えてたんだ?」

ちょっと考えた後思い出したみたいで、君は笑い出す。

「悪いかよ」

「ううん、全然、寧ろ嬉しい。覚えててくれたんだ」

「まあ、ね」


『10年経っても、まだ今日のことを覚えてたら、2人でまたここに来よう』


隣町までの小さな冒険で交わした約束。小さな教会の前、幸せそうな、新たな人生を歩み始める人たちを2人で見ながら指切りをした。

あの時は乗り気じゃなかったし、すぐ忘れるだろうなって思ってた。
でも、歳を重ねるにつれて、忘れるどころか、あの約束は僕の中で大きくなっていった。

「そっかそっか。でもどうしよう。ねぇ、どうする?約束、果たしに行く?」

「どうするって、なにが?」

約束を思い出したからって、本当にあそこに行こうとは思ってなかった。
ただ、あの約束を通して、君との繋がりを確かめたかっただけだから。

でも、君の口からは、想像もしなかった言葉が飛び出した。

「だって、まだ18歳だよ?結婚するには早すぎるでしょ?大学だって決まったばっかなのにさ」

そう言って悪戯っぽく微笑みながら僕を見た。

――結婚?!いくらなんでも、それは話が飛びすぎじゃないか?

「や、お前のことは好きだけど、そんな…」

ぼそぼそと話す僕を見て、君は更に笑い出した。

「何本気にしてんのよ、冗談に決まってるでしょ?」

その一言に、一気に脱力感が広がる。
何だよ、1人で慌てて馬鹿みたいじゃないか。というか、今、大変なことを口走ったような――…

「…でも、そっか、私のこと好きなんだ?」

「な…!」

やっぱり。ちゃんと伝えようと思ってたのに、なんて間抜けな告白。

「や、それは、その…」

「違うの?」

僕の目を真っ直ぐ見て君は尋ねる。何ビビってんだ、今言わなくてどうする。
深く深呼吸して、君を見つめ返した。落ち着け、心臓。

「…違わない。好きだよ、昔から、ずっと」

言ってすぐに目をそらした。情けないことに少し声が震えたけど、ちゃんと言えた。
ただ、今度は君の声を聴くのが怖い。

「やっと言ってくれた」

慌てて視線を戻す。ほんの少し顔を赤くして、君は笑っていた。

「私もだよ」

「…ほんとに?」

「嘘ついてどうするのよ。――本当は、私もずっと覚えてたよ、あの日のこと」

そう言って、信じられなくて呆然としている僕の手を取り、指切りをする。

「約束はちょっと延期になっちゃうけど、でも、ちゃんと守ってよ?小さい頃からの夢なんだから。…返事は?」

「え?あ、はい、誓います」

「ん、よし、おっけい」

言って指を離す。まだ少し呆然としている僕の顔を覗き込んで、昔から変わらない笑顔で君は笑う。

「顔真っ赤になってる。可愛い、女の子じゃないんだから」

僕はただ俯いて、赤くなった顔を隠した。


いつか、あの約束を果たす時が来るまで
その日まで、君の隣に僕がいれるように
僕の隣に君がいるように

そして約束を果たしても、僕らがずっと隣同士であるように

どうか、そんな日々が、続きますように


080202 (060627~060702)
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幼なじみネタは思いつきやすいのか、これ以外にも何個かあったり。
この主人公は将来尻にひかれるタイプだと思う。



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