秘密基地なんてとっくの昔に失った 日毎大人に近付く僕らは、もう理想郷を捜すことも出来ない 目の前に広がるのは、知りたくも見たくもない現実ばかりで 「サボりはいけないと思いますけど、優等生サン?」 秋風が吹く立ち入り禁止の屋上に、二つの人影。グラウンドからは体操服の生徒の声が、教室からは先生の声が聞こえてくる。 つまりは、授業中真っ最中な訳で。 「人のこと言えないだろうが、万年サボり魔め」 「サボりじゃありません、今日もまた自主休講なだけです」 仰向けに寝転がった男子生徒の隣に、堂々と言い切った女生徒は座った。 「それにアレだ。ちゃんと結果は出してるし、必要最低限の出席はしてるもん」 「そういう問題じゃねえだろ…」 彼の小言を聞いているのかいないのか、彼女は呑気な声で問いかける。 「で?あんたは何してるのさ」 「考え事」 「ふうん?何々、お姉さんに言ってごらん?」 「お前、いい感じにウザくなったよな…」 そう文句を言いつつ、彼はぽつりと言葉をこぼす。それはほとんど自分に言い聞かせるかのようなトーンで。 「秘密基地なんて、とっくの昔に無くしたんだよな、って」 「え?」 「歳を取るにつれて、ガキの頃に出来てた事が出来なくなる。あんなに簡単にやれてた事なのに、さっぱり分からなくなる」 一旦そこで言葉を切ると起き上がって、空を仰ぎながらさらに言葉を続ける。 黙ったまま、少女はその横顔を見ていた。 「大人になって出来るようになった事も山程あるけど、手に入れた物より失った物の方が遥かに多い気がしてならないんだ」 視線をコンクリートに落とすと、呟くように最後の言葉を吐き出した。 「もう、秘密基地なんて見つけられない」 執行猶予はとうの昔に切れている。今探さなきゃいけないのは、自分の"これから"。 だけど、そんなに簡単に見つけられるものじゃない。 そう言い終わった少年が視線をやると、暫く彼を見つめ続けていた少女は眉間に皺を寄せていた。そしておもむろに口を開く。 「あんたの話は小難しくていかんよ、もっと単純明快に生きようぜ?」 その一言に、肩の力を落としながら投げやりに少年は付け加えた。 「……つまりは昔は良かったよな、って話」 「まあ、将来が不安だと過去に縋りたくなるもんだからねぇ」 うんうん、わかるよ。と、一人頷いている少女に、彼は盛大な溜息を吐く。 「分かってんじゃねえか」 「仕方ないでしょ、高校生とはそういう時期だ。大いに悩め少年よ」 「……相変わらず達観してんなお前は…」 「と言うかね。あのさ、思うんだけど」 ずい、と彼に近寄ると、人差し指を突き出しながら言い放つ。さも当たり前の事を諭すように。 「捜して見つからないなら、此処に作れば良いじゃない」 ――作る?此処に? 予想だにしなかった回答にあっけにとられる彼にはお構いなしに、彼女は不意に彼の肩を叩いてを押し倒し、思いっきり頭を撫で始めた。 「ちょっ、んだよ急に!離せ!」 「えー何ー?聞こえませんなあ」 「後で覚えてろよバカ!」 「はいはい、気が向いたらねー」 反抗を物ともせずぐしゃぐしゃと髪を混ぜる(撫でるなんて可愛いもんじゃない、これは)手をパッと離すと、呆然と見上げる彼に彼女は不敵な笑みを向けた。 「幼なじみのよしみだ、その為の手伝いくらいならしてあげるからさ」 さて、それじゃ見返りは何が良いかな?そう楽しそうに笑う少女の声と言い返そうとする少年の声に、終業のチャイムが重なった。 ロマリア (ロマンチストとリアリスト、平行線を辿る日々) 秘密基地なんて、すぐそこに 10/04/19 ---------------- 個人的にタイトルが気に入ってます。 (ロマリア=ロマンチストリアリストの略) |