前はさ、そういう人達を冷めた目で見てた。私は絶対そんな事ならないって思ってた。 なのに、今じゃどうだ。 「…変化、無し」 数分置きに手を伸ばし確認、落胆のループ。 だってこの小さなハコが、私とあなたの大切な繋がり。 (あぁ、依存症だ完璧に) (携帯にも、あなたにも) 「寝よ…」 何だか虚しくなってきて、相変わらず時間だけが変化する画面を閉じて枕元に置いた。 瞬間、震え出す携帯電話。 「――っもしもし?!」 『……まだ起きてたんだ?』 「違います、着信音で起きたんです!」 『何言ってるの、ワンコールで飛びついた癖に』 いつもは一旦寝たら朝まで起きないじゃないか。それに、寝起きでそんなにテンション高いなんてらしくない。 そこまではっきり言われたら言い返せなくて、口ごもりながら小声で返す。 「…だって、もしかしたら連絡くれるかも、って思ったら、寝れなくて…」 自分で言っておきながら恥ずかしくなってきて、慌てて話題を変える。 「そ、そんなことより、先輩こそどうしたんですかこんな時間に」 『そんなこと?へえ、僕が電話することってそんなことレベルな話なんだ?』 「え、違、そういう意味じゃなくて!」 あからさまに不機嫌な声色で言われ、必死で弁解。何で私こんなに焦ってばっかなんだろう。久しぶりに声が聞けて嬉しいはずなのに。 どもりながら、あーとかえっととか言ってると、電話越しに低い笑い声が聞こえる。 『嘘、わかってるよ』 くすくすと響く笑い声に、それだけで耳まで真っ赤になる単純な思考回路。なんて幸せな頭してるんだ。 「あの…、で、本当にどうしたんですか?」 『そんなの決まってるだろ』 "声が聴きたかった"なんて甘い言葉が囁かれるのかな、とか真っ赤な顔のまま次の言葉を待つと、聞こえたのは別の単語。 『部長と連絡がつかなくて仕方なく電話したんだよ。あいつと同じ授業とってただろ?』 ……つまり、伝言係ってことですか、先輩。そう力無く返すと、他に何だと思ってたの、と軽くあしらわれた。 ええ、何となく予想はしてましたよ。どうせこういう事なんだろうな、って。ほんの少し涙目になりながら、先輩から部長への伝言をメモにとる。 『――じゃあ、そういう事だから』 「はい、明日部長に伝えておきます…」 『どうかした?』 「いえ…何でもないです」 『そう?じゃ、僕明日早いから』 そう言うとブツっと電話は切れ、ツーツーと無機質な機械音が虚しく響いた。 …私、本当に先輩の彼女だと思って良いのかな。せめて一言、ありがとうとかお休みとか、何か言ってくれてもいいのに。 深い溜め息を吐きながら、さっき取ったメモを見直してベッドサイドに置く。 (忘れたりしたら、また先輩にこっぴどく叱られるしね…) ああ、何で私こんなに彼氏に振り回されてるんだ。これって不毛な恋ってやつなのかなあ、なんて思いながらベッドに戻り、枕元に置こうとした瞬間、再び震えだす携帯、光るメール受信マーク。 「…誰だ?こんな時間に…」 不信に思いつつもメールを開くと、飛び込んできたのは見慣れた名前、たったの一行。 でも。 (…駄目だ、反則) (今、人に見せられないくらいに頬緩んでる) たった一言、でも何より温かい言葉。 『おやすみ』 もう決めたはずなのに、諦めの悪いこの手 (ほら、また嬉しくて手放せなくなるんだ) 前言撤回、全然不毛なんかじゃない 結局いつもこうやって甘やかしてくれるんだから 090301 title by ララドール -------------- 久しぶりに暗くない話ですね…(苦笑) 実は別の場所で使おうかと一昨年の夏頃書いたのを手直しした物だったりします。 |