聖者の行進
町にひとつしかない繁華街とも呼べない商店の並びは常に人通りが多く、夕方には買い物客で混雑していた。
整備されていない道は埃臭く、過ぎ去る人々はどこか荒んだ顔色をしている。町全体が大きな欝蒼に包まれているようだ。
「ねえ、そこのお兄さん」
一人分の夕食の素材が入った買い物袋を持っていたコムイは、か細い声に気がついて、ゆっくりと振り返った。
呼ばれた気がした。
「・・・・・・ぇ・・・・・・」
「そう、あんた、髪の長いおにーさんさ!」
最初は気のせいかと思ったが、背後からの呼び声に次第に自分だと確信してゆく。ざらざらとした町並みを左右確認するも声の主姿が確認できない。
さらに移ろう人影の中視線を泳がせた。
どこにも声の主らしい人物はいない。
「ぁ、わりい。ちょっと待ってて!」
やはり自分をしていしているのだ。
知らない声。けれど自分を呼んでいることは確かなので邪険に出来ない。
どこから現れるとも知れない相手に立ち止まっていると邪魔だ、どけよ、などと乱暴な口ぶりの通行人らに押され、避けてるように困り顔のコムイは頭を下げながら数歩下がった。
「イテッ」
どん、と背中に何かがあたって、それが人であるとわかると慌てて振り返って「謝不起」と咄嗟に謝る。「いえいえ」とぶつかった額を撫でながら首を振るった少年の声は、聞き覚えがあった。
コムイを呼んでいた声だ。
「・・・ぁ、ぇ?」
少年?
「いてて、お待たせしましたー」
コムイは見上げてくる、幼い少年の顔を注視した。誰だろう、この子は。
珍しい赤毛。中国ではまったくといって見かけない。おまけに少年の目は、グリーン。
異国人。
そんな少年が、どうして自分に用があるのだ。
少年がぶつかったと思われる額をなでる。大きめらしいバンダナがずり落ちてきて持ち上げる仕草がどこか猫っぽい。
「ぇっと・・・んーと何だっけ・・・ぁ。そうそう!」
観察に夢中で呼び止められた事情に無頓着になっていたコムイは少年のひらめきの声に警戒して身構えた。
少年はにへへ、とどこか得意げ鼻をすすって笑った。
「
、空
、さ?」
先ほどまでの英語とは違い、ネイティブとは少し離れているものの流れのある中国語。
『お兄さん時間ある、さ?』
背後から背後に移動した少年は、明るい髪色のままの笑顔でコムイをお茶に誘った。
見知らぬ相手に、最初から引かれていたのは、聞きなれない英語だったから。
この町に、そんな知識を持った人間はいなかったはずなのに。
それと、姿を見てからは警戒もあったが、どこか納得した。
そこには、少しの嫌悪も込み上げながら、更に邪険には出来ない理由があった。
少年の胸元のローズクロスには、見覚えがあったのだ。
【聖者の行進】
…愚者のパレード…
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