『××が剣城君にフラレたんだってー』
『えっ嘘ー!』
『ほんとだって!さっき××廊下で泣いてたしねー……』


そこまで聞いて机に伏して、腕で耳をふさいでシャットアウト。別に眠たくないけど、とにかく今は顔を誰にも見せたくないから。

妬きもちで不貞腐れた、ぶさいくな顔なんて。





なんだか今月に入ってから剣城への告白率が異様に上がったような気がする。
それは持ち前のルックスもあるしサッカーが上手でエースストライカーだからとかもあると思うけど、多分一番の理由は最初より雰囲気が丸くなったからだとおもう。
本当に最初は三角形みたいに角がピンピンして怖い感じだったけど、今は…なんだろう。数学で習った色んな形の図形を頭に思い浮かべてみる。

(十二角形みたいな?)

丸に近いけどまだカドはあるみたいな感じ。でも確実に尖った部分は丸に近付いてる。
だってこの前なんか、重たそうな資料を女子に代わって持ってあげてたし。

(あ、じゃあもうちょっと丸くして十八角形とか…)

頭の中の十二角形に更に六個の角を付け足してみたけれど、段々角の数が何個なのかわからなくなってきたからやめた。まあハッキリ言って何角形だなんてどうでもいいことだからね。


まあつまり何が言いたくて、どうして不機嫌なのかっていうと、最近ますます恋人の剣城が女の子達にモテ始めてるから。
クラスで一番可愛い子も、二番目に可愛い子も、剣城が好きなんだって。最近じゃ練習中にグラウンドに先輩方を見に来る女の子達に混じって、剣城を見に来る子だって増えてきた。
それほど女の子達の態度はあからさまだというのに。
剣城は女の子から滲み出る好き好きオーラに全く気付かない。もう、本当に、一ミリも気付かない。
そんな子達に馬鹿みたいに優しくするから『剣城くんってすっごく優しいんだよ』ってますますファンが増えてくってわけ。
もう、それくらい剣城は鈍感なのだ。

(剣城って賢いのに変なとこばかなんだよなぁ)

突っ伏していた体を起こして剣城の姿を探す。ヘンテコな髪型か改造制服のおかげか、目的の奴は直ぐに見付かった。
どうやら何かの課題をしているらしいその後ろ姿はかなり焦っているみたいだ。そういえばなんか数学の課題があったような気もしないでもないなあ、なんて。そして次の授業は確か数学だったかなあ、なんて。
後ろの連絡板にはしっかりと、『ワーク22ページら28ページをやること』って書いてある。
勿論やった覚えもなければ、22ページも23ページも真っ白のままだった。

これはまずい。

数学の先生は、宿題をやってこなかった生徒は残らせて、宿題の何倍もの課題をやらせるらしい。
急いで課題に取り掛かろうとしたけれど、非情なことに授業開始のチャイムは鳴り、更にその10秒後には教員がどってもいい笑顔で入って来るのだった。








☆・・・ ☆・・・ ☆・・・








あの 地獄のような数学の課題を終えた頃には、もうほとんど全てのクラブ生は帰っていた。勿論サッカー部もその例外じゃなく、一応グラウンドに行ってみたけれど、もう誰の姿もそこにはなかった。

「あーあぁ…」

課題で低かったテンションが一気にどん底まで落ちる。いや、ちょっとドリブル練習をするだけ。ボールを探したけれど一球も見つからない。
なんてついてない1日なんだ。

「はあー……」

今日1日分の疲れを込めて大きな溜め息を吐いた、その時だった。

「でっかい溜め息」

しんと静まりかえったグラウンドに、突然声が響いた。びっくりして後ろを振り返るとそこには、見るからに呆れた顔の剣城が、此方を向いて立っていた。

「ぅえ?つ、剣城!?」
「……課題は終わったのかよ」
「お、終わったけど…」
「じゃあさっさと帰るぞ」

そう言って学ランを翻すと、何がなんだか状態の俺を放ってたすたと歩き始め、俺も剣城に置いていかれないように慌てて後を追いかけた。

「まっ、剣城っ、…待っててくれたの?」
「……あぁ」

ポケットに手を突っ込みながら剣城はそっけなく答えた。

「おれ…遅かったのに、どうして?」
「……危ないからに決まってんだろ」

予想外な言葉に思わず剣城を見上げる。ぱっちりと互いの目があった途端、いつかの女子の言葉が脳で再生された。

『剣城くんってすっごく優しいんだよ。』

昼休みの時のモヤモヤした表しようのない感情が込み上げてきて、ぱっと顔を反らした。

「優しいんだね」

気持ちっていうか、感情を隠したり嘘を吐くのは苦手だ。今だって、不貞腐れたみたいな、可愛くない投げやりな言葉になってしまった。

「なんで怒ってんだよ」
「べーつに。ただ、そうやって優しいからますます女の子に好かれるんだよ」

剣城くんは優しいんだよーって。

ありったけの可愛くない気持ちを込めて言った言葉は、静かな夜の空気に溶けて消えた。それから暫くしてから、ひゅうっと息を吸い込む小さな音が隣から聞こえた。

「お前だって、女子にも男子にも可愛いって言われてるじゃねーか」

そう呟いた剣城の声は俺と同じ不貞腐れた子供みたいで、聞き慣れない声になんだかムズムズした。

「…っ、俺の可愛いは意味が違うよ」
「でも心配すんだよ。お前と同じでな」
「な、…」

顔を上げると、此方を見てはにかんで笑う剣城の顔があった。
剣城は気づいてたんだ。俺が女の子達にヤキモチ妬いてたってこと。

(…なんだ。)

自分のことは気付かない癖に、俺のことはちゃんと気づくなんて、ほんとなんか。

「剣城ってほんと俺のこと好きだよね」
「はぁ?んだよ、突然…」
「え、だってさあ」



「それって、俺のことで頭がいっぱいだから、自分ことまで気が回らないってことだよね。」



にれから俺はにっこりと、今日一番のとびきりの笑顔をして見せた。










/ウィスキーカモミールの唯心論
title:ごめんねママ


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見方によっちゃラストがホラーっぽい。

thanks>>> kytnカウントダウン企画




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