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「もし凛々の明星が家族だったら…ユーリはお母さんだよね」

 カロルの呟きに空間は一瞬凍った。
 旅の途中に休憩と称して街道に全員座り思い思いの時間を過ごしていた。昼の時間には早く、あと数十分歩けば次の街に着くので休憩というより息抜きに近いのだが。
 そんな中暇を持て余したのかカロルはぼんやりとしながら、先ほどの爆弾発言をぶちまける。もちろん先の説明通り空気は凍り、カロル自身もなぜか凍り、処置の施しようのない状態に成り果てかけていた。

「…どういう意味だ?カロル先生」

 もちろん答えてくれるんだろうな、と言わんばかりの空気と目線をカロルに向けながらユーリは尋ねた。せめて兄と言われるならまだしも、性別まで乗り越えられたら男として立つ瀬が無い。
 固まった空気から脱出しきれていないカロルは「うーん」と唸りながら答えをまとめてようとしているらしいが、その姿はどうにも情けない。

「でも、言いえて妙ね」

 その様子にジュディスは納得するように頷き始める。

「たしかに、普段の世話焼きな態度といいその辺の『お母さん』顔負けだし」

 リタもその隣で本を閉じ、さも当然と言わんばかりに肯定の意を示してきた。その顔は面白おかしそうに笑っている、楽しんでいるのだ。
 勘弁してくれ、という風にこめかみを押さえながらユーリは項垂れる。普段の行為がそのように捉えられているとは思わなかったせいでダメージが大きいらしい。

「で、でもユーリのおかげで私達無駄な出費も少ないですし…!」

「嬢ちゃん、そりゃあフォローになってないっしょ」

「ええと…そのですね、だから」

 レイヴンの至極真っ当なツッコミにエステルは他にも考え込む。しかし考えれば考えるほどユーリの母親と言っても過言ではない行動の数々しか思い起こされずエステルはついに…黙った。

「ってそこで黙るな!」

「やめときなさいよ、どうせ更に母親色強くなるだけだから」

「あははは、確かに!」

 リタはさも当然という顔でそう言うとカロルが大笑いを始める。その様子にユーリはニヤリと笑いカロルとリタを見た。

「…俺が母親か、なるほど、つまりその流れからいくとカロルは末っ子でリタは三女になるわけか」

「えー!!何でそうなるの!?」

「そうしかならないだろ、この話の流れと雰囲気でいくと」

「じゃあ私は長女ね」

「私は次女です」

 ジュディスとエステルは面白そうに笑いながら、どこか嬉しそうにユーリの論を認める。しかしリタはどうしても納得がいかないらしく難しい顔をしていた。

「…まあガキんちょが末っ子なのは自然の摂理だとして…なんであたしが三女になるのよ」

 憮然とした表情で言うリタにジュディスは「ふふ」と笑う。

「あら、下がしっかりしているのが姉妹の決まりというものよ」

「そうなのです?じゃあリタにぴったりですね!」

「ちょっ!待ちなさいよ!…そもそも、あたしみたいな妹なんていても…」

「そんなことないです!私、リタみたいな妹がいたら絶対に嬉しいです!」

 苦し紛れに小さく呟いた言葉をエステルは聞き逃さなかったらしい、その言葉にリタの顔が徐々に赤くなっていく。

「そっそう?」

「はい!」

「ふふ、私も同意だわ」

 自然の成り行きのような雰囲気に場は独自の空間を作り上げていく。それを周りから眺める男性陣(+一匹)はしらー、とした雰囲気が自分達の周りに出来上がっていくのが感じられた。

「なんていうか…あれだよね、僕たちには入り込めない空間だよね」

「…仲が良いってことだろ、良い事じゃねえか」

「くぅん」

 ラピードも同意し「仲が良い事はよろしいこと」ということで解決されかけた、がその横でレイヴンは「つまり…」と呟く。

「なんだよおっさん、一人唸って」

「…しっかり長女のジュディスちゃん、ぼんやり次女の嬢ちゃん、現実主義三女のリタっち、おとぼけ末っ子のガキんちょ、お母さんユーリ」

「…ケンカ売ってんのか」

「ちょっと待った若人たちよ!」

 くわっ、と目を見開いたレイヴンに全員の視線が集まる。その視線をたしかに全身に受けながらレイヴンは究極の疑問をぶつけた。

「この一家の流れからいくと…俺は何役!?」

「父親かしら」

 ジュディスの(あまりにも地雷すぎる)爆弾発言がさらりと投下される。しかしレイヴンは不満と言った顔でそれを否定した。

「ジュディスちゃんひどい!おっさんはお兄さんじゃないの!?」

「…寝言は寝て言うものじゃないかなレイヴン」

「ほほぉ、言うようになったわね少年…」

「ガキんちょに賛成、ていうかおっさんはアレでしょ、近所のおっさんでしょ」

「すでに血縁者でものないの!?」

「わん!」

「犬っころは黙ってなさい!」

 カロル、リタ、ラピードの他人発言にレイヴンは「ブレイクハートだわ!」と叫びながら胸を押さえる。しかし全員の反応はいたって冷たいものだ。ユーリはすでに剣を持ち出発の準備を始めているのだからその空気の冷め方は尋常ではない。

「嬢ちゃん!おっさんはやっぱお兄さんよね?」

「え?ええと…ええ、あのぉ…」

「いいのよエステル、無理すること無いわ」

 反応に困るエステルをリタは手を掴み引っ張る。良心の塊とも言えるエステルにすらまともな答えをもらえずレイヴンは愕然とした。ぐるんと横を向き伸びをしているユーリに今度は標的を変える、もちろんまともな答えは期待していない。

「若人!どう思うよ!」

「安心しろお前は確実に父親にはなれねぇ」

「そこじゃねーわよ!」

「おーし!んじゃ行くかー」

「無視!?おっさんイジメ良くないと思わない!?」

 叫び続けるレイヴンをよそに全員が立ち上がり次の街への道を進み始める。置いていかれたレイヴンはがっくりと肩を落としトボトボとその後をついて行った。
 父親は虐げられるもの、その意味を改めて知った気がした。


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