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※全て完全捏造の四年後設定。



 いつかまた、道が交わるその時まで、彼らは戦うだろう。

 そう締め括られた物語を読み終えて、沙那はため息をついた。
 ロゴスとレヴィナスの戦いが終わり、階級の枠組みがなくなって四年の月日が流れた。半壊状態になった日本は、今や日本国の代表となった司馬の努力と呼びかけにより、かなり復興した。それでも長年の鎖国体制や、軍事国家として独立していたあおりを受けているため、世界中からの風当たりが強いのは変わらない。
 四年の間、沙那は司馬の援助を受けながら、ピアノを学んでいた。けれどただ無意味に学んでいたわけではない、沙那はロゴスとレヴィナスの垣根がなくなった日本を回り、チャリティーとしてピアノ演奏をしていた。最初はロゴスの人間の気まぐれだと酷い誹謗中傷を受けたが、根気よく話し合い、ピアノを弾き続けるうちに、自然と沙那を受け入れてくれる人々が増えてきた。今では依頼で遠くの地方まで飛んでいくような毎日である。それでもたまの休みには、今のようにゆっくりと本を読んだり、ピアノの練習をしたり、心のゆとりが持てるような緩やかな毎日であるのも事実だった。
 本を閉じて、窓の外の太陽を見つめると、その眩しさに自然と目を細めてしまう。

「丈、どこにいるんだろう」

 自分の足で世界を歩く、だからさよならだ。そう言う感情の起伏がほとんどない黒い目が今でも思い出せる。彼を取り巻く静かな空気を、今でも感じることができる。たったの数カ月しか一緒にいなかったのに、丈と仁と過ごした時間は沙那にとって、かけがえのないものだった。仁が最期どうなったかは知らない、結局丈が詳しいことを教えてくれなかったからだ。けれど彼の最期に丈は立ち会ったとだけは聞いた、涙を流して悲しんでいたとごらが冗談混じりに話したからだが、それを聞いて沙那は少しだけ安心をしたのを覚えている。一人ではない、きっと仁は孤独に死んだわけではないだろう、と。

「今、何してるのかな」

 丈は仁の最期を看取って、悲しくはなかったのだろうか。丈は今孤独ではないだろうか、そんな不安が最近、少しだけ芽生えてきた。
 意外と楽しくやっているのかもしれないと考えもするが、あの無愛想で無口な彼が、はたして周りと楽しくする気概があるだろうか。
 ないかもしれない。
 ふう、とため息をついて読んでいた本を開く。いつかまた道が交わるその時まで。
 ありきたりな冒険ファンタジー小説に、沙那は自分たちを重ねた。
 司馬もレニーもごらも丈も自分も、今では自分の道を歩いている。結末が書かれていない小説のように、この先はわからないけれど、わかってしまったらつまらない。

「また、会えるよね」

 本当は会いに行きたいし、会いに来てほしい。まだ四年、されど四年、これから先の数十年。沙那は再会できる未来を夢見て、そっとピアノに触れる。
 ポーンと、高い音が一つ響いた。




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