空想レター | ナノ


 氷帝学園は大きい、だから植えてある桜の木の数もかなりの本数があり、それが列を成して満開になる姿はいつ見ても圧巻の一言に尽きる。
 朝早くに登校してぼんやりと見上げれば散り始めた桜が顔にかかる。
 手で払い除けて、落ちていく桜を目で追えば、地面落ちた花びらが石畳を美しく染め上げていることを気付いた。
 人はこれを絨毯のようだと言うが、私にはもっとキラキラした美しいもののように思えた。


『桜が絨毯みたいになってキレイでしたね。』

 相変わらずきっちりとした文字でそんなことが書かれていた。
 今日は月曜日だけれど、果たして先週末には散っていただろうか。

「神原さん、どうかした?」

「…ううん。なんでもない」

 クラスの子が首を傾げて不思議そうな顔をするが、すぐに笑って「このページの大問がね…」と言う。
 「暇な人」のことで頭がいっぱいだったけれど、たしか彼女に勉強を教えてほしいと言われたのだ。
 あんまり人に教えるのは得意ではないけれど妙に期待した眼差しを裏切らないほうがいいのだろうと判断し、なるべくわかりやすい説明を心掛ける。
 そんな努力が伝わったのか、教え終わった後、その子は「ありがとう」と笑顔で言って自分の席に戻った。
 そして再び「暇な人」の文字を読む。

『桜が絨毯みたいになってキレイでしたね。』

 この人、字がキレイな上に「絨毯」という漢字が書けるって相当頭が良いのではなかろうか。
 でも今は桜のキレイさについて考えるべきだろう。

「…じゅうたん」

 たしかに床に敷き詰められた感じは絨毯のようだった。
 けれど太陽に照らされた美しさはもっとふわりとして、どこかキラキラしていたような気がする。
 どこかで見たことのある美しさ。

「私は」

 続きを言葉にはせずに、握ったシャーペンを走らせる。

『私には天の川のように見えました』

 書いて、恥ずかしくなる。
 ロマンチストすぎると思われないだろうか。けれど相手は私を知らないから、多少のことは大目に見てもらえるだろう。
 うん、問題ない。
 そのまま窓の外を眺める。
 相変わらず咲く桜は綺麗だけれど、多くの花びらが散っていた。





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