晴れた夜空を指差した | ナノ
屋上で地面に座り、大変不味いハズレの宇宙食をすすりながら、ぼんやりと過ごす。
不意に、伸ばした足元に自分のものではない宇宙食が落ちた。
「落ちたぞー」
拾って落とした奴に声をかけると、そいつが振り返って近づいてきた。
「ありがとうございます」
淡々とした愛想のない言葉に俺も「べつに」と返すと、そのまま再び昼食に戻る。けれどそいつはそこを動くことなくなぜかずっと俺を見ている。、
何なんだと考えているとそいつはおもむろに口を開いた。
「それ美味しいですか?」
にっこりと微笑むその顔に宇宙食を投げ付けたい衝動に駆られた。
生意気な超新星
「だからって本当に投げ付けないでくださいよ」
「手が思ったより正直者だったんだよ」
そいつ、木ノ瀬梓というらしい一年生は俺の隣に立って呆れたようにため息をついた。
「天野先輩は宇宙科なんですよね?」
「なんで?」
「いえ、先輩みたいな人も宇宙科に入るんだなーと」
「嫌味だろ、それ、ありがと」
「逆に嫌味ですか、それ」
木ノ瀬は固形の宇宙食をかじって顔をしかめる。メイプル味のぼそぼそした簡易栄養食で、一年生はその不味さにたいていは眉をしかめるのが毎年恒例の光景なのだ。
「それってアレみたいなんだよな」
「は?」
「鳥の餌」
一度崩して粉薬のように流し込んだらどうかとクラスの奴らとやったが、まるでニワトリの餌みたいになったため誰一人として口にしなかったことがあった。
そう話すと木ノ瀬はわずかに眉をしかめた。
「先輩の食べてるのはたしか、最新宇宙食とか噂で聞きましたけど」
しかし軽く無視された。
「美味くねえぞー」
「何味ですか?」
「わかんない、てかクラスで争奪戦で俺負けたし」
たしかまだ改良中で、試作品がどっかの研究所から送られてきたとか何とか。ビーフカレー味やらシーフード味やら、まともなのもあったにはあった。
「当たりっぽいのは全部持っていかれたわ」
「ああ、ハズレなんですねそれ」
「食う?」
「慎んで遠慮します」
もそもそと互いに不味い宇宙と食し、同時に顔をしかめる。
ああ、まともな昼飯が食べたい。
そう言うと木ノ瀬は「これも経験ってやつなら仕方ないかもしれませんけど」と大人なことを言う。宇宙飛行士になったら宇宙空間という閉塞環境でこれを毎日食べなくちゃならないなんて。
想像するだけで気分が悪い。
オレンジジュースをズゾゾと音を立てて飲んだ。
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