晴れた夜空を指差した | ナノ
生徒会室のホワイトボードはいつもキレイだ、書かれた形跡もないくらいにキレイだ。
多分青空あたりがキレイにしているのであろうそれを汚したくなるのは自然の摂理であるわけで。
「それなんですか?」
「んー」
「…」
「…」
「さーざえーさんさざえさん」
歌ってやっと夜久は「ああっ…え…?」と言った。最後の疑問はなんだ。
星図は確実性を要求する
何だと思ったのか、言わせてみれば「新種のこんにゃく」と言われた。
その例えが微妙すぎて何とも言えずにいると「で、でも味があると…っ」とフォローされてしまった。あまりにも無情すぎる。
「この髪型まさにだろ」
「ちぎったこんにゃくかと…」
「あ、そう。今俺の心がちぎれたわ」
「えっと…大丈夫です!先輩なら!!」
必死な表情で言い募る姿がいっそ酷である。冷静に言われても辛いものがあるが。
とりあえず置いてあったもう一本のペンを夜久に持たせる。
「お題、カツオくん」
「えっ?私も描くんですか?!」
「え?うん」
「……」
「……」
「い、いきます…っ」
ゴクリと息を飲んで夜久はカツオくんを描き始めた。
数十秒後、夜久が描いたカツオくんがホワイトボードの真ん中に鎮座していた。
そして俺は無言でそれを、写メった。
「な、なんですか!?」
「このカツオくん希少価値高すぎて写メらざるをえん」
「そんなことないです!」
夜久の描いた大家族の長男は見事な丸顔と坊主頭、そして、少女のような純粋なつぶらな瞳をしていた。
「産まれたばかりのハムスターみたいな純粋な目をした悪戯小僧、ほら希少」
「なら先輩が描いてください」
「まだ心がちぎれたままなもんで」
「い、意外と根に持つタイプなんですね…」
「そうでもない。今のは言ってみただけ」
「気まぐれですか?」
「そんなとこ」
「ぬにょーっ」
気の抜ける奇声が聞こえて俺と夜久ね肩がビクリと跳ねた、瞬間、夜久にデカイ何かが被さる。
何事かと思っていたら被さった何か、いや天羽が指を突き付けてきた。
「『犯人はお前だ』?」
「ぬぬぬ違う!ずるいのだ!」
「はあ?」
「だらりんちょばっかり書記といちゃいちゃして!」
「ちょっ翼くん?!」
「俺が夜久といちゃいちゃねぇ」
「何ー!?」
今度は何だと溜息吐いた瞬間、後ろから両肩を掴まれる。
「天野お前生徒会室でんなことんやってやがったのか」
「うっせーしかも勘違い甚だしい」
すごい形相で睨んでくる不知火を落ち着かせるように、肩を掴んでいる手を軽く叩く。しかし不知火はさらに力を込めて握ってきた。痛い。
「痛いんだけど」
「お前は…お前はそんな奴じゃないって信じてたんだぞっ」
「ああそう。でもべつに夜久に興味ないしなー。好みも違うし」
そこんとこよろしく、と言えば室内の空気が固まる。やっと理解したかと静かに不知火の手を肩から外した。
「理解した?」
「お、おう」
「ん、何より。じゃあ俺帰るわ」
ソファーに置いていた鞄を持って茫然とする三人に手を振って生徒会室を出ると、携帯を取り出す。
そこには夜久が描いた乙女チックなカツオくんがいた。
消すのも面倒と思い、そのまま携帯を閉じる。
さあ帰ろう。
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