晴れた夜空を指差した | ナノ


 初めて会った時、ケーキを食べながら無言で睨んでくる後輩を見て心底思った。

「これがツンデレか」

「違うと思うよ」

 素早く否定した金久保を見れば困ったような苦笑をした。
 ナチュラル・金久保誉がツンデレを把握しているというのは何事か。
 動揺する俺に後輩、宮地はなぜか席を勧めてきた。
 これが一年前の出来事だ。





 俺は甘党だ。
 いや宣言するほどのものではないけど、甘いものはわりと好きで結構食べる。
 とはいえ辛いものも好きだから辛いお菓子もよく食べる。割合は甘:辛で6:4くらいか。

「でもこれはないと思った」

「そうですか?」

 大量のケーキを食す宮地に、俺は思わず口を覆う。
 初対面の時はケーキ一つを頬張り満足そうにしていたのに、今では食堂のおばちゃんに頼んでケーキオンリーのスペシャルセットを作ってもらうまでに至っている。
 ここまでくれば執念以外の何物でもない。

「俺は物足りないですが」

「我慢しろよ弓道男児」

「む…」

 もそもそといつもの宇宙食を食べる。今日は固形物(といってもメープル味の味気ないパンだが)があるから、いつもよりマシな食事な気がする。

「先輩は物足りなくはないですか?」

「米食いたい」

「それは…でしょうね」

「宮地は米食いたいとかなさそうだよな」

「いえそんなことはないです」

 きっぱりと言われてしまうが、ご飯に生クリームをかけて食べる姿が想像出来てしまうのは俺だけだろうか。
 マヨラーは何にでもマヨネーズをかけるようなものを考えてしまうわけだが。

「なあ、白米に生クリームってかけたり」

「そんなことはしません。クリームに対する冒涜だ」

「へー、んじゃ何につけるわけ?」

「…目玉焼きとか、ですね」

 わからん。
 どう違うのかがわからない。もしや付け合わせ程度に嗜むのが流儀だとでも言うつもりか。
 悶々と悩む、と横に影が落ちた。見上げると想像より高い位置に顔があって、微妙に圧倒される。

「金久保じゃん」

「部長」

「ふふ、楽しそうだね。僕も混ぜてもらって大丈夫かな?」

「もちろんです」

 当然のように宮地は席を勧める。俺はというと金久保の左右背後を確認しつつ、大熊座定食を食べる。

「安心して、一樹も桜士郎もいないから」

「安心したわガチで」

 ほっと息を吐いた。
 それに宮地は不思議そうな顔をする。
 こいつにはわかるまい。先日のオリエンテーションキャンプ最終日、肝試しで俺が後ろにこけた時、ドミノ倒しよろしく二人が俺に押し潰されたなど。

「あいつらネチネチしつこいんだよ」

「すぐに忘れるよ」

「ホントか」

「多分ね」

「曖昧な表現どーも」

 金久保なりの優しさなのか嫌味なのか、結局嫌な予感しかしない。
 そんな俺に苦笑しつつ金久保は魚座定食を食べ、宮地はひたすら理解できないという表情を浮かべる。
 こいつの素晴らしいところは目上に対して余計な詮索をしないところかもしれない。


 この五分後、いきなり現れた白銀に妙な難癖をつけられ、揚げ句の果てにはすべてを知った宮地に可哀相な目で見られた。
 厄日だ。




晴れた夜空を指差した

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