晴れた夜空を指差した | ナノ


「天野はとことん興味持たないよね〜」

「何が」

 そいつはくひひ、という独特の笑い声を漏らすと顔を近づけてきた。

「例えばマドンナちゃんへの対応。ものすっごい素っ気なかったんデショ?」

「近ぇ」

「こないだの冬の星見会も…あー、これは前からか」

「とくにゴーグル近ぇんだけど」

「あと今の会話」

 何が言いたいのかがわからない。けれどそいつは「くひひ」と笑うだけで解答をくれなかった。





 白銀桜士郎という奴と出会ったのは何てことはない、不知火とツルんでいたら自然と絡む形になっただけである。
 今では暇な時に無駄話をする程度には友達といえるかもしれない。

「いまさらだけど、天野って細かいことも気にしないよね」

 新聞部の部室らしい、教室の椅子に座り白銀は喋る。カメラ片手に器用なことをする男だ。

「へぇそう」

 同じく椅子に座り、足を机の上に乗せて俺は返事をする。手にはDSがひとつ。

「やることも適当で、発言も適当」

「あぁそう」

「去年の体育祭も、クラス対抗リレーで適当に走っててクラスメートにぼこられたり」

「ふーんそう」

「今も適当に会話してるし」

 何だか楽しそうな白銀を見ると、思いっきり悪そうな笑顔をしていた。とはいえいつもゴーグルをしているから、怪しさと変態さという悪い印象だけは百点満点だけれど。

「適当っつーのはだな、適度にという意味なんだぞ」

 いつぞや保健室の主が言っていたことを思い出しながら喋ると、何が気に入らないのか白銀は俺のDSを引ったくる。
 なんだこのデジャブ。

「返せ」

「ゲームは好きっと〜」

「悪趣味な他人観察やめろガチキモい」

「くひひ、最高の褒め言葉どうも〜」

 ダメだ本気で褒め言葉と受け取っている。こういう時の白銀は放っておくにかぎる、と俺は携帯を取り出してぶよぶよを始めた。

「あ、諦めた。がっかり」

 そう言いながら別にどうでも良さそうな空気醸し出しているのは気のせいですかね。
 なんて思いながら携帯のキーをいじくっていると、教室の扉から誰かが入ってきた。

「お、天野ここにいたか」

「現在電源が切れているか電波の届かないところにおります」

「新しいねぇ、その拒否」

「おい天野、無視するとはいい度胸だな」

「だから特定の電波がたまに視界に入らないっつってんじゃん。…あ、連鎖ミス」

「だーかーらー!ゲームやめろ!!」

 そんな叫びとともに俺の手から携帯が消えた。見上げると不知火が得意げに笑っている。
 どいつもこいつも何故俺の楽しみを奪うのか。
 今すぐふて寝したい。

「帰るから携帯とDS返せ」

「ほい」

 白銀は飽きたようにDSを投げ返してきた。しかし不知火はまったく返す気配がない。

「今すぐ生徒会室に来い」

「うわあ…くると思った」

「いいから来い!」

 ぐいぐいと襟首を掴まれて椅子から転げ落ちるとそのまま引きずられ連れていかれる。

「じゃあね〜」

 白銀は優雅に手を振っていた。奴め、面倒を予感して逃げやがったな。いつもならノコノコ着いてくるというのに。

「いっぺん地獄に堕ちろ腐れゴーグル」

 仕方ないのから俺も悪態を吐きつつ手を振っておいた。


 パチンパチンという音を響かせながら、俺と天羽は黙々とホッチキスを握り冊子を作っていく。
 いきさつの始まりは、まず天羽がまた発明品を爆発させたらしい。それに怒った青空が罰として全生徒に配る冊子を作るように命じた。
 しかしあまりの量に夜久がフォローした結果、生徒会員以外で一人手伝いを呼んで良いということになり、俺が拉致されたとか。

「ぬー…ん」

「しょぼくれた声出すな、俺がしょぼくれたい」

 不満そうな、残念そうな天羽の後ろにはすっごい笑顔の青空がいる。どれだけすごいかというと腹黒さを隠そうとしないレベルの笑顔である。

「天羽、俺巻き込むなよマジで」

「ぬいぬいがだらりんちょは暇人だって言ってたぞ」

 まただ。どうやら再び余計な知識を与えたらしい不知火を見れば、しらっとした態度で会長らしく書類なんぞを読んでいた。

「おいお前、俺をどうおとしめるつもりだ」

「えらい言い草だな。だいたいさっきだってゲームしてただけだろ」

「馬鹿言え世界を救うという大役をこなしてたんだ」

「ボケモンはどうしたんだよ」

「世界を救って平和になった」

「だらりんちょは勇者なのか!?」

「二次元ではな」

 あとは図鑑を埋めるだけなんだけどな、と言ったら不知火に鼻で笑われた。奴がそんなことするとゲーム反対派の中年オヤジに見えるから不思議だ。

「三人とも、楽しそうですね」

 背中に冷ややかな声がかかる。振り返ると青空が小さい黒板を抱えて立っていた。

「待て颯斗!今してるだろ?ほら!!」

「そらそら俺サボってないぞっ」

「え、俺?」

 と呟いた次の瞬間には不快な音が生徒会室に響いた。

「ぐあっ!」

「ぬぐわぁ!」

 不知火と天羽が同時に悶絶する。耳を塞いで身体をくの字に曲げるというベタな光景。

「天野先輩は平気なんですね」

「好きじゃないけど、まあ」

 耳の後ろを掻きながら答えると、青空が心底残念そうな笑みを浮かべて「そうですか」と言った。こいつほんと黒いな。
 未だ苦しむ不知火と天羽を、はじめて可哀相と感じた瞬間だった。




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