晴れた夜空を指差した | ナノ
頭を抱えた担任がうなだれる。
そんな光景を見ながら俺はどうしたものかと思案する。
「天野、お前の頭ならT大とまではいかなくてもK大までなら余裕だし、W大も行けないことはない」
「はあ」
「それに留学制度のあるS大に行けば宇宙についてさらに学べるぞ。そもそもアメリカの大学にだって行けないことは…」
「そっすかぁ」
「…お前さん、ちゃんと考えてんのか?」
担任の声には疲れのようなものが混じっていて、それだけ自分は悩みの種なんだなぁ、と楽観的に考える。
状況はあまりにも最悪だが。
君の一番星
まだ四月なのに進路調査表なるものを配られた。
俺はまだ何も考えてないから「まだ、わかり、ません、(=・w・=)♪」とわざわざ言葉を区切り第四志望欄まで埋めたのに担任に呼び出された。
なんという不幸だ。
「バカお前もっと真面目に考えろや。つか何この顔文字。流行ってんの?なあ流行ってんのか?」
「わりとかわいらしいっしょ」
「叩かれたいのかおバカめ」
「先生に生徒を叩く趣味があるとは驚きです」
冗談で言ってみたら本気で腹を立てたらしく、頭を叩かれあげく職員室のど真ん中でめちゃくちゃ怒鳴られた。踏んだり蹴ったりだ。
「中瀬先生、どうかしましたか?」
横からの声に見下ろすと、陽日先生がきょとんとした表情でこっちを見ていた。
「陽日先生…いやコイツに進路指導をしてまして」
「ちょっと中瀬先生の性癖についてツッコんだ話してただけであいたっ」
「天野お前黙っとけ1デシベルも音を出すな」
「センセ横暴過ぎるだろ」
無茶苦茶を言う担任に文句を言うと、いきなり何を思ったのか陽日先生に俺の進路調査表を渡した。
「陽日先生、あとは頼みました」
「へ?」
「これから三年教師陣のみの会議があるんです。天野、逃げるなよ」
担任は俺に釘を刺すと自分はそそくさと逃げていった。残された俺と陽日先生は呆れたようにため息をつく。
「天野…だよな?久しぶりだな」
「あー…去年の選択授業以来?」
二年生の時に選択授業で天体物理学を取っていて、その担当が陽日先生だった。といっても選択は十二月までだからそれ以降会っていない。つまり四ヶ月ぶりになるのだ。
「もうそんなに経つのかぁ。どうだ?まだ天体物理学に興味あるか?」
「まあボチボチ」
「でも進路より興味はあるだろ」
そう言うと進路調査表を見て「うわありえね」と呟いた。
「顔文字が?」
「問題点がありすぎてツッコミづらいわ。しかしま、中瀬先生もこれは困るだろうな」
陽日先生は中瀬先生の机から進路関係の資料集を掴むと、それをめくり始める。
「宇宙科って大体進路早く決まるもんだし」
「マジでか」
「マジだ。やってる授業がとくに専門的だから、ほとんどの奴らがさくっと決めるんだよ」
中瀬先生に聞いた話だけどな、と言って、資料集のあるページを見せてくれる。
「宇宙飛行士になりたい奴は留学、工学系は日本の大学から留学かここ卒業してすぐアメリカに行く奴も多い。天野は…」
「斜め上の工学系」
「ああ…お前くらいだよ、科学と天体物理学とビックバンを絡めて学者に熱く語るのは…」
呆れたような笑顔の陽日先生の脳内には、以前俺がお偉い学者さんと意気投合した姿が思い出されているのだろう。
「あーあの教授んとこで研究してー」
教壇に立った途端「アロハーキィエェー!!」とか叫んで、あまつどっかの民族みたいな服装をした変人奇人だけど、宇宙工学についての思想には単純に憧れるし。
「それだ…」
「んあ?」
渡された資料集に目を通していると陽日先生は急に立ち上がって「それだー!!」と叫び出した。
「なんすか、ビビるんだけど」
「何っておまっ、それ書けよ!顔文字じゃなくて、それを書けよ!!」
「いや、俺あの人の連絡先っつかどこの教授なのかも知らないし」
「んなもんは中瀬先生に相談するなりすればすぐにわかるわ!」
いきなりハイになった陽日先生に若干引く。多分この人の中ではかなり物事が進展しているのだろうなあ、と想像をつける。
「連絡先とかどこ勤めかは知らないけど」
「な、なんだ?」
「確実に日本勤めじゃないってのははっきりしてる」
シーンと、あまりにもわかりやすく陽日先生が静かになった。顔があからさまに「こいつを海外へ?」と物語っていたことはあえてツッコむまい。
この後、中瀬先生が帰ってきたので(陽日先生も交え)腰すえて話した結果、変人学者に連絡してもらえることになった。
「おー天野どうした?」
「何だか元気がないね?」
「不知火、金久保、俺なんか日本飛び出すみたいだ」
「え?」
「…今日はエイプリルフールじゃないぞ」
「不知火は今すぐ爆発してくれ」
友人にすら信用されないとは。
とりあえず英語の勉強をしなければならないのは確実だろう。
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