晴れた夜空を指差した | ナノ


 両手に持った巨大なゴミ袋、合計三つを持ち直しながら階段を降りると、見知った長身の男子と女子がいた。

「お」

「あ」

「え?」

 俺の出した声に釣られたのか、二人ともこちらを見て声を出した。シンプルな色合いの弓道着が目に眩しい。

「やあ天野」

「おー金久保、相変わらずデカイなー」

「そうかな?」

「そうだよ。えーっと、そっちは」

 首を捻る。果たしてこの子の名前は何だったか。

「相変わらず人の名前を覚えるの、苦手なんだね」

「あー、まあ。申し訳なく思う」

 素直に謝るとその子は焦ったように「いいえ!」と言った。いい子である。

「夜久月子です」

「そうだ、ヤヒサだ」

 よし、今度は忘れないぞ。





 弓道場に向かう途中だったらしい二人は、優しくもゴミ捨てを手伝ってくれた。理由を聞けばどちらも曖昧に笑うだけではっきり言わないが、よほど俺がだるそうにでも見えたのだろう。たしかに一度だけ途中でゴミ捨てをボイコットしたことはあるが、あれは一年も前のことである。
 しかし手伝ってもらえるのはありがたいので、三人並んでゴミ捨て場に向かう。

「弓道は精神競技?だっけ?すごいなー、俺そういうのダメ」

 二人の弓道着を見てしみじみと呟く。

「それ前も言ってたよね」

「んじゃ夜久に言ったつーことで」

「そうでもないですよ。それに私は思い描いた矢が撃てるようにいつも必死ですし」

「うん、だからいつも君の矢は真っ直ぐなんだね」

「そ、そんなことないです」

 金久保に褒められて真っ赤になる。真面目な上に謙虚という、まさに絵に描いたような女の子だ。

「天野先輩は何か部活動はしてないんですか?

「帰宅部」

「それは…部活と言わないんじゃ」

「帰宅することが活動かなー」

「よく聞く理屈だけど…まあ間違ってはない、かな」

「あ、じゃあ少し弓道をしてみませんか?」

「…疲れることは嫌だ」

 キラキラした夜久の目に「面倒臭い」という言葉が言えなかった。そんな俺の心情を理解してか、金久保は生暖かい笑みをくれた。
 ゴミ捨て場にゴミ袋を投げ入れて、欠伸を一つする。
 二人は今日の練習メニューやらなんやらの話をはじめた。

「部活あんのに手伝ってくれてあんがとな」

「べつにいいよ、これくらい。それに」

「それに?」

「天野は前科があるから、ちょって心配だったしね」

「はははー」

「…前科、ですか?」

 不思議そうな顔で頭を傾げる夜久に金久保は曖昧な笑みを浮かべる。説明しづらいってか?だろうな。

「ま、今日は二人のおかげで罪を重ねずに済んだわな」

「ふふ、どういたしまして」

 柔らかく笑う金久保と、意味がわかっていないだろうが「全然構いません」と言う夜久にもう一度礼を言うと、教室に戻るために足を動かした。
 この後、ゴミ捨ての任務を無事完遂した俺はクラスの奴らに「奇跡だ!!」と叫ばれた。
 本気で失敬な奴らである。



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